第563話 そういえば勇者でしたね
今日の私はモンスター園の園長の時任!
ということで、お店はカーマルくんに任せて、入れ替わりでモンスター園で働いている。
園長といっても、ハーフリングやダークエルフの人たちと一緒に、モンスターをかわいがりながら餌をあげるだけ。
あとは柵の中の掃除もするけれど、なんかこの子、お客さんがいないときに自分で掃除してるよね?
こっちが掃除するほど汚れてないもん。
「みんな賢いねえ」
私たち以上にしっかりとしたスタッフと呼べる気がする。
なら、私たちも負けずに働こうと思うけど、わりとやることないんだよね。モンスター園って。
見せかけのスタッフなので、仕事があるようでない。
お客さんの案内をしようにも、思い思いに楽しむ人たちばかりなので、却って邪魔になっちゃいそう。
「あ、ようこそ~」
なので、こうしてお客さんの入場には敏感になっている。
挨拶してお金をもらって、必要だったら案内する。
それくらいしか仕事ないからね。
今回のお客さんは獣人たち。なんか強そうな人たちだけど、こういう人たちも癒しがほしいんだね。
「え、あの、お金……」
獣人たちに近づくと、私を無視するようにずかずかとモンスター園に足を踏み入れる。
え~? 堂々とただで楽しもうとしている?
さすがに、園長として見過ごすわけには……。
「な、何してんのよ! あんたたち!」
お客さんの一人がそんな叫び声をあげるも、私は理解が追いつかなかった。
獣人たちは、まるで散歩するような気軽さでモンスターの柵に近づくと、そのままモンスターを攻撃して……。
こ、殺した!? な、なんで!?
「おい、お前ら!」
「なんだ?」
私よりも先にお客さんたちが獣人に詰め寄るけれど、獣人たちは素知らぬ顔でモンスターたちを攻撃してる……。
ど、どうして? 獣人たちが荒っぽいのは知っていたけど、こんな場所で急にモンスターを殺すなんて……。
「いきなりこんなことして、何のつもりだ!」
「はあ? モンスターを退治している。それだけだろ?」
「退治って……。ここのモンスターたちは、安全で」
「ダンジョンにモンスターがいる。それを退治している。お前らも普段やっていることだろ。なんか文句でもあるのか?」
「そ、それは……」
た、たしかに、ここはダンジョンでこの子たちはモンスター。
こうしてモンスターをかわいがってくれているお客さんたちも、普段はモンスターと殺し合いをしている人も少なくない。
で、でも、ここは安全なモンスター園なのに!
「でも、このモンスターたちは、ここの職員たちのものでしょ!?」
「何言ってんだお前。ダンジョンは誰のものでもない。そこにいるモンスターだって同じだ。お前、モンスターが倒されたら獲物を横取りされたとか騒ぎ立てるのか?」
「それは、あくまでも危険なダンジョンの話で……」
「平和ボケしやがって、ここもダンジョンだ。ダンジョンに住むモンスター相手に、何を甘いこと言ってる」
うう……。言ってることはわかるけど、この子たちは危険じゃないのに。
だ、だめだ。ここは園長として私が止めないと!
「や、やめてください!」
「なんでだよ。俺たちは、危険なモンスターを間引いてるだけだぞ」
「こ、この子たちは大人しいいい子たちです!」
「転生者の加護ってやつか? そんなもん信用できるか。仮に今大人しいとしても、いつ暴れ出すかわかったもんじゃねえだろ」
こ、この子たちが暴れたことなんてないのに!
こっちの言うことは全然聞いてくれない……。
それに、みんな無抵抗でやられちゃってる! なんで? みんなもっと強いはずなのに……。
「ああ、こりゃあ楽でいい。本当に無抵抗じゃねえか」
殺されていく……。モンスターたちが無抵抗のままに……。
そっか、ここで暴れたら他のお客さんたちにまで、この子たちが危険なモンスターだと思われちゃうから、この子たちは抵抗していないんだ。
せ、選択肢……。なんとかできないの!? この獣人たちを追い返す方法ために、私はどんな行動ができる!?
1.放置する → 被害はなし。
2.無理やり止める → 攻撃される。
3.モンスターたちに抵抗させる → 客足が途絶える。
ああ、やっぱり……。
モンスターたちがここで抵抗して、本当は強いってことがばれたら、お客さんがいなくなっちゃうんだ。
放置すれば被害はないって……。モンスターは復活できるから、被害として数えてないってこと?
それなら、このまま放置するのが最善……。
「や、やめてくださいってば!」
最善ばかりが正解じゃないと思う!
ああ、でもやっぱり選択肢は正しい……。
私の抵抗にイラっとしたのか、獣人たちが私を殴ろうとしているのが見える。
私はぎゅっと目を閉じて、襲いかかる痛みに耐えようとした。
さ、さすがに私まで殺すことはないはず! それに、原ちゃんとか世良ちゃんとかも、わりと怪我してるし! 私だって、たまには!
……でも、いつまでたっても痛みを感じなかった。
も、もしかして、私強くなってるとか? アルティメット時任に進化しちゃった?
