第597話 透明な氷の濁った部分
『モンスターダンジョンはどうだった?』
モンスターダンジョンの調査も終え、ヘーロスへと連絡する。
といっても、これといって特別な発見はない。
転生者に襲われるという想定外はあったが、あの程度であれば特段問題ともいえん。
「噂通りだな。罠はなく、モンスターだけがいるダンジョンだった」
『入る者ごとに、出現するモンスターが異なるという話だったけど。それも噂通りかしら?』
「いや、そこだけは噂と異なり不満な点だな。私が苦戦するようなモンスターは出てこなかった。せめて、超位モンスターとでも戦いたかったが」
『まあ、そうそう超位モンスターなんていないでしょ。今の魔王は、なぜかやる気を失っているもの。モンスター集めも積極的じゃないんでしょ』
以前の魔王軍なら、超位とまではいかないが、上位モンスターは大量に集めていたのだがな。
欲望のダンジョンのほうにはソウルイーターがいるようだが、モンスターダンジョンのほうは質より量になったということか。
「残念だ。ああそれと」
『なにかしら? 想定外のトラブルでもあった?』
「転生者に襲われている人間がいた。それを止めようとしたら戦闘になった」
『また転生者? ほんと、面倒ごとばかりね。役立つ善良な転生者と、問題を起こす悪質な転生者。半々くらいじゃない』
「女神様も、そのあたりを考慮して転生させてもらいたいものだな」
『本当にそうよ。テンユウあたりが、またぼやきそうね』
違いない。あの男は、転生者に襲われて殺されたらしいからな。
いや、イドとオルナスもだったか。
魔王軍を倒すどころか、勇者たちを倒す転生者……。
「よりによって、それだけの力がある転生者が味方ではなく敵に回るとは、ままならないものだ」
『戦力は与えたから、私たちでうまく手綱を握れってことかもしれないけど、それならそれで事前に連絡くらい欲しいものね』
「頼れる味方が一転して敵か……。まるで、リピアネムのようだな」
『……あいつの名前は出さないで。大丈夫、次も絶対に殺すから。今度こそ、私たちだけで殺してみせる。ルダルの恥は、ルダルの民が対処する』
失言だった。
ヘーロスとの会話で、リピアネムの名前を出すべきではなかったな。
「おそらく、ピルカヤあたりはすでに復活しているだろう。だが、リピアネムはまだ復活しているかどうかわからない。今は、あいつのことを考えるべきではない」
『ええ、わかっているわ。それで、リウィナと戦った転生者はどうなったの?』
「逃げた。それなりの力だったが、私に敵わないと悟ったらしい」
『面倒ね……。リウィナから逃げきれるほどの実力者、あるいは加護ということかしら?』
「いや、戦った場所がダンジョンだったことを考えると、帰還用のアイテムの可能性もある」
『なるほどね。どうするの? ダンジョンの調査は終わったし、ルダルに帰還する?』
ヘーロスの提案にしばし考えを巡らせる。
モンスターダンジョンは踏破した。ボスも倒したが、特に気になる点はない。
亜種モンスターもいなかったことから、件のモンスター騒動とも無関係だろう。
ならば、あの転生者はどうか。
……私が取り逃がしたということが気がかりだな。
あの場で殺すことができれば、今後の被害を減らせたはずだ。
「……その転生者を追う。関わった以上、私が処理すべきだろうからな」
『そう、無理はしないようにね』
ヘーロスの心配もわからなくもない。
ルダルは、ドラゴンとエンシェントドラゴンのみが住まう国だ。
過剰な戦力は、他国からは明確に警戒されている。
だからこそ、単独で行動する私を狙う者も出てくるかもしれない。
「だから、お前たちのような者の相手には慣れている」
「へえ、やけに自信がありそうだな。お前なんて、勇者ですらないただのパーティメンバーじゃねえか」
「さすがに、竜の集団を相手にするのは厄介だが、お前一人で俺たち全員を倒せるはずねえだろ」
人間、獣人、海人族、ハーフリング。
魔族も竜もいない。それに、どうやら転生者でもなさそうか。
残念なことに、この手の存在は珍しくもない。世界が荒れているため、力で全てを奪おうとする者は増えている。
魔王軍と人類が争い、それが終わっても種族間、国家間で争い、いつになれば平和な世が訪れるのだろうか。
「いくら古竜といっても、一人が相手なら恐れる必要もないんだよ!」
獣人の攻撃が迫る。それを皮切りに、他の者たちも私を殺そうと仕掛けてくる。
大した連携だ。こうして他者を襲い、殺した者の金銭やアイテムを奪って生きているのだろう。
そして、私を知りながら挑むあたり、それだけの自信があるということだ。
私を殺すことができれば、同類たちに明確に上だと示せるだろうからな。
一人で歩いていた勇者パーティなど、さぞ絶好のカモに見えたのだろう。
「だが、先ほどの転生者の方が強かったな」
「つ、強い……」
「竜に変身するどころか……ブレスすら使わずに……」
古竜の力は、各々異なる属性を司り操るブレス。
そして、絶大な力を解き放つ竜への変化。
だが、それは使わない。使ってはならない。
あのリピアネムが、人の姿のまま最強であるのなら、私も使うつもりはない。
そうしなければ、いつまでたってもあれに届かない。
ヘーロスのリピアネムへの執着を解決する。それこそが、勇者パーティとしての私の役目だろう。
◇
「リウィナ、強っ」
モンスターダンジョンのボスは、一応上位モンスターを配置したけれど、あっさりと倒されてしまった。
見る限り、わりと本気で戦っていたはずで、他の侵入者たちなら簡単には倒せない強さだったというのに。
道中の中位以下のモンスターたちも、リウィナには加減なく挑んでいたが、やはり敗北している。
竜というのは、それだけ別種の存在ということなんだろうなあ。
「超位モンスターであれば、もう少し抵抗できたかもしれません。ですが、ゴブリンたちは、リウィナに戦力を見せることを嫌ったのでしょうね」
「さすがゴブリンだ。俺より頭が良い」
「レイ様の場合、わかっていて全力を出しているだけなので、別の何かだと思います」
フォローしてくれたようであり、その実得体のしれない化け物扱いされた気がする。
まあ、プリミラの言うとおりだからな。ついつい全力を出して仕留めたくなる。
というか、勇者パーティなんて、俺のダンジョンが勇者に通じるかの指標として申し分ないじゃないか。
是非とも、俺の全力のダンジョンを体験してもらいたくなってくるのが、人情というものだ。
「そういえば、リウィナもリピアネムみたいにブレスを使わなかったな」
「あいつは自身に厳しい女だからな。そうして鍛えているということだろう」
「なるほど。あえて力を制限して、基礎を鍛え続けているわけだ」
ストイックだなあ。古竜ってみんなそうなんだろうか。
「リピアネムも、ふだんは剣ばかりでブレスもドラゴンへの変化もしないよな」
「私の場合は、必要であればどちらも使うぞ。ルイスやヨハンのときのようにな」
そういえば、あの二人はそれを引き出していたな。
と考えると、転生者ってやっぱり厄介だ。
リピアネムの本気の一端を引き出すほどの実力なのだから、油断できない。
それを考えると、やはりあの嘉神とかいう男も、機会があれば潰しておきたい。
「必要であればドラゴンに変身するぞ」
「……今は必要ないから平気」
「背中に乗せるぞ」
「う……。まあ、またの機会に」
戦闘以外では、そのあたりの考えは雑になるのか。
我が家の忠犬は、俺を背に乗せるために変身しようと尻尾を振っていた。
そんなに安売りして良いのか。エンシェントドラゴン……。




