第564話 余命24時間
「ムカつくぜ! イドの野郎!」
「なにが獣人の恥だ! 散々死んでる雑魚のくせに!」
まったく腹が立つ。
横取りというわけではないが、俺たちが楽に強くなる邪魔をしやがって……。
「あいつ、俺たちが自分より強くなることが気に食わないんじゃねえか?」
そうだ、きっとそうに違いない。
せこい野郎だ。要するにあいつは、自分より上の者が現れることが怖いんだ。
臆病者め。そんなのが勇者だというのだから、この世界は間違っている。
「気にすることはない。あいつらもいなくなったことだし、あのモンスターども殺し回ろうぜ」
「そうだな。俺たちはダンジョンのモンスターを殺しているだけ、誰にも文句言われる筋合いはねえよ」
人類の害となる生き物を殺せる。俺たちも強くなれる。得ばかりじゃねえか。
念のためイドたちがいないことを確認すると、俺たちはモンスター園へと戻ることにした。
◇
「あんたら出禁だ」
ダンジョンの入り口までたどり着くと、そこにはハーフリングの男が立っていた。
入り口を塞ぐ男を退けようとすると、そいつはこんなことを抜かしやがる。
「はあ!? お前ごときに何の権限があって、そんなこと言ってやがる!」
「なんだ聞いていなかったのか? モンスター園は、俺の仲間の娯楽施設なんだよ。俺はそのあたりの統括として、仲間を害する者たちを排除しないといけない」
「知るか、そんなこと!」
心底どうでもいい。
こいつらに何の権利があって、俺たちを立ち入り禁止にするっていうんだ。
「そもそも、ダンジョンは誰のものでもないだろうが。俺たちが入ろうと自由だろ!」
「別にダンジョンに入ることを止めるつもりはねえさ。単に探索が目当てだというのなら、俺も邪魔なんてしない」
そう言って、ハーフリングは道を譲った。
最初からそうしろよ。うざったい真似しやがって。
不快に思いながら、俺たちは洞窟の中に足を踏み入れるが、背後からハーフリングが言葉を投げかけてきた。
「だが、洞窟内の各施設は俺たちのものだ。当然だろ? 作ったのは俺たちであり、お前らじゃない。なら、そこへの立ち入りを禁ずる権利くらいはあるはずだ」
「だから言ってんだろうが! ここは、お前らの土地じゃねえだろって」
「ああそうだ。なら、お前らの土地でもないよな?」
うざってえ……。
なんなんだこいつ。もういい。こんなやつ無視して先に……。
「俺の仲間に手をあげようとしたんだ。そんなやつら、近寄らせるつもりはない」
「いい加減にしろよ、お前……」
「結局のところ、この土地は誰のものでもない」
なんだ? 急に物分かりが良くなったか?
俺にびびって意見を変えるくらいなら、最初から絡んでくるなよ。
「だからお前らが自由にするというのなら、こっちも自由にさせてもらう」
そう言った男の背後に、ガラの悪そうな赤茶色の髪の男が現れた。
なんだこいつ。……あの顔の鱗模様。まさか、エンシェントドラゴンか!?
「こいつは俺が雇った護衛でね。お前らが力で押し通すというのなら、俺たちも力で守らせてもらうことにする」
「……」
さすがに、人の姿に変化できるほどの力量の竜が相手では、分が悪い。
「どうすんだ? 俺は戦えるなら望むところだが」
「お前も……転生者なのかよ」
「いや? 俺はこっちの生まれだ。こいつらは面白いからつるんでいる。それだけだ」
これだから竜は……。
てめえらの気まぐれで、こっちの邪魔をされてたまるか。
だが、このハーフリングのやつ、荒っぽいことになったら、全部竜に押し付ける気だ。
卑怯者のチビが……!
どうする? という仲間の目線を感じ、思わず歯を食いしばる。
ムカつく。ムカつくが……相手が悪い。
「おい、ロペス。こいつらやる気ないみたいだぞ」
「それならこっちも助かるな。荒っぽいことは苦手なんだよ。俺」
竜の影に隠れて卑怯なやつが……!
構うものか。お前らのくだらない施設とやらに行かなきゃいいんだろ!
