第620話 ダークエルフの確率6割、ハーフリングの確率3割、その他の確率1割
「……ロペス」
「おう。なんだ? 飯か?」
俺の言葉に頷く姿を見ると、先日拾ったガキは俺には多少慣れてきたらしい。
懐いたというのとは違うが、少なくとも何かあったときに話しかけるくらいにはなっている。
ならもう少しだな。このまま地底魔界に慣れたら、ようやくボスたちに謁見できる。
……このままだと、こいつはボスの姿が見えずに処分されそうだからなあ。
ボスを狙っているとかではなく、今は周りが全部敵なんだろう。
特に同じく地底魔界に慣れていない粗暴な獣人の従業員なんかを明確に避けている。
だが、そうしてトラブルに発展するのを未然に避けるのは、なかなか高評価だ。
「お、ロペスくんの娘さん。こんにちは~。ウサギだよ~」
「違うっての」
そしてお前もウサギじゃないだろ。
トキトウの自認がどんどんウサギになっているが、お前元人間だよな?
「ありゃあ。やっぱり、ロペスくん以外には懐いてないねえ」
「俺のこれも、懐かれているのとは別だけどな」
こいつの敵ではないと、かろうじて理解されただけだ。
ま、最初はそんなもんさ。
「それで、そろそろレイさんに見せに行くの? その子」
「いや? 今ボスに見せたら殺されるし」
「え~? レイさん、ロペスくんが言うような怖い人じゃないよ?」
そりゃあ、お前は敵対心の欠片もないからなあ。
だが、こいつは警戒しているから駄目だ。
ボスは敵対者にはマジで容赦ねえぞ。
「とりあえず飯だ。お前もそろそろ粥以外を食えるようになっただろ」
「え、私?」
「なんでだよ……」
お前は好きに食ってくれ。そして太ったと悲鳴を上げてくれ。
◇
食堂に向かうと、すでに多くの者たちが朝食をとっていた。
ボスは……よし、いないな。
いたらこのガキを見せることになっていたし、まだ見せられない以上はいなくて良かった。
「マギレマの姐御、ホットドッグくれ。お前はどうするんだ?」
「……?」
ああ、メニュー多すぎてわかんねえか。
じゃあ、適当にガキが好みそうなものでも頼んでおこう。
そうして注文を終えると、聞き慣れた声が耳に届いた。
「やあロペス。君、本当にその子の世話を続けているんだね。意外だったよ」
「なんだ、俺がもっと薄情に見えたかい? 女王様」
「う~ん。いや、君は情に厚い男だったね。訂正しよう。意外でもなかった」
いや、俺はわりと金儲け大好きなだけの男だ。
そうして金を稼いで、余裕がある者が飢えてるガキに施す。
俺もそうやって施されたのだから、今度は俺が施す番というだけの話。
「……」
「おや」
やっぱり同性のほうが安心できるのかねえ。
俺にひっついていたガキは、女王様のほうへと走っていった。
「……」
「……」
そこで互いに無言になっているあたり、仲良くおしゃべりするのはまだまだ先っぽいけどな。
◇
「大丈夫かい? カジノは少々騒がしい。君みたいな子供には、あまり良い場所ではないと思うのだが……」
「そりゃあ、俺たちの職場が不健全ってことかい? 女王様」
「何言ってるんだ君は! レイ様に勘違いされるようなことは、言わないでくれ!」
平気だと思うぜ。
ボスは怖いが冗談も通じないような人じゃない。
あの人の怖さは、そういうまともな人なのにやばい人でもあるというところだし。
「……クララとロペスについてく」
「そうかい。それじゃあ、私の部下たちもいるから、何かあったら頼ってくれ」
「女王様! ついにロペスさんとの子を!」
「違うからね!?」
そもそも種族違えだろ。
ダークエルフって、そそっかしいよなあ。
……それとも、この世界って親とは無関係の種族が子として産まれるのか?
「なあ女王様」
「なにかな? これは、部下がまた勝手なことを言ってるだけで」
「もし俺と女王様が子供を作った場合って、ハーフリングが産まれるのか? それともダークエルフが産まれるのか? あるいは、そのハーフ?」
「な、なぁっ!?」
そんな驚くことかねえ?
単なる好奇心だったんだが、もしかしてそんなの聞くまでもないこの世界の常識だったか?
