第569話 たった数ヶ月の浦島太郎
昨日の更新で、誤って先の話を投稿してしまいました。
恐れ入りますが、568話からお読みいただけますと幸いです。
「というわけであなたたちは、宰相レイと私が生成した蘇生薬によって蘇りました」
その言葉を聞いた魔族たちから、いっせいに視線を向けられる。
前なら緊張したかもしれないけれど、期待を込められていない分、ガシャを回すときやダンジョンの施設を新たに作るときよりはマシだな。
「今後はかつての魔王軍のように働いてもらいます。ですが、魔王軍の在り方は変わっているため、そこはあなたたちの上官が説明してくれることでしょう」
テクニティスとラプティキさんはいいとして、イピレティス平気かなあ。
いや、彼もわりと真面目なときは真面目だし、変態的説明にはならないと信じよう。
「そして最後に一番大切なことですが」
まだ何か?
フィオナ様の真剣な表情に、不足していた説明なんてあったっけと考えるもわからない。
一通り説明は終えたはずだよな?
「レイは私のものです。覚えておくように」
……蘇生もすでにかなりの回数になってきた。
そのため、こうしてそつなく説明できるようになったのはいいことなんだけど……この魔王、余裕ができすぎて、どうでもいいことまで主張しやがった!
「以上です。行きますよ、レイ」
「はい」
くそっ、真剣な表情がかっこいいじゃないか。
部下としては嬉しいけれど、先ほどのあの発言を聞いたせいで、取り繕っているだけで中身はポンコツだとわかるのが悲しい。
というか、腕を絡めてきているあたり、すでに隠し切れないポンコツがにじみ出ている。
◇
「イピレティス様~! いいんですか? 魔王様の側近は、イピレティス様の役割じゃないですか」
「そうですよ。それなのに、今はあの宰相様にとられちゃってますよね? 取り返さなくていいんですか?」
「私たちなら、取り返せますよ?」
「いっそ、あの宰相様を追い出しちゃいます?」
すでに部下を蘇生された者たちが、今回部下を蘇生された者たちの説明を補足しよう。
そう提案されたため、私はイピレティスと彼の部下のやり取りに参加していた。
アスピダもそうだったが、彼の部下もまたレイに不満を抱いているのか? 反逆か?
ドリュのように、もっと好意的にレイに接してもらいたいものだな。
「ディキティス様もそう思いますよね?」
話を振られたため、ここはひとつ私がレイのことを説明しようとすると、イピレティスに手で制される。
自身の部下は自身が教育するということであれば、口出しは無用だろう。
「レイ様は生粋の魔族で、極上の殺意の持ち主だよ」
それは、イピレティスの言うとおりだ。
その言葉を聞いて、そういえば彼の部下はそうだったなと思い出す。
「え! あんな覇気のない方がですか!?」
「てっきり、蘇生薬作成の功績だけで宰相に選ばれたと思ったのに」
「じゃあ、強いんですか?」
「う~ん……。直接戦ったら弱いけど、すっごく美味しそう!」
その言葉を聞いてイピレティスの部下たちはどよめき立つ。
それにしても、うちとは違うな。相変わらず、上官と部下というよりも友人同士のような関係性だ。
「あ~……だから、魔王様は自分のものだって牽制したんですね」
「そこは一線を超えないようにね? でも、僕たちならわりと受け入れてもらえるから平気だよ」
「そうなんですか? もしかして、イピレティス様の性別って宰相様に……」
「ばれたけど抱き着いても平気だった」
またどよめき立っている。
まあ、レイなら彼らに偏見の目を向けることはないだろうな。
見た目は少女だが性別は男性。イピレティスたちはそういう者たちの集まりなので、時には色眼鏡で見られていた。
レイに限っては、彼らをあっさりと受け入れることだろう。
後日、イピレティスの部下たちがこぞってレイに抱きついた。
最初は焦っている様子のレイだったが、本人たちが男だと明かした途端に気にしなくなったのを見て、彼らはレイに感動しているようだった。
◇
「テクニティス様! なんでドワーフなんかと一緒に作業しているんですか!」
「カールは優秀っすよ。といっても、お前たちが納得しないというのもわかるっす」
部下の勢いを受け流すように、テクニティスは飄々と受け答えしています。
私のときは特に問題ありませんでしたが、技術職というのはどうしてもこだわりが強いようですね。
魔族以外の者と協力することなどできない、と考えているのでしょう。
「ということで、全員で共同して作業するっすよ。それでカールが使えないというのであれば、今後は同じ仕事はしなければいいっす」
「……わかりました」
「さて、何を作るかが問題っすねえ。ルトラ、何か欲しいものあるっすか?」
欲しいもの……。う~ん、意外と思いつかないですね。
私たち精霊は物欲もあまりありませんし、何か欲しいものがあってもレイ様に頼めば解決しそうですからね。
「そういえば、オクイが水族館のお土産を作りたいと言っていました」
「じゃあ、アクアリウムドームでも作るっすか」
そうしてテクニティスもカールも、蘇生した者たちと共に作業に入ってしまいました。
……私、説明の補佐だったはずなんですけど、この場合どうすればいいんでしょう?
暇を持て余すと思っていましたけど、ちゃっかりと私に水の操作をお願いしに来るあたり、上官も部下も似た者同士ですね!
