第591話 既読スルーの会話ログ
「転がる岩作成」
「なんで急に!?」
「対話を試みている」
「お前ぇ……。ついに、岩と話そうっていうのかよぉ」
「いや、ダンジョンマスターさんと」
「意味わかんねぇ……」
そうかもしれないが、こちらもまだ手探りなので仕方がない。
ちなみに、さっきの転がる岩は、性能をさらに向上できないか相談しながら作ったところだ。
……心なしか、岩が大きくなっている気がする?
いや、気のせいだった。というか、なんとなく気のせいだと教えてもらえている気がする。
「……わりと、ダンジョンマスターさんの思念みたいなのは、わかる気がしてきたんだけどなあ」
「お前、もう休めってぇ……」
「失敬な、俺の頭がおかしくなったわけじゃないぞ」
別に幻聴とかそういう類ではない。
そりゃあ、最初はちょっと不安もあったけれど、こう何度も感じ取れる以上は、きっとダンジョンマスターさんの思念のはずだ。
だが、当然ながら俺以外には、そんなことは伝わるはずもない。
本気で心配したアナンタは、俺のことをテラペイアのもとへと送り出すのだった。
◇
「君なぁ……。いい加減、自分が倒れる癖はやめたらどうだ?」
「大丈夫です! ナルカミ様が運んでくれますので!」
「運ぶぞ!」
「そういう問題じゃない! まったく……。次やったら、麻酔して動けなくするぞ」
診療所では、アルメナと鳴神がテラペイアに叱られている。
大方、またいつものように、村人たちの傷を請け負ったんだろうな。
いや、村人よりもオーガたちのような、戦闘大好きな従業員たちの傷かもしれない。
いくら村人たちの傷を集約させたとしても、さすがに、そう何度も何度も倒れることにはならないだろうし。
「何度も言っているが、地底魔界では医療が充実している。君が請け負う必要はない」
「ですが、そうなると私の仕事がなくなってしまいます……」
「普通に治療すれば良いだろう。……そうだ、それが良い。私のもとで働け」
「良いのですか!?」
「物資があれば、わざわざ傷つく必要もないだろう。ちょうど良い。レイ、彼女たちは私が預かるがかまわないか?」
テラペイアは俺が訪ねたことに気付いていたらしく、そのまま俺に話を振ってきた。
気付いていなかった教会の者たちや、テラペイアの部下たちが、慌てて頭を下げてくる。
「そうだな。医療関係ということで、テラペイアがとりまとめてくれると助かる」
「ということだ。今後君たちは、私の部下となる。自傷行為については必要に応じて使うが、原則使わせないと思ってくれ」
「わ、わかりました……。ところで、テラペイア様」
「なんだ?」
「魔王様を呼び捨てにして、問題ないのでしょうか……」
あ、忘れてた。
まあいいか。アルメナをはじめとした教会勢も、もはや従業員としてやっていくだろうし、そろそろ話すべきだろう。
「俺、魔王じゃなくて宰相なんで」
「宰相様……。あの、十魔将様とどちらが偉いのでしょうか?」
「レイだな」
「うん。一応俺のほうが偉いらしい」
フィオナ様いわく、魔王の次は四天王と宰相が同格とのことなので。
「良いのでしょうか?」
「気にするな。レイはそういう男だ」
「裏切らなければ何でも良いから、好きに呼んでくれ」
「そ、そうなのですね……」
敵じゃなければわりとゆるいぞ。俺は。
四天王と十魔将以外からは、敬称と敬語ばかりだけど。
「気を付けろよアルメナ。レイは、舐められたら何食わぬ顔で制裁する男だぞ」
「き、気を付けます!」
それはそうだ。俺が舐められるということは、魔王軍の宰相が舐められるということ。
つまり、フィオナ様に弓引く行為へと発展するのは目に見えている。
ならば、フィオナ様が被害に遭う前に対処するのも、宰相としての仕事だろう。
「さて、待たせてすまなかったね。レイの用件を聞かせてくれ」
「ああ。俺は別に良いと言ったんだけど、アナンタがテラペイアに診察してもらえって」
そう言った途端、テラペイアは真剣な顔でこちらを見つめ始めた。
だから、そんなに重くとらえなくて良いってば……。
「詳しく話を聞かせるように」
「ダンジョンマスターの力と対話を試みていたら、なんとなく意思のようなものを感じた気がする」
「すぐに検査だ」
「なんで!?」
逆らったら麻酔で動けなくされる。
そう察した俺は、テラペイアの検査を甘んじて受けることにするのだった。
◇
「異常はないな」
「ほら見たことか」
体に異常はないらしく、健康体そのものだと診断された。
脳や精神も不審な点はないらしいので、やはり俺は間違っていない。
つまり、あのダンジョンマスターさんの思念は、本当に俺と意思疎通をしてくれているのだろう。
「しかし、加護の意思か……。私たちでは、相談には乗れないだろうな」
「そうだよなあ。転生者でないと、加護についてわからないだろうし」
となると、また時任や風間に相談してみるか?
