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セラの森  作者: 奥森 蛍
7章 追憶
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第46話 別れ

 宿場を探すというトニヤを制して自宅へ泊めた。明日、北へ向けて発つという。トニヤはセラがずっと寝ていたソファに親しむように身をもたすと泥のように眠った。余程疲れていたのだろう。その就寝を静かに見届けると執筆の続きに取りかかった。書くべきことがまた増えた。


『彼は学を好み、少し斜に構えた静かな少年だった。そんな彼が時々独り言をいう。精霊と話しているのだ。わたしは息を顰め、その様子を窺った。彼の態度はわたしと話している時とそう変わらない。そっけなく少しの皮肉と愛情を込めて。喜ぶ精霊の姿は見えないけれど、きっと無邪気にはしゃいでいるに違いない。


 この町の精霊は幼い。彼が何時だか、そういっていた。その可能性はわたしも感じていた。砂糖菓子を好む幼さ、ドアをノックして人をからかう幼さ、書きかけの文献にいたずら書きする幼さ。だから、懸命に取り組んでいるものがあるとわたしはいつも見つからぬよう、こっそり机の一番下の引き出しに隠して鍵をかけておく。彼が精霊と話すのを止めてまた本に集中した。何気ないそぶりで居間へ行く。机の上に出していた買ったばかりの読みかけの本が破かれていた』


『……ある時、ステラの町で不可解な事件が多発した。占い師が次々と殺されたのだ。死者の体には遺恨。精霊の関わっている案件に違いない、そう読んだ彼は事件の調査に乗り出した。……事件に深入りしていくうちにわたしたち真相に辿りつく。


 ステラの町を襲ったおぞましい事件の裏にいたのは、天に昇れなかった無念を抱えた亡者の魂であった……おぞましき精霊が彼の魂を飲もうとした時、彼の体から神の光があふれた。彼は正しく……』


 そこまで一気に書いたところでスタックリドリーは占い師の事件の箇所をすべて握りつぶした。


「やり直しだ」


 そう呟くと深夜まで執筆に没頭した。




 翌朝、トニヤは出発した。実に気持ちのいい、少年らしい少年だった。セラと接した後だから猶そう思うのかもしれない。


 二週間前セラを見送った場所で今度は弟を見送る。朝焼けが心を照らすように神々しく輝いて、この空の下ならばつい不思議な縁のようなものを信じたくなる。


 自分は学者だ。そのように根拠のないことを浮かべるのは理念に反する。だが、理性を越えてこの兄弟に執心したくなる。それはきっと研究対象であるからだけではないと思う。人生の中で指折りになるであろう縁の力に感謝して、スタックリドリーは行きつけのパン屋で買ってきたお気に入りのパンを少し持たせた。


 戻る時はぜひ立ち寄って欲しいと伝えるとトニヤは笑顔で頷いてくれた。再会した時に旅のあれこれを問うとセラは怒るだろうか。


 ステラの町の北の山は切り立った崖が多いから気をつけるんだよと忠告する。帰ってきた笑顔に心が温まる。トニヤの明るい笑顔には人を元気にする力がある気がした。その笑顔でセラを救って欲しい。


 さあ、他人の心配はともかくセラが戻ってくる時までに原稿を進めなければと気を引き締める。少しは出来るところを見せたい。立派な学者なんだぞと。気合いを入れると原稿が静かに待つ自宅へと帰った。



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