第598話 アンマッチな雪遊び体験ツアー
「寒い~!」
というわりには楽しそうだ。
時任は、スキー場ができてからそちらに通って遊び惚けている。
こちらとしては、仕事をちゃんとしてくれているので文句はない。
「レイさ~ん。こんなに楽しいのに、ここは一般公開しないんですか?」
「管理者問題があるからな。元々従業員向けに作っただけだし、このままで良いと思っている」
「む~……もったいない。私が管理者やりましょうか?」
「ロペスじゃないんだから、三つも掛け持ちしたら倒れるぞ」
あいつのように、効率的かつ他者を使うのがうまくないと、これ以上は無理だ。
納得したのか、時任は雪を握りながら次の案を考え始める。
「なんとかして、外の人にも雪を楽しんでもらいたいですねえ」
地底魔界以外に住む人にもか……。
あ、そうだ。それなら良いことを思い付いた。
「ありがとう、時任。おかげで、一つ思い付いた」
「本当ですか!? さっすがレイさん! え、何? 選択肢。私のせいって何? 何なの!?」
時任は選択肢と会話を始めてしまった。
邪魔したら悪いし、俺は俺でさっきの案を実行に移すこととしよう。
良いなあ。俺もダンジョンマスターさんと会話したいなあ。
◇
「駄目だ」
「じゃあ、喜びのダンジョンで」
「う~ん……。それなら、急に変化しても違和感ないだろうけどなぁ」
「よし、それなら喜びのダンジョンで」
「待て待て待て。焦るなよなぁ。喜びのダンジョンのコンセプトは?」
「装備ガシャを楽しんでもらう死者ゼロのダンジョン」
「良しっ!」
となると、全力で殺そうとするのはまずいな。
それに、攻略を容易にするためのアイテムや装備も準備しないと。
防寒具だな。あるいは、炎系の装備品。
「まずは、炎系のアイテムが出やすい宝箱の準備からだな」
「だなぁ。ただ、やりすぎるとエリアごと炎で対処されそうだ。熱への耐性とか付与できるのかぁ?」
「作成する際のステータスを偏らせれば、たぶんいけると思う」
「なんでもありだなぁ。まあ、それなら一度やってみろ」
よし、今度こそアナンタの許可も下りた。
では改めて、喜びのダンジョンの新規エリアを追加するとしよう。
◇
「くっそ~。溶岩エリアきつい」
「慣れてきたけれど、あの暑さはなあ……」
「無視しても良いんだけど、そうしたらそうしたでその先が辛いのよねえ」
「食人花の群れだもんなあ」
運良く宝箱から炎系の武器を引けたら話は別だが、そうそう上手くいくものでもない。
だから俺たちは、結局あの溶岩エリアを進むしかないのだ。
それが一番安全なルートなのだから。
「あれ?」
「どうした? モンスターか? それとも宝箱?」
仲間の一人が不思議そうな声を上げたため、警戒する。
宝箱なら嬉しいけれど、モンスターだとしたら油断はできない。
だが、今回はそのどちらでもなかったらしい。
「いや、ここの分かれ道なんだけど」
「分かれ道? 別にそんなのいつものことだろ?」
このダンジョン、かなり頻繁に内部の構造が変化するからな。
見知らぬ分かれ道が増えていようが、さして気にするようなことではない。
そう思い道の先を見て、俺は仲間が驚いた理由を察した。
「寒っ! 何だこの先」
「え、どういうこと? うわぁ……。氷? いえ、雪ね」
道の先は白く染まっていた。
ダンジョンの中だというのに、雪が降り注いでいるらしい。
もしかして、新しいエリアが増えたのか?
