第589話 第一声は呆れ声
「大丈夫そうだよ~」
「そうか。ありがとうピルカヤ」
俺の労いの言葉を聞いて気を良くしたピルカヤは、そのまま炎の中に消えてしまった。
どうやら、今度こそモンスターの変異種は暴れまわっていないらしい。
きっと、イピレティスたちが殺したエルフが、モンスターたちをけしかけていたからだろう。
強化したやつは別かもしれないが、少なくともモンスター被害は一旦片付いたと思って良さそうだ。
「これで、モンスター事業に専念できる」
「今までも、わりと自重していませんでしたけどね」
「警戒はしていましたよ?」
フィオナ様の指摘に反論するも、彼女は疑いの目をこちらに向けていた。
なんですか。文句でもあるんですか?
そんな意味を込めて、目を逸らさずに真っ向から受け止める。
「……」
「……」
「何を見つめ合っているのさ。お二人とも」
「戦っています」
「戦っている」
「……何と?」
そりゃあ当然魔王様だ。
相手は最強の魔王、少しでも気持ちが揺らいだらそのまま敗北まで一直線だ。
このままなんとか拮抗した状態で……。
「……顔は良いんですよねえ」
「顔はってなんですか!? 中身は!?」
「かわいいです」
「で、ですよね! レイは、私の全てを好きですからね!」
「あ、いえ。ガシャに支配されているときは、距離を置こうかと思っています」
「そういうときこそ、あなたがそばで支えてくれるべきでしょう!?」
え~……。
つまり俺がいなければ、ガシャで暴走しないってことか?
いや、一人で回しているときもある。だから魔王様はもう駄目だ。
「顔は良いんですけどねえ……」
「なんで二回言ったんですか!?」
不満そうな目で睨まれるも、かわいいだけだから怖くない。
「それで、モンスター事業がどうとか言ってなかった?」
「そうだった。このままでは、またフィオナ様と見つめ合って時間が過ぎるところだった」
「私は一日中見つめ合っていても良いですけど~?」
俺もそれで良いけれど、それは仕事がないときの話です。
今は仕事優先なので、モンスターの話に戻ろう。
「実際のところ、モンスター関連の施設って、今も営業しているだろ? もしかして、施設をさらに増やすのか?」
「いや、これ以上増やしても、まだ管理できない」
モンスター園と水族館と植物園を増やしたばかりだからな。
しばらくは、安定するまで追加しないほうが良いだろう。
だから、俺が言っているモンスター事業は、ダンジョンのほうだ。
「モンスターダンジョンのほうに、力を入れようと思うんだ」
「……アナンタ、がんばれよ」
さすがは本体だ。分体の負担を心配してあげている。
でも、罠は仕掛けないから、アナンタの出番はないと思うぞ。
「一応聞いておくけれど、モンスターをどうするつもり?」
「プラス系を増やして、片っ端からあのダンジョンに配属させる」
今までは、モンスターの亜種を配置することは、自重していたからな。
だけど、騒動が収まった今なら、少しずつブラックゴブリンたちを戦線に復帰させられるはずだ。
「……まあ、いいか」
よし、四天王からも許可が出たことだし、今日はモンスターガシャの日だ。
「つまり、ガシャの日ですね! 付き合いましょう!」
「嬉しそうなところすみませんが、宝箱とは無関係ですよ?」
「わかっていますとも、それでもガシャ仲間がいれば、外れたときに傷を舐め合えるじゃないですか」
「すでに負ける考えなのは、いかがなものかと……」
「はっ、私としたことが! そうですね。常に勝利をイメージして戦いましょう」
なんか、この魔王様と一緒にガシャを回すことで、俺まで敗北しそうな気がしてきた……。
◇
「なんで魔王様とレイさん、手をつないでいるんですか?」
「二人の力を合わせて、最強のガシャ結果を呼び込もうとしているからです」
「なるほど! スーパー蘇生薬を当てるということですね!」
なにそれ。
「そうです!」
そうなの?
