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セラの森  作者: 奥森 蛍
8章 虹の国
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第47話 黄土を越えて

 黄土の断崖絶壁を二日間歩いている。日和はよく穏やかだ。

 空に舞うエンビ(鷹の一種)の姿に時折心を休めながら、前方を仰ぎを見ると遠く深緑の低い山並みと白糸の滝が幾本見える。絹糸のように細く、涼気を貫くように谷底に向けて落水する滝のしぶきを想像し、浴びたならばさぞ気持ちいいだろうと感情を洗われた心地になった。


 遥かあの地に向かうことはあるのだろうか、とセラはこの先の旅路を思う。


 自身は命の森を捨て、海を渡り、ステラでの長い逗留を経てこの地にいる。二年をかけてすでに大地の半分という距離を越えてやって来たのだ。それで世界を知った気になど到底なれないけれど、少なくとも生きる上での武器となる知識は得た。優れたものに師事したおかげだ。


 始めは恐れだった文様への感情が自身の内で静かに移ろっているのを感じている。成長したと捉えるのか、達観したと捉えるのか。


 咎は抱え共に生きてゆくものだという穏やかな諦念を抱くようになった。


 エンビが羽をたたみ、マツバの木に降り立った。黄土を破るように生えた幹は演武しながら空を抱いている。目を凝らすと千歳緑の針葉の中に子の姿もある。


 こうした巡り合わせはとても良いことなのだ。経脈の流れる地で景観に恵まれるということはその地が安定しているということだと師の書籍にも記されていた。安寧の地だな、と吐息する。今頃、師は懸命に執筆しているかもしれない、それをまた精霊がからかっているかもしれないと思うと笑みがこぼれた。


 傾斜の厳しい崖道だが、心は辛くなかった。気持ちのよい汗を掻き、石の上に腰かけると革の水袋を取り出した。ステラで入れてきたものはすでに飲み干して、途中のせせらぎで汲んだ山水だ。清らかな味わいの水を喉に注ぐ。


 体力に自信の無かった己が良く歩いているものだ。華奢な手脚を動かして、急こう配も越えてきた。背後を向いてもステラの町はもう見えない。


 下から煽りたてるような山風が吹いた。旅の先々で季節ごとの風を感じてきたが、そのどれもに赴きがあった。冷たい風、乾いた風、重たい風、心地の良い風、ざらついた風。歩を推し進めてくれる日もあれば、遮る日もあった。だが、自分は間違いなくこの道にいる。真理という名の旅路に。


 暫し休憩して立ち上がるとまた歩を進めた。目前の高みを越えれば残りは下るだけだ。息を切らしながらようやく頂上に立ち、窪んだ谷底を見下ろした。谷底には純白の城を中心に据えた赤レンガ屋根の円形の町並みが広がっている。


 その上空を目が覚めるほどの優美な虹がかけていた。

 ようやくたどり着いたのはウェストフラム、半球で一番北にある小国だ。



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