恐る恐る目を開くと、そもそも獣人たちは私に攻撃していなかったみたい。
さっきまで、たしかに攻撃しようと拳を振りぬこうとしていた。
でも、それは止められていた。周りのお客さんたちが、かばってくれたとかじゃない。
その腕をひねり上げるように、虎の獣人の人が……。
「痛えっ!! なにすんだ、イド!」
イド。イド~……。どこかで聞いたような。
あ! レイさんとか江梨子ちゃんが話していた獣人の勇者じゃん!
やばい獣人がもっとやばい獣人にひねられている! 何この状況!
「そこのお前」
「ひえっ! わ、私はしがない時任でして……」
「はあ?」
「たぶん、名前ね。その名前から察するに、彼女転生者よ」
なんか色々ばれてる!
獣人って、もっとお馬鹿な存在じゃないの!? 江梨子ちゃん以外の獣人って、私含めてお馬鹿な存在かと思ってたんだけど!
「ならアタリだな。おい、お前がここの責任者か」
「せ、責任者といえば、責任者ですけど~……そうでもないといいますか」
「なんだそれ。まあ、ここの関係者ってことだな。なら答えろ。お前、蛇獣人の転生者の場所を知ってるか?」
蛇。蛇……?
あ、ヨハン! 知ってる!
「あれ? 死んじゃったはずですけど」
「なんだと」
「ひょえっ! た、たしか、けっこう前にこのダンジョンの奥に行って死んだって、聞きましたけど!」
うわあ……。すっごい見られてる。
何? 私が嘘を言ってると思ってる? 本当なのに……。
「お前はその蛇の仲間じゃねえんだな?」
「むしろ被害者ですよ! あいつ、無差別に毒をばらまいたから、私のお店まで被害に遭いましたからね!」
「……そうか」
しまった。思い出し怒りをしたせいで、獣人の人たちまでなんか引いてる気がする。
「ちっ、無駄足かよ」
私の言葉を信じたらしく、虎の人は私を殴ろうとしていた獣人の腕を引いて転ばせた。
あ、忘れてた……。なんかもう、次から次へと獣人ばかりで、理解が追いつけないよ。
「てめえ……」
「雑魚が、無抵抗の敵を倒して強くなるつもりか」
「言われてるわよ。ラヴィス」
「まったくだ! 強くなるためには、しっかりと強敵と戦って経験を積まないといけない。そんなこともわからないのか」
「調子いいわね。あんた……」
え、そうなんだ?
レベルって、モンスターを倒せば上がるもんじゃないの?
抵抗しない相手でも、もらえる経験値は同じだと思ってた。
「お前らには関係ないだろ!」
「俺の前でくだらない真似してんじゃねえ。他の種族ならいざ知らず、獣人が雑魚狩りなんてみっともねえんだよ」
なんか獣人同士で喧嘩してる!
「えっと~……」
「なんだ」
「ここで喧嘩されると迷惑なので、外でやってほしいな~って……」
「ちっ、行くぞ。てめえらも、文句があるならついて来い。相手してやるよ」
「い、いや、俺たちは……」
よかった~、聞き入れてくれて。
私を殴ろうとした獣人たちを引き連れて、虎の人たちが外に行ってくれた!
私、ちゃんとモンスター園を守れたんじゃない? ……あの虎の人のおかげだけど。
◇
「報告は以上です!」
「そうか、悪かったな時任。危ない目に遭わせて」
「余裕です!」
いや、けっこう危なかったぞ。
それにしても、まさかイドに助けられるとはわからないものだ。
「イドは何を企んでいるんでしょうね?」
「何も企んでいないと思いますよ? あの勇者は自分が一番強いって証明したいだけですし、それはそれとして魔王軍は皆殺しにしているだけです」
「ひええ……魔王軍だってばれたら、私もやられてました!?」
「そうですねえ。トキトウなら、プチっとやられていたと思います」
フィオナ様の言葉を聞いて震えあがる時任を、奥居が落ち着かせていた。
「だから言ったじゃない。あいつ最悪よ」
「こ、怖い獣人なんだねえ」
それにしても、イドってまともに会話とかできるんだな。
俺が知っているイドなんて、とにかく怒っていて俺を殺そうとする姿だけだからな。
「雑魚とは戦いたくないって、俺のこと雑魚呼ばわりして全力で殺しに来ましたけど……」
「魔族は別なんでしょうね。気が乗らないからこそさくっと殺したいけれど、レイが思いのほか抵抗したので、目をつけられているんだと思います」
「そんな理不尽な……」
「というわけで、イドに絡まれると危険です。レイはしばらく私と一緒に行動しましょうね」
「イド、もう帰りましたけど」
「で、では、リウィナ対策として!」
「リウィナはイドより先に帰りました」
フィオナ様のそれらの発言は、きっと俺と一緒に遊ぶための口実なんだろうなあ。
そんな口実なくても遊ぶので、遊びたいのなら正直に遊びたいと言ってください。