「レイさん。またガシャ祭りですか?」
「いや、俺がモンスターガシャを回して、フィオナ様は宝箱ガシャを回すというだけだ。……もしかして、みんなも回したい?」
「レイさんの負担次第ですかね? 私たちは、単にアイテムをもらえるだけで得しかない催し物ですし」
たしかに、みんなは魔力を注ぐだけだもんな。
かといって、俺もせいぜい魔力を五ずつ消費するだけだし、今なら魔力回復薬でどうとでもなる。
なら、そのうち開催しても良いかもしれない。
フィオナ様を知る従業員も増えたし、報奨とは別に何かを与えるのも悪くないだろう。
「まあ、今回はゆるくガシャを回すだけだから、興味があったら見れば良いし、飽きたら立ち去っても良いぞ」
「は~い」
時任と奥居は、とりあえず見ていくことにしたらしい。
そうやって、二人が見ているものだから、何事かと徐々に人も集まっていく。
結局は、多くの見物人が集まってしまうんだよなあ。
魔王軍、暇なのか?
「レイ。今日の影冠樹は、どこまで使って良いですか?」
「そうですねえ……。十連で」
「なるほど、引ける確率は三割といったところですか」
どんな計算? フィオナ様が、アホなデータキャラみたいになってしまわれた。
「えい」
「つねらないでください」
さすがに、不敬な考えは見抜かれるか。
仕方ない。さっさとモンスターと宝箱を生成するとしよう。
「今日はどうしますか? 普通の宝箱ですか?」
「そうですね。ピックアップの中に蘇生薬はなさそうですし、ピックアップ外からの低確率を……なんとも辛い戦いですねえ」
でも、現状ではそうするしかないからな。
とりあえず、宝箱を十個作ると、フィオナ様は一つ一つに念を送り始めた。
……念ではなく、魔力を注いでください。
「レイ様は、どんなモンスターを作成されるのですか?」
「そうだなあ。低位のプラスは増えてきたし、そろそろ中位や上位のプラスを狙いたい」
もしも生成できるのなら、きっとすごいことになる。
ソウルイータープラスとか、冒険者を片っ端から丸呑みしてくれそうだ。
しかも、今のソウルイーターも強化されるので、ボスと同等かそれ以上の戦力として期待できる。
「よし、上位モンスターでいこう」
ガシャる。とにかくガシャる。
どうせ今日は、これ以外に魔力を消耗する予定もない。
ならば、ここで全ての魔力と回復薬を使い切る意気込みでガシャろう。
「こい!」
「来てください!」
隣ではフィオナ様も、蘇生薬を目指して頑張っている。
なら、俺も負けずに上位モンスターのプラスを引き当ててみせよう。
「これはまた、随分と賑やかになりそうですねえ」
「エピクレシちゃんの……軍勢よりも……多いね」
大丈夫。モンスターたちの居場所は、ダンジョンマスターさんが作ってくれるから。
だから、まずは上位のプラスをお願いします!
“…………今は無理”
「?」
周囲を見渡す。当然ながら、様々な従業員が集まっているのもあり、思い思いに話す声が聞こえている。
「どうしました? レイ」
俺の様子を不審に感じたフィオナ様は、宝箱をそっちのけで俺を心配そうに見ていた。
……気のせいか?
「俺がモンスターガシャを回しているとき、今は無理だと誰か言いませんでした?」
「ええ!? ガシャに挑む者のやる気を削ぐような発言を?」
どこに驚いているんだ、この魔族は……。
「それは由々しき事態ですね……。まさか、魔王や宰相を裏切るということですか?」
「いえ、どこまで重く捉えているんですか」
俺と同じく周りを見渡しているけれど、若干敵意を含めないでください。
パワハラですよ。それ。
「聞いたことがない声だったので、たぶん気のせいです」
「む……。ということは、うちに裏切り者はいないということですね。安心しました」
裏切りの判定がガバガバすぎる……。
魔王様に睨まれていて緊張していた者たちも、また楽しく見守ってくれているようだし、さすがに裏切り者はいないと思いますよ。
「とりあえず、後何回か回したら終わりましょうか」
「うう……。勝てそうで勝てないんですよねえ」
その勝てそうという感覚も、きっと気のせいです。
それを口にしないだけの優しさは俺にもあるので、俺たちは二人で沼の中に沈むことにした。




