第579話 ヒーローも転職サイトを使う時代
「うむ、全員無事の様だな」
「は、はい! ナルカミ様たちのおかげで、新たな怪我人はおりません!」
「では、これで憂いなくこの村を去れるというものだ」
「え……」
ナルカミの言葉に、村人たちは顔色が悪くなった。
当然、それを見逃すナルカミではない。
何か問題を残していると判断すると、彼は村人たちへ問いかけた。
「まだ終わりではないのか?」
「おそらくは……」
不安からの言葉というよりは、何か確信めいたものを持っている。そんな発言だった。
その理由を補足するように、別の村人たちもめいめい不安を口にした。
「一度や二度じゃないんです。モンスターたちが訪れたのは」
「何度も冒険者の方たちに助けてもらいました。ですが、そのたびに別のモンスターたちがやってきて……」
「もしかして、魔王軍がモンスターを使った実験を……」
「きっと、また別のモンスターがやってきます!」
……事情はわかったけれど、だからといってこの村に滞在するわけにもいかないんだよなあ。
というか、魔王軍のモンスター実験とか、あながち間違ってもいないことを言われてしまった。
当然、ここを襲うモンスターなんてレイ様の仕業ではないが、レイ様がモンスターで実験しているのは事実だ。
「ふむ……わかった」
ナルカミはそんな訴えを正面から受け止めた。
おい、もしかしてこの村に滞在しようっていうんじゃないだろうな。
さすがにそれは、レイ様の許可をもらってからだぞ。
「選ぶがいい。この村で危機と共に生きるか、別の土地で生きるか」
「そ、そんな……。ここ以外に行く場所なんて……」
「路頭に迷って死ぬだけです……」
まあそうだよな。俺たちみたいに、冒険者になれるわけじゃない。
それ以外の職業だって、見知らぬ土地で成功する確証もない。
いくらモンスターに襲われる危険な土地といえ、ここを離れることには相当の抵抗があるはずだ。
そもそも、ナルカミにはこの人たちの移住先のあてなんてあるんだろうか?
「ナルカミ様。口をはさんで申し訳ありませんが、その提案は難しいと思います」
「む、アルメナか」
見かねて声をかけてきたのは、事の成り行きを見守っていたアルメナだった。
そうだよな。この人も教会で辛い立場だし、別の場所が幸せであるという保証がないことを知っているんだろう。
「似たような村に移住しても、受け入れてはもらえません。この人数を受け入れるほどの余裕がある村なんて、存在しませんから」
「かといって、例えばアルマセグシアのような場所に移住しても、彼らが暮らせるほどの基盤を整えるのは難しいでしょう」
「むむ」
教会の女性たちは自分たちの立場ゆえか、彼らの移住がいかに現実的でないかをナルカミに諭す。
できることなら、彼女たちも村人をなんとかしたいんだろうな。
「良い移住先があるぞ」
だが、ナルカミの口からは、相も変わらず楽観的な言葉だけが出てくるのだった。
◇
「え~……」
『無理か? であれば、仕方あるまい。彼女たちに謝罪してくる』
ピルカヤやタイラーから随時連絡されていたため、状況はよくわかっている。
モンスターに幾度となく襲撃されていた村。
それに、そんな村を救おうと動いていた教会で爪弾きにされていた者たち。
……いや、さすがにそれら全員がうちに移住というのは、反発されるんじゃないか?
「どう思います? フィオナ様」
「いつもの侵入者と同じでは?」
「殺します?」
「なんでそうなったんですか!? 捕獲して従業員にしていたほうの話ですけど!?」
ああそっちか。てっきり、全員殺して解決するつもりかと……。
「レイくん、たまにすっごい怖いよね」
「真面目に考えたのに……」
「真面目に考えて、あれなの……?」
「諦めろぉ。本体」
さて、リグマの本体と分体のコントはおいておくとして、フィオナ様の言葉をもう一度よく考えよう。
いつもの侵入者たちと同じか……。
たしかに、地底魔界は人類向けの施設のためにも、人類の従業員はいつでもほしい。
なので、侵入者を捕獲しては働かせるようにしている。
つまり、それがまとまって手に入るということか。
……問題ないんじゃないか?