「さあ、できたっす。どうっすか? カールの腕前も捨てたもんじゃないとわかったっすよね?」
「う……たしかに、加工の技術ではドワーフには勝てません」
「装飾のこだわりとセンスがやっぱりすごいんですよねえ」
「いや、魔力操作技術ならお前たちのほうが上だ。だからこそ、協力する意味もある」
どうやら、うまくやっていけそうですね。
やはり技術者同士というものは、こうして実力を見せ合うのが一番手っ取り早いのでしょう。
テクニティスの部下たちも納得したようですし、これでうまく……。
おや、あの姿は。
“お、魔族が増えてる”
“それよりも、おもちゃがいっぱいあるぜ! これにいたずらしないのは、グレムリンじゃないよなあ!”
“俺たちももうわかってきた。これは、いたずらしても殺されない魔道具だ!”
「いいっすか、お前ら! レイ様とカールへの敵意がないのはいいっすけど、こいつらにだけは気を許しちゃ駄目っすよ!」
「げ、グレムリン! なんで、こんなやつらまでいるんですか!」
「レイ様は、使えるやつならなんでも使う方なんすよ!」
「宰相様……ぱねえ」
なんだか、レイ様が変なところで感服されていますが、もはや大騒ぎになっています。
後日、その騒ぎを知ったレイ様が落石の罠を一瞬で作成しました。
その罠の作成速度、それにグレムリン全員に一瞬で土下座させた手際。
それらを目の当たりにしたことで、テクニティスの部下たちからは、レイ様を崇拝するような目で見ていました。
◇
「ということで、今の地底魔界には魔族以外の種族も数多くいるわ。やりがいあるわよ?」
ラプティキの説明を部下たちが黙って聞いている。
私とマギレマは、彼女たちがレイに不満を抱えていないか見極め、ラプティキの手に負えないようなら彼女を補佐することを任された。
今は患者もいないのでかまわない。その役目は全うするつもりだ。
だが、なぜラプティキのところだけ二人がかりなんだ?
たしかに彼女の部下たちは少々軽薄だが、それほど手におえない者たちとは思えないのだが……。
「え~……。魔族はいいんですけど、人類のための仕事ですかあ?」
「そうよ。人類もなかなか侮れないわよ? ほら、これを見なさい」
ラプティキが見せたのは、オクイがたまにラプティキに渡している服のデザイン。
それを見た彼女の部下たちは、少なからず感心しているようだった。
「なかなかやりますね。人類も……」
「これを描いた子は転生者だから、異世界のセンスと思ったほうがいいわ」
「なるほど……。じゃあ、その発想や技術だけ奪ってしまえばいいんじゃないですか?」
「あ、それいい!」
まあ、そういう意見もあるだろうね。
もっとも、私にはそれが得策だとは思えないが。
「そんなことしたら、魔王様とレイ様に怒られるわよ」
「その宰相様もですが、あの方は強いと思えません。技術を買われたにしても、十魔将様のように戦う力がないというのはさすがに……」
「そうよね。いくらなんでも、弱い魔族に従うというのはねえ……」
不満は多い。まあ、仕方ない。
蘇生したばかりの部下たちが、あまりの環境の違いにそう思うのは無理もない。
特に、ラプティキの部下たちは、なんというか口うるさい。
ディキティスの部下たちのように、実力行使とかまではしないが、全体的に姦しいのだ。
「はいはい、文句ばかり言わないの。ここで暮らせば嫌でもわかるわ。他種族も案外捨てたもんじゃないし、レイ様がとんでもない存在だってね」
「え~? 新参の魔族にでかい顔させるんですか~?」
「私たちの手にかかれば、追い出すこともできますよ?」
む、あまり良くないな。レイが舐められすぎると魔王軍全体の空気が悪くなる。
注意すべきか、そう思い前に出ようとするが、私の隣で無言を貫いていたマギレマが先に動いた。
「あんたたち、そのレイくんのおかげで蘇生したって、ちゃんと理解してる?」
「マギレマ様……。まあ、蘇生薬はすごいですけどね」
「転生者たちもそうですけど、宰相様からも蘇生薬の技術だけ奪えばいいんじゃないですか?」
「う~ん……。何が不満なの?」
「だって弱いじゃないですか。私、弱い男って嫌いなんですよね~」
「ねえ? やっぱり魔族である以上は強くないと」
まあ、彼女たちはそうだろうな。
なんというか、悪意とかではない。魔族としての魅力は強さだと考える、そういう者たちなのだ。
「う~ん……ラプティキ。しつけが足りないんじゃねえの?」
落ち着け。以前のお前に戻っているぞ……。
いや、もう無理だな。マギレマはレイのことを気に入っている。
それを目の前で馬鹿にされたとあって、腹に据えかねているのだろう。
もちろん、ラプティキの部下がそういう者たちだとは知っている。
わりと軽口を叩き、他者を軽んじているようだが、その実ただ考えなしというだけなのは、マギレマ自身も知っているだろう。
だが、これは……もう手遅れかもな。
「上等だ! レイくん馬鹿にするなら、アタシが代わりに相手してやろうじゃねえか!」
「え、え? マギレマ様!?」
ああ、こういうことか……。
ラプティキの元に、十魔将二人を付けられた理由が今になって分かった。
要するに私は、ラプティキの部下ではなく、マギレマのほうを止めるために補佐になったのか……。
……これは、マギレマを補佐にしなければ良かっただけなのでは?
プリミラ、お前の采配は何か間違っていると思うぞ。
後日、マギレマにより負傷したラプティキの部下たちを見てギョッとしたレイは、彼女たちにあらん限りの回復薬を渡していた。
その量と質に驚きながらも、彼女たちはレイに感謝して彼を認めたようだ。
その後、食堂でマギレマの足をかわいがる姿を目撃され、認めるどころか土下座までしていた……。




