第588話 無限の回復薬
「魔王様! アルメナたちが、改めて挨拶したいと言っているぞ!」
「ん? そうか。じゃあ、連れてきてくれ」
どうやら、鳴神による地底魔界観光ツアーが終わったようだ。
うまくうちをプレゼンしてくれただろうか?
イピレティスたちの姿を見られているし、もしもこれで拒否されるようであれば、ここに捕らえることになるな。
どの道ここで暮らすことになるのであれば、せめて向こうも乗り気でいてもらいたいものだ。
◇
「まずは、勝手に魔王様の御前から立ち去ってしまい、申し訳ございませんでした」
「構わない。それで? 今後どうするつもりだ」
偉そうに頬杖をつきながら玉座に座って尋ねる。
なんともふてぶてしい男だなあと自嘲しそうなほどの態度だ。
「魔王様は、今後もここに人類を住まわせる予定なのでしょうか?」
「まあ、その予定だな」
従業員は何人も必要だ。
どうせ、今後も地底魔界の拡張は行うし、人手はいくらでも欲しい。
「つまり、魔王様は人類さえも救済する予定だと!」
「え」
なにそれ。鳴神のやつ何を言ったんだ。
思わず顔を向けると、鳴神は腕を組みながら満足そうに頷いていた。
「いや、俺は魔族が平和に暮らせるなら、人類はどうでも良い」
「だが、魔王様は身内になったのであれば、魔族も人類も分け隔てない方だ。そうだろう?」
「まあ、差別はしないけど」
「やはり、魔王軍は全ての生き物を救済しようとしているのですね!」
そんな大層なことを言った覚えないんだけど……。
絶対に、なんか勘違いしているだろ。
止めろ、教会の人たち。お前らのところの代表が、なんか暴走しているぞ。
あ、無理そう。教会の女性たちも、なんか感銘を受けたように震えている。
「救済とか考えてないんだけど」
「いいえ、わかります! ここで暮らす者たちの顔を見ました! 魔王様が成そうとしていることこそが、私たちの理想の世界なのです!」
「地底魔界に楽園は作りたいけど、あくまでも魔王軍のためで」
「つまり! 魔王軍の配下にも、その恩寵が与えられるのですね!」
「たしかに、従業員用の無料施設はあるけど……」
あれ、俺は人類を救おうとしているのか?
いや、騙されるな。俺の目的は、あくまでもフィオナ様が喜ぶ世界だ。
人類は……まあ、ぶっちゃけどっちでも良い。
なら、アルメナたちが、魔王軍の人類を救いたいというのを止める必要もない。
「まあいいや。つまり、アルメナたちは人類を救いたいんだろ?」
「はい! その通りです!」
「敵対している人類を救われると困るけど、内部の人類が相手なら問題ない」
「つまり、人類をこちらに引き込めば、救済対象が増えるということですね」
「そうなるな」
フィオナ様や魔王軍に害を与えない人類というのであれば、別に敵対するつもりもない。
そして、それらがうちの庇護下だというのであれば、邪険にするつもりもない。
「わかりました! では、まずは魔王軍の人類たちを救済し、行く行くはその対象を増やしていきます!」
「つまり、うちで働くってことで良いのか?」
「はい、魔王軍に共感しました! ぜひ、お仲間にいれてください!」
う~ん……。なんか、勘違いされている気がするけれど、敵意はないし良いか。
最初に会ったときは困惑と、むしろ自分を騙した鳴神へ怒りを向けていた。
そして今は、なんか勘違いしているとはいえ、こちらを見つめる目には敵意は感じない。
ここで俺を騙そうとした場合は、敵意判定されて暗影の指輪の効果が発揮されるはずだからな。
「じゃあ、よろしく。とりあえず、今後について話そうか」
◇
「なるほど……。傷を引き受ける力か」
「はい……。すみません。回復魔法が使えたら、それが一番だったのですが」
「いや、回復魔法を使える者はうちにいるけれど、その能力を持った者はいない。レアだな」
「は、はあ……。レア」
