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セラの森  作者: 奥森 蛍
5章 海を渡る
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第26話  ロドリアの町で

 トニヤはロドリアの町に着くとさっそく聞き込みを始めた。

 ロドリアは磯香る港湾の町で、町角の片隅に無造作に置かれた投網、目を奪う石造りの建物、酔いどれの人の姿などが散見されて、驚くべきものはたくさんあったが何しろトニヤはセラを早く見つけねばという思いに息巻いていた。


 黄金色の髪をした少し華奢なセラという少年を知らないか。

 臆せず二、三人に聞いた後、行き当たった昼間から酒に酔った陽気な男が「ああ、覚えてるよ」と大きな声で頷いた。「確かずっと以前にこの町で働いていたよ。町の入り口に近い『ピコット』という酒場だ」と教えてくれた。


 意外にも早くセラが見つかった。


 トニヤは途端に嬉しくなり、元気に礼を告げると町の入口付近へと戻った。

昼なので店内は真っ暗。客はなく、ひっそりとしていた。


「すみません、どなたかいらっしゃいますか」


 声をかけるとカウンターの奥から四、五十歳くらいの恰幅のいい女性がエプロンで手を拭きながら顔を覗かせた。


「お客さん悪いね、店は夕方からなんだよ」


 女性はトニヤの姿を見て「おや」と驚いた。


「子供でも来て構わないけど酒は出せないよ」


 そんな冗談を挟みながら戸棚から焼き菓子を出した。カウンターに皿を置くと「どうぞ」と人懐っこい笑みを浮かべた。トニヤは困ってしまい俯き加減で皿をじっと見た。


「あの、お菓子は頂きます。でも、そうじゃなくって」


 女性は首を傾げる。


「ボク、セラの弟なんです。兄がここで働いていたとお聞きして」

「セラの弟」


 女性は驚いたように目を輝かせた。


「兄は今どこにいるんですか。ここで働いているんですか」


 女性はトニヤの問いかけに少し困ったような様子を浮かべた後、低い声で丁寧に語ってくれた。




 セラは確かに二年以上前に二カ月程酒場で働いていた。

 だが、今この街にはいない。事情があって北の大陸ノーザンピークへと渡ったという。


 向かったのはステラという占星術師の町だそうだ。ノーザンピークという名前の知識はぼんやりと、ステラに及んでは名前も聞いたことがなかった。

 今いるのが南の大陸で、セラが向かったのは北の大陸。漠然とした知識でいったいどれほど遠いのだろうと想像した。


 女性の語る事情・・というのも気になった。セラがどこかへ向かわなければならない事情を抱えている。それが何なのか聞くと女性は話しにくそうにして、けれど断片的に教えてくれた。


「アタシも詳しくは知らないよ。何か知り合いは遺恨だといっていたね。精霊から遺恨を受けたと。セラの胸に大きな刺青があるだろう。アレはどうやら精霊の遺恨らしいんだ。その呪いを解くために精霊に詳しい学者さんを訪ねて行ったんだ」


 トニヤはひどく混乱した。自分が馬鹿なせいか、もしくは知らないことが多すぎるせいか彼女のいっていることの大半が理解できなかった。


 そもそもセラの胸に刺青などない。だが、彼女が嘘をいっているとは思わなかった。


 精霊と関わったセラがどのタイミングでかは分からないが森で遺恨を受けた。それを自分たちには隠していた。

 これからはもっと想像になるのだが、大樹を焼いたのはそのせいなのかもしれない。あまり明け透けな方ではないし、反って秘密は多いセラのこと。きっと自分ひとりで解決しようとしているに違いない。


 でも遺恨ってなんだろう……


 トニヤは拙い頭の中で推理すると声を上げた。


「どうやってステラへ行くんですか」


 女性はやや不安そうな顔でノーザンピーク行きの船を漁港で見つけて乗せてもらうしかないね、と教えてくれた。女性の息子も船舶に乗っているそうだが、今は生憎外洋に出ているらしい。


 礼をして店を出ようとすると「あんたホントに行くのかい」と問われた。そこで少し考えた。セラが居るのであれば何としても会いに行きたい。


 でも、大陸を離れて、海を越えノーザンピークという未知の大陸に渡るという壮大な旅をするとは夢にも思っていなかった。

 ただ、自分は母にセラを連れて帰ると約束した。その約束が背中を押した。


「会いに行きます」 


 そういうと店を後にした。


「幼いねえ」


 女性の心配げな呟きはトニヤには聞こえなかった。




 漁港に停泊中の船は多く、トニヤは片っ端から声をかけた。ノーザンピークに行きたい。だが、ほとんどの漁船は危険な外洋を超えて旅することはないという。ほとんどが地元の船だった。


 そこで、トニヤは作戦を変えた。外洋で漁をするような大型漁船を見つけて乗せてもらおう。今度は船を選んで声をかけた。すると暫くして外洋に出るという大型漁船が見つかった。


 トニヤは事情があってノーザンピークへと渡らなければならない、だから乗せてほしいと頼み込んだ。


 相手をしてくれたのは極太の縫い針で網を修理中の年配の男性だった。痩せていて、だが筋肉が厳つく浮き上がっており、日に焼けて短髪の白髪交じりの老人で、どこからどう見ても海の男だ。

 彼は眼鏡の奥の鋭い眼でトニヤの全身を品定めするように見た後「乗せられない」と無愛想にいった。


「どうしてですか、お金なら払います」

「金の問題じゃない」


 そういうと網へと視線を戻した。


「船に乗せるなら、労働力として雇う。だが、坊やはひ弱すぎる」


 トニヤは膨れた。別に好きでひ弱なわけじゃない。それにセラよりはずっと逞しいはずだ。


「一生懸命働きます。だから乗せて下さい」


 トニヤがしつこく縋るので男性は呆れ顔でため息をついた後、こういった。


「どれだけ頼み込まれても船には乗せん」


 立ち上がるとトニヤには目もくれず、歩き去ってしまった。


 途端に悲しさが込み上げる。目から涙があふれた。老人の口調がきつかったせいもあるが、このままではセラに会えない。希望が寸断されて、急に距離が遠のいた気がした。

 自分は森にも帰れないし、セラの所にも行けない。自分の境遇があまりに惨めで、しゃがみこんでしとしとと泣いた。


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