第565話 君たちに主演男優賞を
「おいおい、そんなズカズカと進んで平気なのか?」
「何言ってんだ。このダンジョンは、娯楽の片手間に探索してるやつだらけだから、このあたりが安全なことはもう調査済みだろ」
だったら、ちまちまと進む必要なんてない。
ダンジョンの浅い部分は、せいぜいが雑魚モンスターと軽めの罠程度と調べはついている。
そこで適当にモンスターどもを狩るやつらがいるせいで、このあたりのモンスターは少なすぎる。
だから、あのモンスター園並みの効率の狩場に移動すべきだ。
「くだらねえ」
先に進んでも、シャドウスネークやポイズンバットのような雑魚しか出ない。
こんなのを数匹ずつ倒したところで意味はない。
とにかく数が必要だ。
大物を狩るのもいいが、それだとこちらの消耗も激しい。
やっぱり、大量に雑魚が湧くところがいいな。
「おい、なんか這いずるような音が聞こえないか?」
「……本当だ。体がでかいモンスターとなると、噂されているソウルイーターか?」
面倒だな。
そんなのに出くわしたら、そいつを倒すだけで探索が終わってしまう。
一日の成果がソウルイーター一匹だなんて、非効率にもほどがある。
「避けようぜ。相手にするのも馬鹿馬鹿しい」
その意見に賛同するように、仲間たちも頷いた。
幸いデカい図体を引きずる音は、俺たちの耳には筒抜けだ。
所詮は馬鹿なモンスター。俺たちまでたどり着けるはずもない。
◇
「……ちっ、鬱陶しいな!」
分かれ道を何度曲がったかわからない。
そのたびに、ずるずると体を引きずる音が耳に届き、嫌気が差してくる。
追いつかれてはいない。だが、引き離すこともできていない。
ノロノロと移動しているくせに、こちらが迂回せざるを得ないルートも通るため、相変わらず付かず離れずの距離にいる。
その結果、いまだにソウルイーターに注意を払わなければならない。
「げ、一本道かよ……」
これまでと違い、敵を避け続けた先にあるのは分岐点のない道だった。
背後からはあの不気味な音も聞こえることだし、引き返すわけにもいかない。
いっそ、鬱陶しいソウルイーターを殺すか?
もう今日は諦めてしまって、明日やり直してもいいだろう。
だが、ここまであいつを迂回して時間を無駄にしたのも事実、今さらあいつと戦うというのは癪に障る。
「進むか……。行き止まりだったら、ソウルイーターを殺せばいい」
「だな。しつこいし、いい加減うんざりしてきた」
これだから低能なモンスターは……。
俺たちを探して馬鹿みたいにずるずると、他にやることはないのか。
「……お? 音が小さくなってきた。引き返すか?」
仲間の言う通り、たしかに背後からの音は小さくなっている。
どうやら、ようやく撒くことができたらしい。
だが、ここで引き返してまた遭遇したら面倒だな。
「もう少し進もうぜ。またあいつに見つかったら、時間が無駄になる」
ここまできて、また同じ状況に戻るのはごめんだ。
なら、この道を進んで完全にソウルイーターから離れることにしよう。
そう判断して先に進むと、幸いなことにこの道は行き止まりではなかったようだ。
目の前には、洞窟には不釣り合いな扉が見える。
ようやく、ダンジョンらしくなってきたじゃないか。
辛気臭い洞窟よりは、整備された部屋のほうがまだマシだ。
扉を開けて部屋に入ると、それなりにまともな部屋が広がっていて安心した。
ただ、先客がいるな。
それも一人二人とかではなく、何十匹も。
「ついてるな。まるで、モンスター園で、俺たちが殺したゴブリンどもだ」
これだけ大量のゴブリンが湧いている穴場なんて、本当に運がいい。
これなら、モンスター園の雑魚どもの代わりになりそうだ。
「よしっ、殺すぞ」
「おう!」
仲間たちも武器を構えると、ゴブリンどもに向かっていく。
さすがに、モンスター園どもの雑魚と違って、無抵抗というわけにはいかないだろうが、それでも俺たちの敵じゃない。
……なんだ? おい、嘘だろ?
こいつら……。
俺たちに怯えて逃げてやがる!
