第576話 うきうきと生き生きと
「助けるって……仲間がモンスターにでも襲われたのか?」
見たところ、助けを求めた者たちは怪我一つない。
教会の戦士ではないようだが、俺たちより強いのか?
……いや、ゴブリンたちなら、誰が相手でも苦戦する程度の戦力を投入しそうだし、難易度はみんな平等か。
そんなおかしなダンジョンに思いを馳せていると、戦士たちは事情を説明し始めた。
「私たちは、近隣の村人たちを救うために訪れたのですが、モンスター被害が続出するため、物資が尽きて何もできずにいます……」
「あんた教会所属だよな? 物資なんて、いくらでも融通できるんじゃないのか? それに、戦士たちを呼べば、少なくともモンスターは近付かないと思うんだが」
「それは……」
こちらの問いかけに言い淀む様子から察するに、何か事情を抱えているようだな。
「私たちは、教会の中で爪弾きにされているからです……」
「教会で?」
人を癒やす集団でも、そんな内輪もめみたいなことをするのか。
まあ、人間だもんなあ。派閥争いとかがあっても不思議ではない。
……そう考えると、魔王軍ってそういうの全然ないな。
まあ、あの魔王様に逆らおうだなんて、自殺行為だからな仕方ないか。
「教会には戦士と癒し手がいますが、癒し手の中でも回復魔法を使えない私たちは、落ちこぼれとして扱われていまして……」
「なるほどな。それで物資か」
きっと、回復魔法を使えないなりに人々を癒そうとしたんだろう。
別に不思議なことではない。回復術士だけでなく、医者だって存在するのだから、治療行為の手段に優劣などない。
だが、教会の者たちはそうではなかったということだろう。
「私たちに与えられる物資は限られており、それだけでは村人たちを救うことは叶いませんでした……」
「だから、ダンジョンに回復薬でも探しに来たのか?」
「はい。それと、あなた方のような探索者の方々に、物資を売買してもらおうかと思いまして……」
どうするかなあ。
回復薬なら、いくらでも用意できるだろう。
トキトウちゃんのところにも、在庫はかなりあったはずだ。
だが、ここで手を貸す行為は問題ないのか?
教会は人類側の組織であり、彼女たちを助けることは魔王軍への裏切りになるんじゃないだろうか?
「えっと……」
悪いんだけど断ろう。そう口を開くと、レイ様の声が耳に響いた。
『助けていいぞ』
その言葉は俺以外にも聞こえたらしく、特にうずうずしていた様子のナルカミは、すぐに大声で彼女たちの助けを求める声に応えた。
「いいだろう! 安心するがいい癒し手たちよ! この鳴神奏一がお前たちを救ってやる!」
教会の者たちは、その堂々とした言葉に感謝し、なんなら拝みそうな勢いだ。
自信満々だからなあ。弱っているところにあんな態度を示されると、そりゃあもう頼りになるだろう。
ナルカミの場合、わりと空回りすることも多いけど……。
「あ、ありがとうございます。不思議な装束の方」
「これはヒーローの正装だ」
「ひーろー」
わかんないよな。俺たちもわかんないもん。
カザマくんたちに聞かされるまで、そんな概念知らなかったし。
「タイラーよ。俺は物資を持っていない。お前から彼女たちに渡してやってくれ」
「はいはい」
まあ、レイ様がいいと言ったし、今回はナルカミの暴走ではない。
であれば、困っている者たちに手を差し伸べることは、俺も嫌いではない。
「手持ちの分はとりあえずこれだけ」
「ありがとうございます。これで、アルメナ様が動けるようになります」
アルメナ……?
傷負いのアルメナか?