使える手段は多いほうが良いからな。
回復魔法なら、テラペイアや彼の部下、それに原と世良もいる。
だけど、アルメナの能力はアルメナしか使えない。
いずれ、何かの役に立つ可能性があるだろう。
「どこまでできるんだ? 傷だけ? それとも病もいける? 疲労とかも引き受けられる?」
「え、えっと……」
「魔王様。アルメナが戸惑っているぞ」
「ああ、悪かった」
つい気になったので、思わずぐいぐいと質問をしてしまった。
「ええと、残念ながら私が移せるのは、あくまでも傷だけです。私は、傷負いですから……」
「へえ、それじゃあ怪我の治療が主な役目だな」
「あの……。蔑まないのですか?」
「え、なんで?」
俺にも鳴神にも、彼女の言葉の意味はよくわからなかった。
今の会話の中で、蔑む理由がない。
「わ、私は他人の傷を負うしかできない出来損ないですので……」
「いや、それでも村人たちを救っていたんだろ? 鳴神」
「うむ。立派なヒーローだった! 俺の同志だ!」
だよなあ。ピルカヤとタイラーから受けていた報告と同じだ。
「やはり、魔王軍こそが私の居場所……」
「よくわからないけど、うちではその力を馬鹿にすることはないぞ。便利そうだし」
というわけで、その力をもっと有効活用できる方法を考えていこう。
◇
「アンデッド化すれば、傷を無限に引き受けられるんじゃないか?」
「なるほど! たしかに、それなら私の力をもっと扱えます!」
「わかってる? お前、今一回殺すって言われてるからなぁ?」
駄目か。
アナンタチェックを通過できなかった。
「増強の湯(改)に浸かってから、他人の傷を引き受けたら、傷が半減するんじゃないか?」
「そのようなものまで! さすがは魔王様です!」
「その通りだろうけどよぉ……。まず、他人の怪我を引き受けるのやめないか?」
「大丈夫。うちの医療チームも揃ったことだし、怪我してもすぐに治せる」
「ありがとうございます!」
傷を半減して引き受けて、すぐに治療する。
なんだ。完璧な布陣になりそうじゃないか。
「えぇ……? 自分への痛みとか、考えないのかよぉ……」
「ひどいぞ、アナンタ。せっかく、アルメナの役割を考えていたのに」
「やはり……駄目でしょうか?」
「俺、むしろお前の心配してやってるよなぁ!?」
それはそうなんだけど、アルメナはたぶん自分が傷つくよりも、誰かを救えないことに苦しむタイプだ。
であれば、その力をこちらで惜しみなく使ってやることが、彼女にとって一番なのだろう。
当然、こっちも万全の体制でケアしてやって、負担をぐっと減らす所存だ。
◇
「子供が怪我をした! いくぞアルメナ!」
「はい! ナルカミ様!」
地底魔界には、家族ごと住んでいる者たちもいる。
この前俺たちがナルカミと一緒に助けた村人が、丸々移住したことにより、子供たちの数はまた増えている。
そのためか、最近は子供たちが無茶な遊び方をして、怪我をすることも少なくない。
「さあ、ヒーローが来たぞ! 行け、アルメナ!」
「はい! さあ、あなたの傷を私に移しましょうね」
「いつもすみません。アルメナ様、ナルカミ様……」
平然と他人の傷を請け負うか……。ほんと、傷負いのアルメナってすごいなあ。
ナルカミと一緒にいち早く駆けつけ、傷を自身へと移す。
その後は、彼女の仲間たちが傷を癒す。
テラペイア先生も感心するその手腕は、彼女たちがたしかに人々を救済しているように見えた。
「今日は怪我人が多いようですね。では、一度に……うっ」
「アルメナー!!」
自分の体の限界がわかるとはいえ、倒れるまで力を使うというのはどうなんだろう?
今までは、そのまま自然回復するまで倒れていたというのだから、本当にすごい女性だなあ……。
地底魔界なら、回復魔法やアイテムですぐに完治できるが、きっとテラペイア先生にまた叱られるぞあいつら……。




