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2話 コンビニの外の世界

基本的に木製の出店の中に黄色と白の縞々で目に刺さる光量を放つその建物は目立って当たり前だった。むしろ入って来たのがさっきのゴブリンだけなのが今となっては逆に不思議だったのかもしれない。


「ちょ……ちょっとちょっと紫さん!!」


俺は慌てて店の中に戻り勢いよく事務所を開けた。紫さんはわかばを吸いながらネットサーフィンをしていた。


「見てくださいよ外!なんか変なとこに移動してしまって。ってここネット使えるんですか」

「なんだよ、人を事務所に追いやったと思ったら今度は騒ぎに来て。わしゃお前くらいのガキがうるさいから息子とも縁切ったんだよ。ネットくらい使えるだろうよそりゃ」


さらっと重いことを聞いた気がしたが受け流し、自分もスマホを開いてみる。普通に使えた。

あれ、これ作品が作品ならこれで無双できるじゃん。ともかく。


「ちょっと来てください!」


腰のひん曲がった婆のしわしわの手をとり、外へ連れ出してその異様な光景を見せる。


どひゃあ!なんだいこりゃあ!


そんな言葉を待っていたが予想とは真逆の反応だった。


「なんだ。変なとこに来ちまったのか」

「え、驚かないんですか。よく見てくださいよ、いくら老眼で遠く見えなくても分かるでしょ。あのでかい顔が犬のやつとか翼生えてる人間みたいなやつとか」

「だからなんだってんだい。これだからゆとり生まれは。こんなんよりバブルの方がよっぽど異次元だったよ」


どんな世界だったんだよ、バブル。


「用はそれだけならわしは戻るよ」

「戻るって。なにするんですか」

「掃除に決まってんだろうがよ。まだ業務残ってんだから。お前もあんまり業務中にサボってると上にチクるからな」


婆は店の中へ消えていった。こんな状況でも仕事を優先する婆はこの年金暮らしのぬくぬく団塊世代は見習った方がいいキャリア婆に違いないだろう。ただし、人間関係の構築はジェンガさながらの難しさなのだが。

とはいえ。

正直こんな中でまたあのゴブリンのようなモンスターが来て毎回強盗に出くわしたくらいハラハラはしたくないので擬態できそうなエルフに紛れて出店を闊歩することにした。


「今ならこのバナナが3千円だよ!!お安いよ!」


バナナを1房持ってそう豪語するライオンのようなモンスター。ゴリラじゃないのか。

しかも、3千円とはインフレにも程がある価格設定。それとも偶然円で言っているが、認識に違いがあるのか。


「はーい、今なら飲み放題5万円からだよ!どうだい、昼間から飲んでかない?兄ちゃん」


ジョッキ片手に狼男から話かけられたが日和ながら足早に通り過ぎる。

そして店のあたりを抜けると住居の形式の建物がずらっと並んだ場所に出た。さっきまでの人通りからだいぶ落ち着いた場所だった。


「ここは。見るからに異世界って感じだな。木造の家がほとんどない」


しかも服装も裕福な服装からみすぼらしい恰好のもの。武器を常備している者の割合。治安の悪さも伺えた。なんならこの辺は日没以降は出歩かない方がいいだろう。


「そうだ、俺もなにか武器を手に入れなきゃな」


せっかくなので武器屋に立ち寄ってみる。全身フル装備の男がカウンターにいた。

目立った装飾はなく、腰に龍の絵が描かれたエプロンを巻いている。体も細目でとても強そうには見えないが、下手なことは出来なさそうな静かな殺意が出ている。


「こんにちは」

「……」


店主は顔もアーマーをしているため表情が読めない。よく見ると部屋の隅でネズミが何匹か泡を吹いて倒れている。いつもならそんな店に立ち寄らないが護身用に武器は必要なので背に腹は代えられない。


「おすすめの武器とかありますか?」


おそるおそる聞いてみる。もし万が一なにかしてこようものなら全力で命乞いしてやる。

その気概を感じ取ったのか壁に立てかけてある長身の刀を首元にチラつかせてきた。


「武器っていう者はそれぞれ役割がある」


露骨に怯んでしまった俺に触れることなく話を続ける。


「例えばこの刀は人を切るためにあるな、しかしシンボルにもなるんだ。例えばあんたがこの刀で何かを成したとき。今はなんてことないその辺の刀だがこいつは英雄の剣になるのさ」


鎧の男は続いて小さな箱を持ってきて、それを開けた。中には短剣がおさまっていた。


「次にこの短剣だ。短剣っていうのは自由な武器なんだ。背後に忍び寄って相手の急所を狙うことも出来れば、大勢の軍を先導することも出来る」


本来の異世界転生者はこういう場合長身の刀を選ぶのだろう。特に『英雄』なんてこのタイミングで例に出されたら自分がこの物語の主人公だと思い込みその選択に拍車がかかるのは当然だ。


だが俺はそんな気持ちになれなかった、というよりかは転生もの特有のスキルも持っていなければ最強の従者が仲間にいるわけでもない。なんならもう数年で介護になりそうな年寄りの婆が付いてきてしまっている。そんな状況で英雄のチャンスを感じれるほど俺はロマンチストではなかったのかもしれない。


「この短剣はいくらですか」

「20万円だ」

「今諭吉1枚しか持ってないな。しょうがないか」


財布の中身を漁るが、諭吉1枚だけが寂しく顔をのぞかせていた。それを店主は見つけると声を張り上げた。


「それ、もしかしてユーキチか」

「はい、20人もはいないですけど」

「20人もいらないさ。こいつは間違いない。あちらの世界の住人が持ってくる希少価値の高い通行証だ。この短剣と交換しないか」

「いいんですか」


店主から短剣を渡され手に持ってみてみる。生きてて家事すら碌にしない、コンビニでも揚げ物メインな自分にとって刃物の良さなんてわかるわけもなかった。

まあとりあえず護身用だ。

ベルトももらい、腰に短剣を差して店を後にした。


「あんた異世界人なら気をつけな。分かっていると思うがこの辺の治安はあまり良くない。とにかく強い奴を側に置くことだ」


去り際にそんなことを言われた。

今思えばあのゴブリンはかなり話が通じた部類だったのかもしれないな。


ふとその忠告から嫌な想像がよぎる。

「紫さん、大丈夫かよ」

急いでコンビニへと走った。


「紫さん!」

「なんだい、お前。数時間いなかったからその分上にチクっとくから」

「上って。この世界にいるのかそもそも」


そんなツッコミをしたところで、もう一人異質な存在に気付く。

コンビニには似つかわしくないピンクのドレスの女性がいた。

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