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セラの森  作者: 奥森 蛍
10章 ヴーア
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第65話 湖の水魚

 セラは底知れぬ恐怖を感じて「トニヤ!」と叫んだ。トニヤがオールを漕ぐのを止めた瞬間、小舟の両側の湖面が沸騰したように膨れ上がった。


 その泡の中から二匹の巨大な水の塊――水魚が宙へと舞った。水滴を撒き散らしながら二人の上で大胆に交差し、盛大な飛沫を上げて湖に潜る。


 縁にしがみ付き湖中を覗くが、水肌をしているせいで気配が水に溶け、どこに泳いでいるかさえも分からない。だが、確実に舟の真下にいる。彼らのうねりを受けて小舟が左右に大きく揺さぶられる。


 トニヤがオールを止めたまま青ざめていた。


「ボク泳げない」


 陸地はもうすぐだというのにここで湖を漂う哀れな藻屑となるのか。


 セラは即座に何とかしなければと思い立ち、立ち上がった。大切な弟を守れるものはもう自分しかいない。自分しかいないのだから。


 窮地に陥った自身を助けてくれるものはない。ならば、と空を見た。

 手を掲げあの力を使いたいと天に呼びかける。あの力があれば。指先に意識を集中し、神経を締め上げるように真摯に祈る。


 だが、何も起こらない。


「ふざけるな、こんな時に」

「セラ!」


 トニヤの声に振り仰ぐ。二体の巨大水魚が水面から再び飛び上がると真っ直ぐ舟へと降り注いだ。衝突と同時に大量の水が舟底を打つ。激しく波に煽られて小舟を返されると二人は湖へと落ちた。


 即座に湖面に顔を出すが泳げないトニヤは水を飲むようにしてもがいていた。


「落ち着けトニヤ! 大丈夫だから」

「イヤだ、助けて。セラ、セラ!」


 トニヤはパニック状態で、懸命に喘いでいる。セラが沈みそうな体を懸命に足を掻いて支えているが、このままでは二人道連れに沈んでいく。


 水魚は姿を取り戻すと湖面に背ビレを出して、猛烈なスピードで二人へと迫り来る。あの狡猾な口元に捕らえられれば一溜りもない。

自分はどうなってもいい。だが、トニヤがいる。トニヤだけは助けなければ。


 焦るセラの視界に光のカーテンが見えた。オーロラだ。


 冷静になり、手を翳し、もう一度祈りを込めた。今度はより集中して深く、きっと出来る。やらねば沈む。

 研ぎ澄ました心に望みを描いた。


(我を助けよ!)


 心に描いた波紋が魂を揺らした。手のひらに力がみなぎるのを感じる。

 セラの呼びかけに呼応して、空が燦然とした。


 ドラを鳴らしたような大きな共鳴音が数発奏でられ、オーロラの極光が垂直に落ちてくる。そのまま光は加速する水魚を焼きつくした。水塊が輝きながら宙へと蒸散していく。トニヤは震えながらセラの腕にしがみ付き、その光景を食い入るように見つめていた。



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