「さすがフィオナ様ですね」
「そうでしょう。もっと褒めなさい」
このもっと褒めろは、言葉ではなく触れてくれって意味だ。
頭を差し出しているのでわかる。
「鳴神。移住先はあるが、一度移住したら二度と外界と接触できないと言ってくれ」
『もとよりそのつもりだ!』
さすがにそこは理解してくれていたか。
あれだけの人間たちを受け入れる以上、しばらくの間は地底魔界から出すことはできない。
信頼できるのであれば外出許可くらい出すけれど、それがいつになるか、そもそも許可を与えられるか保証できないしな。
その条件を飲むというのであれば、他の従業員のように働かせる。
クララやナツラ、ゼラシアたちのように、一度に受け入れる人数が多いというだけだ。
条件を拒むというのであれば、あとは俺たちの知るところではない。
それだけだ。
◇
「ということで、あてはあるが片道切符だ。そこに住まうことになるのであれば、豊かな暮らしは約束しよう。しかし、その場所から出ることはできなくなる」
……さすがに、その言葉を聞いて二つ返事で了承できるやつなんていないよなあ。
いや、俺たちの場合は緊急だったからか、レイ様も俺たちもわりと即断していた気がするが。
だが、切羽詰まった状況じゃない村人は、教会の者たちは、いったいどう判断を下すのだろうか。
「それだけ聞くと、私たちを騙して労働力にしようとしているように聞こえます」
「だろうな。そう疑われるのも無理はない」
「……ですが、ひーろーは私たちを救ってくれました」
「考えさせてくれませんか……?」
「当然だ。簡単に決められることではない。タイラー、俺たちは何日までならここに滞在できる?」
「そうだなあ……。三日、かな?」
そもそも、外出申請を出していない。
ピルカヤ様が事情を伝えてくれたおかげで、レイ様には二三日程度なら問題ないと言われているが、それ以上はさすがに問題だろう。
それに、ずるずるとここに滞在し続けて、新たなモンスターに襲撃されてとなると、いよいよこの村から立つのが難しくなる。
「三日で決めてくれ。アルメナ、お前たちもだ」
「わ、私たちもですか!?」
「職場で不当な扱いを受けているのだろう? うちは転職した者たちにも寛容だぞ」
「ど、どうしましょう? アルメナ様……」
「さ、さすがに教会の所属を抜けるというのは……」
そりゃあそうだよなあ。村人よりも難しい問題だぞ。
冷遇されていたとはいえ、命の危機に瀕していたというわけでもない。
これまでもずっとそうやってきたのだろうから、急に教会を抜けるというのはなあ……。
「ちなみに、俺はお前らを必要としている」
「わ、私たちをですか……?」
「当然だ。俺はヒーローとして戦えるが、負傷者を癒やすお前たちの力は、俺にはないものだ」
なんか勧誘している。
ナルカミはナルカミで、魔王軍に貢献しようとしてくれているんだろうな。
現に、教会の者たちはさらに心が揺れているようだった。
さて、三日か……。彼ら彼女らは、いったいどんな答えを出すんだろうな。
◇
「なんか、勧誘を頑張ってるな」
「鳴神くんも、魔王様やレイさんのために、人員を増やそうとしているのかもね」
「いや、ありゃあただのノリだ」
「あ~、わかるかも。鳴神って、あまり考えて行動してないもんね」
ひどい言われようだ。
だが、同じ転生者組の者たちが言うのなら、きっとそれが正しい鳴神評なのだろう。
実際、俺もあいつは考えなしに動いていると思う。
それでいて、なんか物事がうまい方向に転がっていくから、今回のこともあまり心配していない。
あいつ、自分を馬鹿だと言っているけど、その手の勘が鋭いというか、無意識のうちに正解を選んでいるんだろうな。
「畑仕事はできそうですね」
「あと、宿や商店もできるだろ。問題は教会のほうか?」
「テラペイアに預ければ良いだろう。怪我人の治療というのであれば、彼女たちが求める働き方に一番近い」
魔族は魔族で、転職先を考えて話し合っている。
話を聞く限りでは、わりと有効活用できそうだな。
「みんな柔軟な考えになりましたねえ」
「前までは違いました?」
「ええ。魔族以外の種族なんて信じられませんでしたし」
そういえば、これまでは人類が魔族を毛嫌いしていただけでなく、魔族も人類を嫌っていたんだっけ。
なんか、当たり前のように受け入れているから、そのことを忘れそうだった。
「あなたのおかげで、みんな変われたんですよ?」
「そうですか? だとしたら、せいぜい俺は切っかけくらいだと思いますけど」
そう言うと、フィオナ様が優しく抱きしめてきた。
……まあ受け入れておこう。いつものポンコツな顔じゃなくて、優しい微笑みなので、どうにも調子がくるってしまう。