「試してみてはいかがでしょう?」
「いや、さすがにそれは」
「何を言っているんだ、君たちは!」
だよなあ。俺だって、そんなセクハラまがいのこと言ったつもりはない。
相変わらず、女王様は部下との距離が近いもんだ。
「ロペスにクララよ。今日も俺が勝つぞ!」
「お、リズワンの旦那じゃねえか。今日も負けに来たのか」
「勝つと言ってるだろうに!」
「やあ、ようこそ来てくれたね。リズワンさん」
王様が来たってことは、ぼちぼち他の客たちもやってくる頃か。
さて、談笑はこのくらいにして、今日も真面目に働くとするかねえ。
「ところで、この子供は?」
「拾った」
「ふむ……孤児か」
「見ちまったもんは、放っておけねえからな」
「何かあったら頼ると良い。王として、いつでも力になろう」
「お忍びだろ? リズワンの旦那」
だが助かる。こいつも、地底魔界よりはリズワンの旦那の国のほうが生きやすいかもしれねえな。
「ん?」
と思ったら、いつの間にか俺のスーツをギュッと掴まれていた。
「ふむ……無粋であった。許せ、ロペスに少女よ。あとクララもか」
「いえ、私は別に彼とはそういうのでは……」
王様はそんな俺たちの様子を見てカラカラと笑いながら、カジノを楽しみに行ってしまった。
あの笑い、どこまで続くのかねえ……。
「ロペス……」
「おう、どうした? 暇になったなら、ここにいなくても良いんだぜ」
そう伝えるも首を横に振る。
ダークエルフたちに面倒を見てもらうか?
そう判断し口を開こうとしたところ、ルーレットのほうがやけに騒がしくなった。
「すげえな! あの伝説の女の再来だ!」
「な~に、そんな伝説すぐに塗り替えてみせるさ」
どうやら、あの人間が馬鹿勝ちしてるみたいだな。
まあ、そういうこともあるか。
だが勝ちすぎというのも良くない。折を見て従業員たちに魔力操作してもらって……。
「ずるしてる」
「ずる?」
ダークエルフに指示する前に、俺にひっついていた少女の声が俺の行動を止めた。
ずる……。もしかして、あいつイカサマしてんのか?
わからない。おかしいな。嫌な予感はしないので、致命的な損害までは被らないのだろう。
だが、俺が見抜けないとなると魔力関係のイカサマになる。
「女王様。わかるかい?」
「……残念だけど、私にも見抜けないね」
じゃあ、イカサマではなく本当に運が良いだけじゃねえのか?
もう一度少ガキを見ると、真っ直ぐに俺の目を見つめている。
……こっちが正しいな。俺の勘がそう言っている。
「さて、これだけ稼げたら軍資金もできた。なあ、オーナー。僕、君と対決したいんだけど?」
そいつはあらかた稼いで満足したと思ったら、そんなことを言い出した。
俺と……? たしかに、カードを使ったギャンブルでは、俺と戦うこともできるが……。
「君が払いきれないほど大勝したら、別のもので払ってもらっても良いよ? 例えば――ここの権利とかね」
ああ、そういうことかい。
要するにこいつ、俺たちの場所を奪いにきたやつということか。
「乗る必要あんのか? それ」
「ないね。だけど君が乗ってくれないのなら、僕は毎日こうやって軍資金を稼ぎにくるしかない。いつの日か君と戦うための資金をね」
俺が勝負に乗れなかったら、毎日金を奪いにくるってわけか。
別にそれでも良いんだが……。舐められてるのはムカつく。
「良いだろう。そんじゃあ、勝負といこうぜ」
「そうこなくっちゃ。途中で逃げないように、あらかじめルールを決めないかい?」
その提案、こちらも好都合だ。
お前に逃げられると面倒そうだな。
なら、この場で叩き潰しておこうじゃねえ。
『レイから伝言。その子を信じて、あいつを痛い目にあわせて良いってさ。あいつ、転生者だから女神の加護で不正してるっぽいよ』
「オーケー」
げ……。そりゃあ、イカサマの内容がわかんねえはずだ。
よりにもよって女神の加護かよ。俺たちで見抜けないのも当然だ。
しかし、それならなんでこいつはわかった?
ボスはこいつを信じて痛い目にあわせろって言ったみたいだな。
「何してるんだい? ああ、もしかしてその子に助けてもらいたいとか?」
「……まあな。勝利の女神ってのは必要だろ?」
「別に構わないけど、君の要求を呑む以上は僕の要求も呑んでもらって良いよね?」
「何を望む?」
「そうだなあ。勝ちが続いたからって逃げられると困る。相手が破滅するまで勝負を続けること、それが条件というのはどうだい?」
えらい自信だな。
こりゃあ、イカサマしているっていうのも本当らしい。
「わかった。それでいこう」
相手は満足そうにテーブルへと向かう。
何のゲームをするかもわからないというのに、馬鹿な勝負を受けたもんだ。
だが、俺の勘は告げている。このガキがいれば、俺が負けることはないだろう。
それに、あのボスが信じろと言っているからな。
なら、ここであいつを潰しておくとするかな。




