第705話 何度でも見たいその絶技
「私は戸田曜子。よろしくねルフ」
「ああ。このダンジョンにいる間だけだが、背中を預けよう」
運が良かった。仲間とはぐれたから帰還しようと思ったけれど、その直前にルフを発見できたのだから。
そうなったら話は別。ゲーム内での有能キャラを一時的にとはいえ仲間にできた。
だったらできる限りこのダンジョンを探索すべきよね。
これだけ大量の超位モンスターがいるのだから、おそらくは魔王軍の誰かがいるはず。ここで倒しておきたいもの。
「この先は強敵がいそうね」
そう、ここに確実に何かがいる。
単なるダンジョンのボスではない。ディキティスの部下である精鋭が、十魔将が、あるいは四天王が……。
だとしてもここで引くつもりはない。準備は万端。ルフという強力な同行者もいる。やるわよ。
「あれ? ばれてた?」
扉を開けた瞬間に襲いかかる短刀をなんとか防ぐ。
よかった……。このゲームでは物陰からの奇襲なんてざらにあるから、念のため警戒しておいて正解だった。
だけど、まさかボスキャラがそんな不意打ちをしてくるなんてね。
まだゲームに知識を引っ張られている。この世界の価値観で上書きしていかないと。
「残念だったわね。これでも注意深いほうなの。私」
「みたいだね~。まあいいや。そうしたら正々堂々と向かい合って殺してあげるよ」
にこやかにそんなことを言い放たれる。
魔王軍十魔将イピレティス。一見するとかわいらしい女の子だけど、その正体は男。
だからかしら? さっきの奇襲がやけに力強かったのは。
ゲームでのイピレティスの攻撃はもう少し軽いイメージだった。
これもゲームと現実の差として受け入れないと。
「獣人と人間が一人ずつ。いいね。超位モンスターを倒せるのなら、僕も満足できそうだよ」
この敵の一番の強みはバックスタブと呼ばれる攻撃にある。
ゲームシステムでも存在したけれど、背後からの奇襲で専用の無敵モーションとともに大ダメージを与える技。
この世界ではたぶん無敵モーションはない。なら、片方が攻撃されている間にもう片方が逆に攻撃をしかけられそうね。
私もルフもバックスタブ一発でやられるほど脆くはないから。
「行くわよ。イピレティス」
「あれ、名乗ったっけ? まあいっか。魔王軍十魔将イピレティス。君たちどっちも殺してあげるね~」
速い!
いや、スピードだけならもっと上はいくらでもいるはず。
速いだけじゃなくてうまいんだ。こちらに速さと誤認させる特殊な移動手段。
できる限り気配も音も殺し、見えているはずなのにやけに見づらいように移動しているってことね。
「速いな……」
だけど、ルフは無事に攻撃を防いでくれた。
やっぱりまだまだ侮っているみたいね。相手はボスなんだから現実に戦うのならこのくらいはやってのけるでしょう。
もっと敵の評価を上げないと。この相手に油断なんて、その隙を突いて殺されるに決まっているのだから。
「へえ、やるじゃん。それじゃあもっと上げていこっか!」
相手の速度が上がる。
正直なところ、速度が上がっているのか動きがわかりにくくなっているのか判断できない。
ルフと私どちらが狙われるかわからず防戦一方になっている。
相手は一人でこちらは二人なのに付け入る隙がない。
ちょっとまずいわね。
攻撃が読めない以上は私の手は使えない。
……ここは覚悟を決めて一撃もらうしかなさそうかしら。
「あれえ? 隙だらけだね」
「そう見える? なら攻撃してみたら?」
防御は放棄して相手の攻撃を受けることだけを考える。
大丈夫。いくら十魔将といえど問題はないはずよ……。
「あっそ。じゃあ遠慮なく」
攻撃に備えつつも、目は閉じないように意識する。
ここで見逃すなんてあってはならない。しっかりと相手の攻撃を見極めないといけないのだから。
「ぐっ……」
っ! やられた!
こちらに真っ直ぐ向かってきたはずなのに、直前で軌道を変えて私ではなくルフのほうへ……!