「ははっ、なんだこの雑魚ども! 戦うこともできないのか!」
「これじゃあ、モンスター園のゴブリンと何も変わらねえな!」
違いがあるとすれば、逃げ足だけは速いってことくらいか。
前回は柵の中から出ることすらなく、無抵抗に殺されていった。
だけど、さすがに野生のモンスターとなると、際限なく必死で逃げようとする。
馬鹿が。お前らごときが逃げ切れるわけねえだろ。
「どうしたどうした! もっと急がないと死んじまうぞ!」
ゲラゲラと笑いながら、仲間とともにゴブリンを追いかける。
しかし薄情なもんだな。周りの連中も怯えて身を隠そうとするばかりで、仲間を助けようともしない。
「お、行き止まりだ」
ということは、さんざん逃げ回っていたこいつも、もう逃げる先がないということだ。
「じゃあな雑魚」
斧を振り上げ、ゴブリンにとどめを刺そうとする。
後は振り下ろすだけ、それだけだった。
「は……?」
だが、斧は地面に落ちていった。
斧だけじゃない、それを持っていた俺の腕までも……。
「なっ……くそっ! ふざけんな!」
何に対しての怒りなのかさえもわからない。
それほどまでに考えがまとまらず、頭の中がぐちゃぐちゃになっている。
何が起こった!?
腕がない。くそっ! 痛みよりも怒りのほうが上回る。
誰にやられた。目の前の怯えたゴブリンは関係ない。
周りの臆病なゴブリンも関係ない。
周囲を見回すと、すぐにそいつは見つかった。
お前か! 俺の腕を切り落とした犯人。そいつもゴブリンだった。
ただし、色が他のやつらと違っていて、真っ黒な姿をしている。
「ゴブリンごときが!」
腕はもういい。どうせ回復薬か回復魔法で治せる。
その前に、ふざけた真似したこのゴブリンを確実に殺してやる。
そういえば、さっきから俺の声しかしないな。
他のやつらは何をして……。
「かっ……あぁ……」
仲間たちは、血を吐きながらその場に倒れていた。
なんだよこれ……。
黒いゴブリンだけじゃない。さっきまで怯えていたゴブリンたちまでが、急に俺たちに攻撃を仕掛けるようになった。
この黒いゴブリンのせいか?
……違う。こいつら、モンスターのくせに俺たちを馬鹿にしてやがる。
本能のままに行動する連中とは違う。
まさか……さっきまでの怯えた姿は、逃げ惑う姿は、俺たちを誘い込むめの罠だった……?
「ゴブリン風情があっ!」
武器を振るうも回避された。
これだけゴブリンたちがいるというのに、ただの一匹にすらかすりもしない。
な、なんだ!? 普通のゴブリンじゃないぞ!
こんな素早い身のこなしができるゴブリンなんて、聞いたこともない!
「くそっ! ふざけんな! こんなところで!」
大量のゴブリンが群がるように襲いかかってくる。
どいつもこいつも、こちらの攻撃を避けては反撃をし、確実に追い詰められていく。
な、なんでこんなに強いんだ。
ゴブリンなんて、あのモンスター園で殺したやつらと変わらないはずじゃねえのか!
「あ……」
足を斬られ、バランスを崩して地面に倒れる。
そうなると、群がるという表現がさらにふさわしく、こちらが起き上がる前にゴブリンどもが殺到した。
「や、やめ……」
体中を攻撃される中、顔の前にもゴブリンは近付いてくる。
なぜか、そいつの顔が虐殺したモンスター園のゴブリンと重なったような気がした――。
◇
「よ~し、お疲れ」
侵入者を撃退したゴブリンたち、それにそこまで誘導してくれたソウルイーターを呼び戻し労うことにした。
まるでモンスター園かというほどに、どの子もじゃれついて懐いてくれている。
“わたしがんばったよ!”
“そうだなあ。あそこまで誘導するの大変だったろ”
“でも、わたしかしこいからね!”
なんか、お互いを褒めあってる気がする。
種の垣根を超えて仲がいいなあ。
魔王軍も割とそんな感じだし、地底魔界は相変わらず平和なものだ。
「これで、モンスター園の邪魔するやつらは死んだ。営業を続けても問題ないな」
「わ、私のモンスター園が、血塗られたモンスター園に!」
「失敬な。モンスター園では殺してないじゃないか」
「そうなんですけどね! えっと……ありがとうございます?」
腑に落ちない感謝の言葉だったが、それに反応してモンスターたちにまとわりつかれる時任は、まんざらでもない顔をしていた。
まあ、時任はこういう荒事が苦手だろうからな。
俺たちに任せて、さっさと忘れるのが一番だろう。




