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1話 コンビニ、異世界へ転移する

チーン、チーン。チーンチーンチーン。


「わかっとるわい!お前はわしの主様かなんかなのかい!?」

「す、すみません!」


厨房から血相を変えて出てきた婆に腰の低いいかにも気の弱そうな男性が怯んで小さいガムの箱を大量に落とす。ガムの箱はカウンターを無造作に転がり、地面にもいくつか落ちた。


「お前、この箱1つ20円になりますが、本当にこれ全部購入しやがるんですかい?ああん?」

「ひぇ……1つで大丈夫です……」

「だよなあ。ここは駄菓子屋じゃねえ。コンビニなんでね。どちらか言ったら支給欲しいもんを買う場所なんだよ。風船膨らましながら今一度考えな」

「は、はい!ごめんなさいぃ!!」


男性は20円だけ置くとそそくさと店を出て行った。その後訪れる静寂。別に夜間でもないがこのコンビニは割といつも閑散としていた。その原因は言うまでもなくこの婆のせいであった。


「紫さん。困りますよ。そうやって客脅されたら。売上ノルマ切り続けたら本部経営に切り替わって自由効かなくなるのわかるでしょ」

「わかってるよ、そんなことは。これはわしにとっちゃ1つの復讐でもあるのさ。無茶苦茶なシフトを組むオーナーへのな」


そう言いながらカウンターの下でわかばのタバコを吸い始める婆。その場所は報知器が反応せず、カメラにも映らないとのことだが、実はもう一台ある隠しカメラでバレバレだ。


そんなどうしようもない婆こと、武部(たけべ)(むらさき)。このように性格に難があるため、客からも同じ店の店員からも嫌われており、唯一NGを出さない自分とばかり組まされている。


そんなNGを出さない俺は秋内(あきない)才雄(さいお)。2か月くらい前まで大学生だったが、この秋無事二回生で単位を落とし切り、無事フリーターへとジョブチェンジを果たしたところだった。


オーナーにはそこに目をつけられ、この婆と組む代わりに時給50円アップの提案をされ、それに乗っかる形になった。


婆は本来ならクビになるところだが、このコンビニは人手不足もいいところで俺と婆でシフトの3割を埋めているのでなかなか切ることが出来ない。もはや半分住んでいるといっても誇張表現ではないだろう。


「それよりあんただろ、ベル置いたの。次やったらタダじゃおかねえからね」

「勘弁してくださいよ。裏のドリンク補充行っている間紫さん裏に引っ込むじゃないですか」

「わしが何しようがわしの勝手だろお?あんたわしの3分の1も生きてないのに指図するってのかい」

「はいはい。分かりましたよ」


少し問答をしたがきりがないので再びドリンク補充に向かうことにした。

その時だった。

外が急に暗くなった。

いや、厳密には時間が急にシークバーを動かして場面が切り替わったように遷移したような錯覚を覚えた。

そしてなにより。


店に入るチャイム音と共に入ってきた者に唖然としてしまった。それはまさしくゴブリンだった。


「なんだここは」


深緑の身体に布面積の少なめの服で入ってきた自分より少し低めのそいつは辺りを物珍しそうに一瞥する。

自分たち人間よりどうやら店内が気になるようだった。


「い、いらっしゃいませ」


慌ててカウンターに戻り、椅子に座っている紫さんをカウンター側奥の事務所に運んだ。何やら文句を言っていたような気がするが、それどころじゃない。出会ったことない物騒なモンスターだ。もし喧嘩でもふっかけられて敵意を向けられれば背中にぶら下げている棍棒で即死まであり得る。


「どうされましたか?」

「お前ここのオーナーか」

「はい、そうですが何かお探しでしょうか」


とりあえずこの場はオーナーということにして迅速な解決を行うことにした。


「実は新しい武器を探しててな。ここはなんとなく道具屋な気がするが、何を売っているんだ」

「はい、いわゆる何でも屋でございまして、武器から今日の晩御飯まで揃っています」


とりあえず話は婆よりも通じるとわかりほっとしつつなるだけ冷静な対応をする。


「そうか。じゃあこの棍棒に変わる武器が欲しいんだが。この棍棒だいぶ使い込まれててな」


カウンターに置かれる棍棒。ところどころ傷があり、血の跡もあるがもちろん触れるわけにいかない。


コンビニというものがゴブリンに分かるはずがないのは分かっていたが自分が安易に出任せで武器屋も名乗ってしまったことに後悔する。


なにか良いものはないものか。コンビニ内を見渡すが、武器になりそうなものなどあるはずもない。

しかしすでにそう口火を切ってしまった以上今更後戻りはできない。というか機嫌を損ねさせてしまうのが怖い。


なにか。なにか。なにか。なにか。

下を俯いて考えているとカウンターの横にセロハンテープが目に入った。

これだ。


「あの……ゴブリンさん」

「アックスでいい。どうした?」


全然斧持ってないじゃないか、というツッコミはさておき続ける。


「せっかくの棍棒。これ長年使っていたものですよね。うち実は武器の加工も行っておりまして、しかもたった5分で出来ます。」

「そうなのか。この棍棒もうヒビも入っているし木だから削ったりも出来ないと思ってたんだが。なんとか出来るのか」

「ええ、出来ますとも」


そして俺はセロハンテープを棍棒に巻いていった。テープの在庫はこの際気にしている場合ではなかったのでふんだんに使ってやった。そしてぱっと見変わったメッキの入ったものに仕上がった。それを見てゴブリンは目を輝かせた。


「おお!俺の棍棒が光り輝き出した。あんた独特な加工方法を持っているのだな。お金はいくら出せばいい?」


さっそく棍棒を手に取りブンブン振り回しながら聞いてきた。あまりの迫力に壁際に寄り掛かる。


「お金は……今回は初回ということでタダでいいですよ」


命が助かるならなんでもいいと心から思った、それにゴブリンの経済観念が分からない中いくらかふっかけるのも恐ろしかった。


「本当か!なんていいことだ!ありがとうな」


ゴブリンはうきうきで帰っていった。小さなお店に平和が訪れた。

それにしてもさっきのゴブリンは何だったのだろう。もしあんなのが外を歩いているなら今頃騒がしいはずだが。

気になった俺は恐る恐る店の外に出てみた。そこには見たことないモンスターたちがぞろぞろ歩いていた。

旧時代的な出店の中に人工物感満載のコンビニエンスストアが異色を放って聳え立っていたのだった。

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