また見えなかった! いえ、今はそんな反省よりもルフのほうを……。
一撃!? ルフはそのまま倒れて動かなくなってしまった。
バックスタブ。背後からの致命攻撃。だからって、一撃でルフを葬れるほどの威力だというの!?
「うん。いい感じだね」
満足そうに頷くウサギの耳。そういえば彼にあんな装飾はあったかしら?
でもどこかで見たことがある。
……っ! ああ、本当に馬鹿なことをした! 見たことがあって当然じゃないの。
斬首の耳飾り。ゲームにも存在したバックスタブの威力を上げる装備。
そんなものを見落としていたなんて。
十魔将がプレイヤー側の装備を使うなんて思っていなかった? だから見落とした?
とんでもないミスをしたものね……。
「じゃあ、あと一人だね」
ルフには悪いけれど、あなたの死で相手のことがわかった。
的が私一人になったのであれば、却って好都合なのかもしれない。
「あれ、抵抗やめちゃうんだ。まいっか」
高速で背後に回り込まれる。ここね。ここしかないわ!
私の首に短刀の冷たい感触が伝わる。首をそのまま斬られて終わり。
カジノで獲得したアイテムがなかったら、私もルフみたいに殺されていた。
「あれ? 確実に斬ったと思ったのに」
相手は首を傾げている。
必殺の一撃を受けながら、私を仕留められていないことが不思議でしょうがないといった様子ね。
しっかし……。痛いわねえ! 首は繋がっているけれど、無傷ってわけじゃないのよ!
すぐに回復薬を使ったのはいいんだけど、できればあまり味わいたくない痛みね。
「まあいいや。無傷ってわけでもないし、何度だって殺してあげるよ」
「無駄よ」
「無駄? へえ、ずいぶんと威勢がいいね。僕の攻撃を見極められていないのに」
「ええ。あなたの攻撃の全てを見極めるのは私では難しいわ。でも、もう通じない」
安い挑発だけど、相手はそれに乗ったみたいね。
背後からの攻撃だけに絞っていれば、防ぐことは難しくないのよ!
短刀を防御しようとすると、相手はそのままステップで位置を変えて私を真正面から攻撃してきた。
「別に、背後だけを狙うなんて言ってないよね」
完全に無防備。背後に全ての集中を総動員していたのだから、それ以外の攻撃には何も対処できない。
でも、それでいいの。私は背後からの攻撃以外に注意を割く必要なんてないのだから。
「……っ」
イピレティスの攻撃の手が緩む。
こちらへの攻撃は彼自身が止めることになった。
彼にそんな意思はないけれど、この力は絶対だから逆らうことなんてできない。
「何かしたね?」
「さあ、どうかしら?」
無理やり真正面から攻撃しようとするも、やはりイピレティスの体は動かない。
それが私の加護の力よ。この再演の加護は、直前に受けた敵の攻撃を繰り返させるというもの。
一度決まってしまえば相手はそれ以外の攻撃ができなくなる。だから、あなたは二度とバックスタブ以外の攻撃はできない。
バックスタブはたしかに強力。だけど、それだけが来るとわかっていればこれほど防ぎやすい攻撃はない。
だから絶対にバックスタブを再演の対象にしたかったのよね。
そのためにあえて攻撃を受けるなんて無茶もしたけれど、これもあなたを倒すための必要経費ね。
「これはできる」
ただ、相手も勘がいいのかバックスタブだけを狙うようになってきた。
いいわよ。付き合ってあげる。あなたがその攻撃を繰り返せば繰り返すほど私は優位に立てるのだから。
再演の力だけじゃさすがに心もとない。だから、カジノでとあるアイテムを入手してある。
敵の行動を解析するアイテムをね。ゲームでは相手の攻撃を見るたびに、その攻撃へのパリィや回避の猶予時間が増えるというアイテム。
これが私の再演とあまりにも相性がよかった。
相手に特定の攻撃以外させない再演。同じ攻撃を見るたびに対処しやすくなる装備。
この二つが揃っていれば、私はどんな相手も完封できる。
「あなたの攻撃、全部見極めてあげるわ。そうして最後は私があなたの首を落としてあげる」