「もういい。ダンジョンに潜ってモンスターを狩るぞ」
「モンスター園じゃなくて、モンスターを?」
「無抵抗な雑魚どもは、楽だったから狩ったというだけだ。俺たちがその気になれば、抵抗するモンスターどもでも問題ないだろ」
「それもそうだな」
そうしてモンスターどもを狩りまくって強くなってやる。
……お前よりもだ。俺たちを見下す竜にイド。
お前らを超えて、この報復はさせてもらう。
「ま、うちに関わらないっていうのなら、初めに言ったとおりだ。止めるつもりはないから、せいぜい頑張ってくれ」
本当に癇に障る。
せいぜい、そこでへらへらしとけ。
お前の頼みの綱の竜が俺たちに敵わなくなったその時は、今の発言も含めて後悔させてやるからな。
◇
「てなわけで、獣人どもはダンジョンに潜ったぜ」
「ああ、ご苦労さま。ロペスもウルラガも」
「戦えなくて暇だ。俺もダンジョンに潜って、さっきのやつら殺していいか?」
「ナツラたちに話を通しておくから、そっちで我慢してくれ。それか、イピレティスで」
「え~。僕の扱い軽くないですか~? やっぱり、男だから? 男じゃだめですか?」
不満そうにするイピレティスだが、別に軽く扱ったつもりはないんだけどなあ。
「いや、性別は関係ない。イピレティスなら信頼できるって意味だよ」
「さすがレイ様! 僕の性別を気にせずに、いつも通りですね!」
だって、むしろ同性だと知ったからこそ気楽に扱えるし。
こうして抱きつかれても、別に以前のように緊張しないし。
「しゃあねえ。オーガとイピレティスで我慢するか」
「ウルラガ様はウルラガ様で、僕の扱い軽いと思いま~す!」
その抗議の声を流すようにして、ウルラガは戦闘用の広間に向かった。
とりあえず、ナツラに連絡だな。
「なあ、レイくん」
ウルラガがやる気満々で戦闘の準備に向かったところで、リグマが尋ねかけてきた。
「どうした?」
「ウルラガのやつに任せなかったのは、やっぱり他の冒険者に目撃されることを避けるためか?」
リグマが疑問に思っているのは、あれだけやる気だったウルラガに獣人の処理を任せなかったことか。
「それともしばらく泳がせるの? うちの従業員に手を出そうとしたからには、当然殺すんでしょ?」
ピルカヤの言うことはもっともだ。
善良な客なら問題ないが、あの手の客ですらない連中は処理しない理由がない。
なので、ピルカヤの心配は取り越し苦労と言えるだろう。
「大丈夫、ちゃんと殺す。今回は、ちょっとやりたいことがあってな。だから、ウルラガには悪いけど、そっちを優先したんだ」
「なるほどねぇ、ならいっか。レイがやる気なら、うち漏らしもないだろうし」
「だな。まあ、ウルラガはウルラガで、別の戦闘で満足していることだし、レイくんのやりたいことを優先していいと思うぞ」
ということで、獣人たちを逃がす気はない。
ロペスのやつが、モンスター園の虐殺から、うまいことダンジョン探索に切り替えてくれたのだ。
このチャンスを逃すつもりなど毛頭ないし、うちの従業員に手を出そうとした落とし前はここでつける。
「それじゃあ、迷惑客を処分して、さっさと平和なモンスター園を取り戻そうか」
◇
「ってことみたいだから、安心してモンスター園を再開していいよ~」
「え、えっ!?」
「俺、そんなつもりはなかったけど……まあ、落とし前は必要だよな。良かったじゃないか、トキトウ」
「なんか私の知らないところで、私のために、私を攻撃しようとした獣人たちが死ぬことに!」
芹香の叫び声は、誰も気にしていなかった。
ピルカヤさんは当然として、ロペスくんも、こういういざこざに慣れているみたいだからね……。
今回は、芹香のモンスター園だったけど、もしもこれが私の水族館だったら……私も危険な目に遭って、その後は落とし前として獣人たちが死ぬことになったのかしら?
「え、江梨子ちゃ~ん。どうしよう?」
「いいんじゃない? レイさんに任せておけば。あなたの目の前で、あなたに懐いたモンスターが無抵抗で殺されたんでしょ?」
これを自分に当てはめるとしたら……私の魚たちが虐殺されたということになるわね。
「うん、死んだほうがいいわ。あんなやつら」
「え、江梨子ちゃんって、そんなに血の気が多かったっけ!?」
失礼ね。
みんなあなたたちのために、報復を考えているだけじゃない。