……危ない。思わず口にしそうだったが、さすがにそんな侮蔑の言葉は慎むべきだ。
『モンスターというのが気になる。騒動はいつのまにか解決していたはずだ。それがまた繰り返されるとしたら、モンスター園や水族館、植物園の客が減りかねない。話を聞いてみてくれ』
ああ、そういうことか。
たしかに、レイ様からしたらモンスター騒動の再来というのは、見過ごせないことなのだろう。
「ところで、そのモンスターたちというのは? 解決したって聞いたんだけど」
「はい。私たちもその認識でした……。しかし、再び特殊なモンスターたちが暴れまわる姿が目撃され、今度は僻地の者たちが襲われているのです」
「もしかして、そのせいで国まで話が届いていないのか?」
「おそらくは……。あるいは、切り捨てて構わないとされているのでしょう」
以前は田舎の村が標的だったらしいが、食い物を作っているところが狙われていたはずだ。
だから、国も放置するわけにはいかず勇者を頼っていた。
だが、今回は動かないということは、もしかしたら国にとって有益ではない村が襲われているのか?
……面白くない話だな。
まるで俺たちの村と同じだ。
だからこそ、俺たちは冒険者になって食っていけるようにと努力したんだ。
俺たちみたいな者たちが襲われても、国は相変わらず動いてくれないのか。
「このダンジョンの出現と同時期だったことから、ここが怪しいと思っているのですが……」
『濡れ衣だ!』
そうだよなあ……。
そんなことしても、レイ様に得なんて一つもないし。
「よし、わかった!」
そんな勘違いを聞いてなお、ナルカミは自信ありげに大声で応えた。
「ヒーローたる俺が、お前たちを救ってやろう!」
「……」
大丈夫なのか? どうするべきか悩んでいると、レイ様は再びこちらに声を届けてくれた。
『まあ、気になるから様子見で。鳴神なら、言えば聞いてくれるし、ある程度好きにさせておこう』
いいのかなあ?
だけど、リピアネム様の暴走に比べると楽そうだし、きっとどうにでもなるんだろうな。
「さあ、詳しい事情を話すといい! ……いや、まずは怪我人の治療だったな。タイラー回復薬を全て提供しよう」
「あ、ああ。わかった」
鳴神に促され、回復薬や食料を渡すと、教会の者たちは困惑しながらも感謝を示した。
そうだよなあ。何か裏があるとさえ思えるよな。
だけど、ナルカミの場合はこれが普通なんだ。
しかも、俺たちと違ってレイ様の言葉も聞かずにこれだ。
本当に、善意からの行動なので、彼女たちもきっとわかるだろう。
「あ、ありがとうございます! 私たちはすぐに村に戻りますので、このお礼は必ず!」
「よし、俺も行こう! 人手が必要になったときは、遠慮なく使うといい!」
「そこまでしていただけるとは……重ね重ね感謝いたします」
なんか、しれっと同行することになってるし。
相手の懐に入り込むのが上手いのか?
何の計算もせずにこれだから、転生者ってすごいよなあ。
というか、無断で外出っていいのか?
レイ様の場合、今回は問題ないと判断しそうだな。
とりあえず、俺たちもついていって、事情を聴くことにするか……。
◇
「ナルカミ、勝手に外に出そうだぜ? ボス」
「まあ鳴神だし。ピルカヤが見張ってくれているから平気」
それに、モンスター騒動が続いているというのなら、情報は得ておきたいからな。
あいつなら、ズケズケと物を言って、そのあたりを収集してくれることだろう。
「モンスターねえ。客足が遠のく前に、今度はすぐに解決しないとな」
なんか、ゴブリンたちが久しぶりに休暇届けを提出しようとしているな。
やはり、気分転換は重要ということだろうか?
まあいいや。受理しておこう。
「フィオナ様。特殊なモンスターって、こんな頻度で出現するんですか?」
「いえ、さすがにここまでではありませんね」
ということは外的な要因か。
……転生者かな?
「転生者の仕業ということは?」
「むしろ、それが一番納得できる理由ですねえ」
「また転生者かあ……。問題が大きくなる前に、さっさと解決したいなあ」
そんな俺の期待に応えようと、尻尾を振りながら見つめる目が二つ……。
「……」
「外の事件だから、リピアネムに頼るのは無理だ」
「む……」
彼女はしずしずと厨房へと戻るのだった。




