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セラの森  作者: 奥森 蛍
6章 星降る町
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第36話 アリアの宣告

 セラの占いはいつも空に張り出した崖の上で行う。中空に向き合い、そっと両手を広げると目を閉じてそっと心で伝える。何なら声に出しても問題ないが、人々に不審がられるのでそうしている。



――教えてください。教えてください。わたしの遺恨を取り去る方法を教えてください。



 すると願いを聞き届けた星の人たちが中空にふわりと浮いて、緑に輝く大きな陣を小さな指で描いていく。十数秒して細かい文様が描かれた陣に光が吹き上げて、それがセラの衣服をはためかせた。


 セラは真っ直ぐに陣の中央を見つめる。陣の中から出てきたのは腰にかかるほど長い髪をし、柔らかな薄衣を纏った美貌の女性だった。


「アリア」


 セラの声に亜麻色の髪の女性が微笑む。


「あなたに伝えるべきことはありません」


 ゆっくりとした穏やかな声だ。


「方法は無いというのか」

「わたしは知らないのです。あなたのような人を知らないのです」


 そこでセラは質問を変えた。


「遺恨を取り去るには謝罪が必要か」

「あなたを許す者はこの世にいません」


 そう微笑むと陣が光を放ちながら解けて、アリアもまたそれと共に消失した。後に残るのは青い空。占いはまた変わらなかった。そう、また変わらなかった。


 セラは少し落胆して、木陰へと戻った。先ほどのアリアへの質問は以前にも聞いたものだった。星の人の力を頼り占いが出来ると知った時、セラはまず初めに自分を占った。しかし、種々の正確なことを告げてくれるアリアも遺恨のことに関してだけは何も知らぬ存ぜぬを貫いた。


(ならばオレはいつまで生きられるのか)


 一度聞いてみたいと思いながらも口に出来なかった質問だった。世の中には死期を悟りたい人間もいるかもしれない。だが、大半は違う。限りある生を不安を抱くことなく過ごしたいと思っている。セラもまたその例外ではなかった。


 すぐの死が決まっているのであれば知りたいかもしれない。やるべきことがある。だが、セラの遺恨はこの町に来て以降、成長を止めていた。


 ゆえに師はセラの胸の文様は遺恨でないと仮定して研究を進めている。

 通常、遺恨が体に現れると心身に異常をきたす。精霊ののたうつ幻聴が聞こえたり、遺恨が疼いたり、例えばムルティカで会った彼女のように。症状が進んでくるとほとんどの人が日常生活を送ることが困難になり、遺恨で死ぬ前に苦悩から自身で身を絶つ者もいるくらいだ。


 だが、セラにそのような症状は全くない。


 師はセラの文様の成長についても言及した。遺恨という物は基本的に日を追うごとに成長していく物だ。だが、セラの物は違う。これまでに成長したのはわずか二度だけ。どちらも遺恨から光があふれた時。力が発せられた時にのみ、その文様を大きく成長させた。


 これを師は、セラの体内におけるエルダーの木の影響が強まっせいだと解釈した。飲まれて契約したことによりセラの体内にエルダーの木の力が宿った。神通力を使い、存在感が増していくごとにセラの体はエルダーへの道を辿る。


 いわゆる子孫を育て生きる宿主にされたのだと。


 師はその見識を述べた後、長生きしたければあまり使わない方がいいと真剣な声で忠告した。

 また、下されたアリアの占いはどんなにでも解釈出来る。



――あなたのような人を知らない。

――あなたを許す人はこの世にいない。



 人、という言葉が大きく引っかかっていた。もしかするとエルダーの木と契約した人間はもはや人でないのかもしれない。あるいは人ではあるが、同じ現象を持つ人間はこの世にいない。許すはずの命の森のエルダーはもうこの世に存在していないから、許すなどということは不可能だ。もしくは死ぬまで許されないということか。


 考えれば考えるほど、気が遠くなる。


 読書に集中できなくなり、本を閉じた。時を見計らったように清風が緑の梢を鳴らす。

 とうに昼は過ぎて辺りは夕刻だった。


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