表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
セラの森  作者: 奥森 蛍
10章 ヴーア
68/75

第68話 レティスの愛

 セラの出生の秘密、セラはそれを精霊王の傍らで聞いた。

 十七年前、一人の女性が突然小舟でこの地に迷い込んだ。名はレティスといった。不思議な美しさを持った得体の知れぬ女性だったという。


 ヴーアは最初レティスを追い返そうとした。だが、レティスの腕には虐待されたような跡があり、とても疲弊している様子でこのままでは命が危ないと判断した老人は彼女を暫く世話することにした。元気になったらこの地を離れるよういい聞かせればいい、そう判断してのことだった。


 レティスを精霊王に会わせたのはレティスの美しさに心酔した混血児の青年だった。この世界の秘密を見せよう、そういってレティスを誘ったのだという。凍りついた心臓を初めて見たレティスがどんな気持ちを抱いたかは分からない。だが、それはほとんど恋慕の情のようなものだったのだろう。


 それからレティスは精霊王の元へと一人で通うようになった。


 御元に一日中座り、眺めては楽しげに言葉をかけていたという。老人はいつだか、王はおしゃべりにならない、と声をかけた。するとレティスは笑んで「わたしと話すのを楽しみにしていらっしゃるわ」といった。


 結局どういうやりとりがあったかは老人たちも分からなかったという。何しろ混血児である老人にさえ途絶えた精霊王の心は読めなかった。


 だが、レティスは子を身ごもった。その後男子が生まれ、その子がセラだという。


 レティスは子を精霊王の子だと主張した。だが、ヴーアは認めず、精霊王を恥辱する行為としてこれを糾弾した。


 子を殺せと主張する者も多く、レティスはそれを恐怖に感じて子を連れてこの地を去った。それが老人の知る真実だ。


「あなた様の文様を見ました時に、レティスのいっていたことが本当なのだと我々は悟りました。敬愛すべきお子と女性をこの地から追い出した。我々はどのように罪を償うべきか」


 セラは手の甲の文様に触れた。


「その文様は精霊王を象った聖なるものです。この地では古くから知られている物。レティスが子を成したと知った時、誰もが嘘であると疑った。ですがあなた様の文様、大地を揺るがす程のお力を目にした今、これだけは確実に言える」


 セラは精霊王を見上げた。


「あなたは王が最後に残した光です。この世界を救うためにこの地に王が招かれたのです」




 老人は期待の籠ったような眼差しでセラに呼びかけた。


「王位を継がれると理解してよいのでしょう」

「確かに招かれた、でもそれに応えるつもりは初めからない」


 老人は皮膚に押しつぶされそうな目を全開に見開いて叫んだ。


「それでは世界にヴーアのように冬が来る!」

「あんたはオレに一生心臓になって、暮らせというのか。愛する家族とも言葉を交わすことなく」

「ヴーアがそばにおります」


 手を組んで拝むようなポーズをするので感情が逆立つ。苦言を呈しようとしたらトニヤが声を上げた。


「でもボクはヴーアじゃないんです。そこって取っても大事でしょう。無視出来ないでしょう。精霊も見えない、話すことだって出来ないんです」

「王とは寂しいものです」

「セラは王じゃありません!」


 トニヤの叫びをかき消すようにもう一回大きく心臓が音を打つ。間隔がずいぶんと開いていた。壊死が始まっていないだけ奇跡というものだろう。


「王がみまかり世界に生き血が途絶えれば、大地は鬱血して腐敗します。精霊が姿を消すのです。そのように恐ろしいことが……。この星に誰も生きてゆかれなくなるのですよ」

「それでもいい!」


「トニヤ」


 泣きそうなトニヤの頭に手を置いてなだめると笑った。


「明日ここを去ります。オレは世界が終ろうとも最期まで家族と生きたい」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