第567話 星よりもまばゆいあなたの隣で
「レイさん! レイさん!」
「ちょっ、やめなさい芹香!」
食事も終え、なんとなくくつろいでいると時任に名前を呼ばれる。
フィオナ様と二人で何事かと顔をそちらに向けると、引き留めようとする奥居を振り切って時任が駆け寄ってきた。
「プレゼントどうしましょうか! 私とハルカちゃんでひとっ走り買ってきます!?」
「時任はともかく、ハルカのほうはモンスターだから、地底魔界の外では目立たないようにしてくれ」
「そうでした! じゃあ、私がひとっ走り」
「プレゼントなら、一応考えてある」
このままでは本当に走り去りそうだ。
なんか、こいつまでリピアネムみたいになっていないか?
それだけ、クリスマスにテンションが上がっているのかもしれない。
「なんですか! まさか、こっちの世界に本物のサンタさんがいるんですか!」
「芹香……。あんたまさか、その年で信じているの?」
「ち、違うよ!? 私、むしろ弟や妹にあげる側だったから! 魔法とかあるなら、こっちの世界にはもしかしているかな~なんて思っただけで」
「なら良いけど……」
さすがの時任といえど、サンタクロースを信じていなかったみたいだ。
ただ、こっちの世界にも存在していないと思うぞ。
そもそもクリスマスの存在が認知されていないのだから、それ関連が存在するとは思えない。
なので、今回は俺で我慢してもらおう。
「全員分のプレゼントを用意するのは大変だったから、今回は全員に宝箱を配ろうと思う」
俺の言葉に周囲がざわついた。
やっぱり、これじゃあ手抜きと思われたか?
「宝箱って、魔王様以外にも……?」
「俺たちもってことだよな……」
「良いのかしら。私たちなんかが」
どうやら、主に前回のガシャ祭りに参加していなかった者たちの困惑の声だ。
そうか。宝箱はいつもフィオナ様にしか渡していないから、特別なものと勘違いされているのかもしれない。
「つまり、機会は与えるから、プレゼントは自力で引き当てろってことですね!」
「そういうことだ。運試しとでも思ってくれ」
「クリスマスプレゼント兼福袋! これが地底魔界の文化なんですね!」
いや、俺が適当に決めた。
周囲を見てみろ。地底魔界の文化に染まっていたはずの元魔王軍たちも、困惑しているだろ。
だけど、これなら全員に配れるし、それなりに折り合いも付けてくれることだろう。
◇
「あの、よろしいのでしょうか? 魔王様」
「かまいませんよ。なんせ私は魔王ですからね。どんと構えて、最後に蘇生薬を当ててみせますとも」
「いえ。そうではなく、レイ様がお作りになる宝箱を、私たちのような一般の魔族がいただいてもよろしいのでしょうか?」
「かまいませんよ。といいますか、ガシャ祭りならすでに一度開催していますし」
「ガ、ガシャ祭り……?」
テラペイアの部下が、フィオナ様に確認をとっている。
だが、彼女は余計に困惑するだけだった。
まあ、気負う必要はないよ。適当に受け取って魔力を注いで、近くの魔族以外の誰かに開けてもらうだけだから。
ついでに人類と交流を深めるきっかけにでもなれば、万々歳じゃないだろうか。
「はい。どうぞ」
そうしてサキュバスの女性に宝箱を渡す。
「そのまま開けても大したものは出ないから、魔力を注いでから開けるのがおすすめだ」
「あの、私たちは宝箱を開けられませんが……」
「魔族以外の誰かに頼んでみれば良い。時任あたりは接しやすくておすすめだ」
「本日のおすすめの時任です!」
「え、あ……。じゃあ、あとでお願いできるかしら?」
さすがだな、あいつ。
困惑する魔族たち相手に、次々と話しかけている。
結果の方は……まあ、アタリもあればハズレもある。そこは折り合いをつけてもらうとしよう。
なんならそこらでプレゼント交換もしているし、そうやって普段あまり関わらない相手と交流を深められるなら、それだけで成功といっても良い。
「さて、いよいよ私の番ですね!」
「はい。それではどうぞ」
最後に、自信満々で俺の前にフィオナ様が立つ。
俺は魔力回復薬を飲み終えてから、すぐに宝箱を生成すると、そのままフィオナ様に手渡した。