特に時任は、選択肢と会話しているらしいから、一番参考にできる気がする。
「そういえば、君も転生者だということは私たち以外には知らせていなかったが、これを機に打ち明けるのか?」
「どうだろう……?」
別に隠していたわけではないし、なんとなく話す機会を失っていただけだ。
ただ、話す必要があるかと言われると、これもまた難しい。
俺が転生者と知っているのは、フィオナ様と四天王と十魔将だけ、他の者たちは現地の魔族だと思っている。
宰相となった俺が実は転生者だと知られたら、従わない者が増えるかもしれないな……。
一般の魔族や転生者に限ってそんなことはないと思うが、むやみに打ち明けるべきでもないと思う。
「やめておこうかな」
「そうだな。無意味な火種をまく必要もない」
何でもかんでも、打ち明ければ良いってもんじゃないからな。
きっと、フィオナ様も魔王として色々なことを経験しているだろうけど、俺から根掘り葉掘り聞くつもりもないし。
いずれ必要になったら打ち明ける。それで問題はないはずだ。
◇
「悪かったな。集まってもらって」
「かまわないぜ。最近は仕事も順調だからな」
「転生者に聞きたいことがあるとのことですが、元の世界の話ですか?」
やはり、俺は転生前の世界を知らないと思われているみたいだな。
魔族に転生した者の存在なんて、それだけ予想外なのだろう。
「前に話したけど、加護の意思について話を聞きたい」
「選択肢ですね! 生意気で、すぐにからかってくるんです!」
「それ、あんただけだから……」
そう、時任くらいなんだ。
だけど、俺が求める答えに一番近いのは時任だし、他のみんなも時任の領域まで届くのかが気になる。
「時任以外は、自分の加護と話そうとしたことは?」
「私はありませんね。そもそも加護に意思があるなんて、考えたこともありませんでした」
「僕たちは、奥居さんと違って意識して使う加護でもありませんし」
「賢者とか聖女とか言われても、実感ないわよね」
だよなあ。そもそも、風間たちは常時発動している加護みたいなものだし、加護を使おうと思ったことすらないはずだ。
「俺は常に己の内のヒーローと向き合っているぞ!」
「お前の場合は自己暗示って加護だから、それはきっと別の何かだぜ」
「何!?」
「そういうロペスはどうなの? 開錠って加護だったから、僕たちよりは意識できる加護じゃない?」
「いやあ……。俺、加護とか信用してないから、ほとんど使わないしなあ」
そうか。時任以外は、そもそも加護を意識することすらないか。
それに比べて時任は、毎日加護と会話するように接している。
そのあたりの違いなのか。それとも、そもそも時任だけが特別なのか。
「それじゃあ、みんなで加護と会話すれば良いんじゃないかな! そうすれば、私がいかに選択肢に意地悪されているか、わかると思う!」
「いや、俺たちの加護喋らないと思うぜ……」
「試しにちょっとだけ!」
「ええ……」
「ごめんね、ロペスくん。芹香って、わりと力ずくだから」
そんな時任の提案により、ロペスたちは自身の加護と向き合うことにした。
ついでに俺もこっそりと、ダンジョンマスターさんと向き合ってみる。
ダンジョンマスターさん。超位モンスターのプラスが欲しいです。
……やはり返事はない。
返事はないんだけど、意識すればするほど、こいつまた無茶ぶりをみたいな意思が返ってきている気がするんだよなあ……。
「駄目だ。まあ、俺が加護だとしたら、今までろくに頼ってもいない相手とお喋りしようって気にはならねえしな」
「俺は、自分の内からヒーローの声が聞こえてきたぞ!」
「だからそれ、お前自身の声だから」
鳴神の勘違いはさておき、ロペス以外の転生者も上手くいっていないみたいだな。
ただ、俺のほうは徐々に、ダンジョンマスターさんらしき意思を感じ取りやすくなっているし、今後も継続して試してみるとしようかな。




