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セラの森  作者: 奥森 蛍
6章 星降る町
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第38話 ある占い師の死

 ステラの町には精霊区、上区、中区、下区、合わせて四つの区がある。精霊区に住まう人はいないが、あとの『上』、『中』、『下』。それはそのままそこに暮らす人々の生活水準を表す。


 例えば師の住んでいるのは上区、金銭的に裕福な上流階級の町だ。天文台があり、石畳が美しい非常に整備された町並みをしている。

 上区に住むには師のような学者や医者、政治家といった裕福な地位に就かなければならない。税金が非常に高く、ここに暮らしていけなくなったものは中区へと移る。


 中区は庶民の町で景観は至って平凡だ。敷設された赤いレンガ道の両側に木造の家々が立ち並ぶ。割としっかり作られた家が多く、ステラでは一番古い伝統ある区画だそうだ。

 また、人口割合は中区が一番多い。中流の暮らしに満足している人が多く、それは行きかう人々の笑顔から読み解ける。皆、花や木を大切にし、人並みの暮らしを楽しんでいる。


 下区についてはあまり語りたくないが、ひと言でいうと中区に暮らせなかった人々が集まる区だ。地理的にも最下層の区で、下区の上に精霊区、上区、中区が存在する。

 日の光が当たらず、皆貧しい暮らしをしている。この町の住民は基本的に税金を払わない。払えないといった方が正しいかもしれないが。犯罪が横行する、無政府地帯だ。


 この区の人間は子供のころから中区などで安い賃金で働き、貯めた金で占い師の専門学校へと入る。

 ゆえにこの区の出身者という占い師は多い。ちなみにセラは知識だけでまだ下区へと足を踏み入れたことがない。師に「下区へ行くと身ぐるみを剥がされるよ」と脅されているので、何となく敬遠しているのだ。ただ、非常に安くて美味い飯屋があるらしく、わざわざそこへ足を運ぶもの好きの常連客もいるという。


 中区へと足を踏み入れると気が少し楽になった。経脈の力が少し緩んだせいかもしれない。精霊に通ずるセラは経脈の力が非常に強いと常に緊張しているような状態でひどく疲れるのだ。命の森や海上でこれほどに疲労することはなかった。それだけこの町に流れる経脈は平均的に力強い。


 セラは行きつけの小料理屋の木戸をくぐった。客は五人。セラの顔を見ると顔見知りのディノという痩せた占い師が手で招いた。


「ようセラ。お疲れさん」


 机の上にはいくつもの開いたグラスがある。この男はほとんど占いもせず、稼ぎ時に飲んでばかりいる。ディノは下区の出身だが今は身を立て中区に住んでいて、家はこの近くだという。

 セラが対面に腰かけるとディノは新たな自分の分の酒とセラの酒を注文し、手元に残った酒を一気に飲み干した。


「例の事件聞いたか?」


 ひと際小さな声でディノが囁く。するとそれを聞いたカウンターに座っていた常連客の占い師の男が割って入った。


「下区で占い師がまた死んだ。腹に精霊の遺恨があったそうだ」


 セラは少し考え込んだ。この頃、下区で占い師が変死をするという事件が多発している。これで七人目だ。


 下区というのは犯罪が日常茶飯事なので、常日頃から事件の詳細が即座に他の区に漏れ聞こえることはなく、他の区の住民が気にして占いに来なくなるなどということは今のところ起きていない。


 ただ、ほとんどの占い師が人伝に聞いて事件の粗筋を知っている。死体には遺恨が焼きついていて、精霊の仕業でないかと戦々恐々としているのだ。一部の占い師の間では、初めの被害者となった占い師が精霊を憤怒させるようなことをしたのではないかというのが専らの噂だ。


「暫く占いはよした方がいいかもしれないな」


 ディノはそういって店員の持ってきたグラスを受け取る。


「事件が起きようと起きまいとあんたはここで酒ばかり飲んでる」


 セラの指摘にディノが豪快に笑う。


「オレの占いはあまり当たらないんだ。求める客はいないよ」


 セラは口元に笑みを浮かべ酒を飲む。


「セラお前も気をつけろ。いついかなる災いがお前の身に降りかかるともしれない」


 この忠告の翌日、ディノは下区の料理屋の裏手の大きな屑かごに半身を突っ込んで死んでいた。体には大きな遺恨が刻まれていた。


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