「溶岩の次は雪原か……」
ということは、こちらも対策が必要そうだよなあ。
どう見ても寒いし、きっと溶岩エリアでの装備の補充が、ますます重要になってくるのだろう。
「溶岩エリアで装備を整えて正解だったな……」
だが、今後も溶岩エリアが必須になったと考えると、いい加減あそこにも慣れる必要があるんだろうなあ。
雪原に足を踏み入れると、急な寒さが体を襲う。
さっきまでは暑かったのに、今度は震えるほどに寒い。
急な寒暖差で体がおかしくなりそうだ。
幸いといえるのは、溶岩エリアで炎系の装備を手に入れたところか。
食人花たちに通じるだけでなく、こうして暖をとるのにも使えるなんて、ありがとう炎の剣。
「視界は案外悪くないな」
雪ということもあり、猛吹雪で視界が遮られることを覚悟していたが、さすがにダンジョン内ということもあって吹雪いていない。
であれば、寒さと足場の悪さが問題のエリアということだな。
溶岩エリアよりは幾分かましかもしれない。
「後ろ!」
「えっ?」
背後にいつの間にかゴブリンが現れ、攻撃された。
その攻撃を回避できたのは、意図してではなく運良くだった。
な、なんで急に? さっきまで、モンスターの気配なんてなかったじゃないか。
疑問は浮かべつつも、まずは目の前のゴブリン退治だ。
奇襲されなければ、どうということもない。
俺たちは落ち着いてゴブリン相手に立ち回る。
「……普通のゴブリンだったな。急に現れたから、転移でもしたのかと驚いたよ」
「そいつ。雪の中に隠れていたみたいよ。あんたが通り過ぎたのを見計らって、背後から奇襲してきたわ」
「そういうことか……」
危なかった。先頭の俺への奇襲だから、仲間たちがすぐに気付いてくれた。
しかし、これがもしも最後尾の者への襲撃だったら、そのまま攻撃を無防備に受けていたかもしれない。
「視界が開けていると思っていたが、用心は必要そうだな……」
その後、案の定というべきか、雪の中にはモンスターたちが何匹も潜んでおり、俺たちはいつも以上に神経をとがらせながら進むこととなった。
溶岩とは別だが、こっちはこっちで嫌なエリアだなあ……。
◇
「時任の提案で、雪原エリアを追加した」
「思ってたのと違います!」
時任が、地底魔界の者以外にも雪を体験させたいと言ってくれたおかげだ。
本当ならもっと過酷なエリアにしたかったが、喜びのダンジョンなのでそこまではやりすぎと注意され、今の形になった。
だが、これはこれで悪くはない。うちのモンスターたちは賢いから、雪の中に隠れて奇襲するなんて朝飯前だ。
「あ、油断した侵入者が背後から攻撃された」
「わ、私のせいじゃないですよね? 違うよね? 江梨子ちゃん」
「芹香。魔王軍にどんどん染まっているわねえ」
「私のせいなの!?」
時任のせいというか、時任のおかげだ。
だから、そんなに狼狽しなくてもいいのに。
「リピアネムの力を借りれば、吹雪とかも再現できそうだよなあ」
「できるぞ。手伝うか?」
「難易度上げんなって言ってんだろぉ」
まだ駄目か。吹雪エリアにするのは、みんながもう少し慣れてからだな。
吹雪で視界を奪い、足元の雪から奇襲する。
溶岩エリアで炎属性の装備を入手していない場合、寒さで動きも制限する。
そういうコンセプトのエリアにしよう。
「レイ。ガシャ運が悪い者はどうすれば良いんですか? いくら溶岩エリアといえど、毎回炎属性の装備は入手できないと思うのですが」
「あ~……。救済措置は必要ですかね?」
「いっそ温泉でも設置します?」
「なるほど……。良いかもしれません。さすがはフィオナ様です」
「ふふん。魔王ですからね」
運が悪いとクリアできないというのは、極力避けるべきだからな。
あらかじめ温泉を用意して、耐寒の効果を付与できるようにしておこう。
そして、溶岩エリアで装備を入手した者や、そもそも溶岩エリアを無視した者たちの場合は、遠隔操作で温泉を消せばいいか。
「あ、あの! 温泉の近くに宿も用意して、くつろげるようにするのはどうでしょう!」
「ダンジョンだからなあ。あまりくつろがれても困る」
「う~……。私の案で、人類が大変なことに」
「諦めなさい。これであなたも立派な魔王軍よ」