「一度目のガシャ祭りでは勝ちました。つまり私は、本番に強い魔王ということです」
「そうだと良いですね」
「そうなのです! では、いきます!」
手のひらを宝箱にかざして魔力を注入すると、フィオナ様は俺に目で促した。
指示を声に出さなかったのは、緊張しているからだろうか。
「ええと……これは」
中には大量のアイテムが入っていた。
その時点で残念ながら蘇生薬ではない。
だが、今回のアイテムは初めて見るものだな。
「星紋の魔力結晶ですかあ……。うぅ、さすがに簡単にはいきませんよねえ」
「見た目からして魔力結晶とは思いましたけど、映像や音声の魔力結晶とは別ですか?」
「そうですね。主に通信に使う魔力結晶です」
なるほど……。ということは、遠隔での通信も可能になるアイテムってわけだ。
便利なアイテムだ。便利なアイテムなんだけど……。
「うちにはピルカヤがいるので、無意味なアイテムなんですよねえ」
そう。フィオナ様が言うとおり、わりと持て余すアイテムということになる。
だが、悪いことばかりでもない。わりとピルカヤを対策している者は多いので、それ以外の通信手段があるに越したことはないだろう。
だから、フィオナ様の言葉に嬉しそうに賛同しないように、ピルカヤ。
「まあ、念のためにレイに渡しておきますね」
「ありがとうございます」
ダンジョンに配置しておくか。
あとは、各施設の管理者とか外で行動する者に持たせるのも、良いかもしれない。
試しに使用してみると、魔力結晶は光り輝きながら通話をしてくれた。
……なるほど。
◇
まあ、そううまくはいきませんよねえ~。
でも、トキトウの発案のおかげで楽しい時間を過ごせました。
あの子にも感謝しないといけませんね。
……宝箱は外れましたけどね! まったくもう。もう少し空気を読んでくれても良いじゃないですか。
やはり宝箱こそ、私の最大の敵……。
「ああ、フィオナ様ちょうど良かった」
「おや、どうしたんですか? レイ」
私がハズレアイテム扱いした星紋の魔力結晶。
レイにそれをプレゼントすると、彼はさっそくダンジョンに配置しに行ったはずですが、もう終わったのでしょうか?
「フィオナ様に見てほしいものがあるので、一緒に来てくれますか?」
「見てほしいもの? よくわかりませんが、レイの言葉に反対する私ではありません」
「じゃあ、宝箱を開けすぎないようにしてください」
「さあ、行きましょう」
「反対はしていないけれど、聞き入れないんだよなあ……」
それはそれです!
呆れながらも優しく笑う彼の顔に、こちらも思わず頬が緩みます。
命拾いしましたね、宝箱。レイに免じて許してあげましょう。
彼に手を引かれて地底魔界を進みます。
日頃は私が手を引く側ですが、こうして引かれるのも温かく嬉しい。
こうしているだけで、今日は特別な日ですし、いつだって特別な日になります。
「ここは……」
そうして到着したのは、プリミラの畑。いえ、影冠樹の前でした。
ですが、いつもの影冠樹ではありません。枝葉の先が光り輝いており、とても幻想的な姿です。
「どうですか?」
「綺麗……」
影冠樹は、星紋の魔力結晶で飾られているようですね。
通信する際に光ることは知っていましたけど、このような使い方をしたのですか……。
ハズレだと思っていたんですけどねえ。あなたがいれば、なんでもアタリになってしまうのでしょうね。
それが嬉しくて楽しくて、私はレイの肩に寄り添いました。
彼は嫌がる素振りも見せずに、ただ私のことを受け入れてくれています。
……私たちは、いつまでも二人で影冠樹を見つめ続けていました。
◇
「プ、プネヴマさん殺人事件!」
「あ、いつものことなので気にしないでください」
「ビッグボスとボスが、影冠樹をイルミネーションで彩ったって聞いたんだけど、それが原因かい?」
「そうですね。その結果プネヴマが死にました」
「ということは、私たちはもう少し後にした方が良さそうね」
「そうだね~。今は魔王様とレイさんの二人で楽しんでもらわないと」
「ふむ……」
「どうした? ナルカミ」
「プネヴマ様の口からキラキラと白く光る粒子が出ているが、クリスマスだからか?」
「いや、あれはいつでも出る」




