第561話 ひとひらの違和、商店をかすめる
「モンスター園と水族館と植物園、そのどれもが順調に客足を伸ばしている」
それぞれの責任者である時任、奥居、プリミラの三人は、整列して俺の話を聞いていた。
「そして、そのどれもがロペスの仲間の転生者が管理していると思われている」
「実際、合っていますからねえ。私たちみんなロペスくんの仲間ですし」
そう、別に何も間違ってはいない。各施設の責任者はみんなロペスの仲間だ。
別にロペスが元締めだと言っているわけではないけれど、そう勘違いしているというだけの話。
「だから、時任の店でそれらの施設の土産品をまとめて扱うことにした」
一応、各施設の出入口に簡易的な売店も用意していたが、思いのほか好評だったからな。
ならばいっそのこと、大商店でまとめて売ったほうが管理しやすいし、慣れている者たちがスムーズに客をさばいてくれる。
「はええ……。それで、商店で取り扱う品が変わったんですねえ」
時任が、アホみたいな声で納得している。
だが、これでも歴戦の店長だ。しっかりとこちらの意図は汲んでくれているし、働いてくれることは確かだろう。
「ということで、各施設の簡易売店は撤去するから、これからは商店にがんばってもらう」
「了解です! 地底魔界のコンビニ目指して、便利に何でも売ってみせましょう」
奥居は呆れ、プリミラは聞き覚えの無い単語に首をかしげていた。
うちは二十四時間働かせるつもりはないし、そこまでなんでも売るつもりもないから、その気合は空回りに終わると思うぞ。
少しだけ心配になってくるが、きっと選択肢がなんとかしてくれるし大丈夫だろう。
◇
「ということで、ハルカちゃんも頑張ろうね!」
ハルカちゃんは、手にギュッと力を入れて気合を見せてくれた。
モンスター園と商店、両方の責任者として私も頑張らなくちゃ。
「その気合、陳列のために使ってよ。二人とも」
「ああ、ごめん! サボってたんじゃなくて、従業員との交流を深めていたんだよ?」
「言い訳はいいから、手を動かして」
カーマルくんがテキパキとぬいぐるみを陳列している。
それに、他の従業員のみんなにも指示は出しているみたいで、植物の鉢とか小さな水槽とかも綺麗に並べられていた。
う~ん、さすがはカーマルくん。今日はモンスター園じゃなくて、こっちを手伝いに来てくれたと思ったら、そつなく仕事をこなしてくれている。
私も負けていられないね! カーマルくんと同じように商店とモンスター園を行き来して、両方の現場で働けるようにならないといけないんだから。
「だから、気合を入れるのはいいけれど、意気込みだけじゃなくて働くために使ってよ」
「わあ、ごめん! それじゃあ、在庫の管理と陳列を……」
選択肢にも聞きながら、一番いい並べ方で商品を陳列していく。
あ、こっちの商品が人気なんだ? じゃあ、従業員の獣人さんに頼んで、倉庫からもう少し運んできてもらおう。
「……トキトウってアホなのに、仕事できるよねえ」
「悪口と褒め言葉が同時に! う~ん……最終的に褒められたから、今回は許してあげるね」
「それはどうも」
相変わらず生意気な男の子だよ! ほんとに。
そんな癖の強い従業員たちを束ねながら、なんとか開店前に準備が終わった。
さて、いつもなら開店直後が忙しいけれど、今回はむしろその後のほうが忙しくなるね。
だから、朝のお客さんたちくらいは、ぱぱっと対応しちゃおう。
◇
「なんか、ずいぶんと品揃えが変わったな。いや、増えたのか」
「トキトウ商店は、モンスター園と水族館と植物園と提携しましたから!」
「ああ、なんか聞いたことある。転生者たちで集まって、金儲けしているって話だったな」
か、金儲け……。なんかもっとこう、癒しとかを提供しているお仕事のつもりなんだけど!
まあ、お金はもらっているし、商店の場合はお金儲けの側面が強い気がするけれど。
「行ってみます? モンスターかわいいですよ?」
「その感覚わかんねえなあ。さっきダンジョンでモンスターを殺してきた俺たちに勧めるのは、さすがに人選がおかしいだろ」
その殺されたモンスターたちも、モンスター園で働いていますよとは言えない。
でも、あの魔法使いの女の子とかも、ダンジョンでモンスターを殺したその足でモンスター園で癒されているし、食わず嫌いは良くないと思うんだけどなあ。
「ぬいぐるみとかどうです?」
「めげないなお前!? いらねえっての。アイテムと弁当だけくれ」
「は~い」
「不満そうにするなよ……」
まあ、ダンジョン目当てのお客さんだから仕方ないね。
今回増えた商品が活躍するのはここから。それぞれの施設を楽しんだお客さんたちが、帰りがてらうちでお土産を買うはずだから、そこで一気に忙しくなるはず。
そう考えていたとおり、お昼を過ぎてからお客さんが増えてきた。
いつもなら、ダンジョンに向かう前の早朝かダンジョン帰りの夕方あたりが、お客さんが一番多い時間帯だった。
だけど、今日からはお昼まで忙しくなるのだから、しっかり働いてしっかりお金を稼がないとね。
「ぬいぐるみ……? なぜ、モンスターを?」
おや? この時間のお客さんなのに、モンスターの良さがわかっていない?
フード付きのローブを着たお姉さんは、怪訝そうな様子でぬいぐるみとにらめっこしている。
ははん? さては、モンスターの良さを知らないお姉さんだね。この人。
ここはひとつ、私の知識を伝授してあげないと。
「かわいいからです! どうです? モンスター園行ってみません?」
「遠慮しておく」
「どうです? かわいいですよ?」
「あなた、ぐいぐいくるな……」
自信を持っておすすめできるからね!
私に根負けしたのか、お姉さんはため息をついてからぬいぐるみを棚に置いた。
「わかった。なら、観察させてもらおう。ところで君は、モンスター園とやらの経営もしているのか?」
「え~と、私というか私の仲間がやっていて、持ちつ持たれつって感じですね」
「そうか。ならば、ダンジョンのレアモンスターとやらも、なにか知っていないか?」
「レアモンスター……。倒すと経験値がいっぱいもらえるとかですか?」
「経験値というのはよくわからないが、そうだな……。水銀の体のスライムとか、見たことは?」
水銀のスライム……? なんか、飲んだら不老不死になれそうだね。
でも、レイさんが生成したスライムには、そんな体の子はいなかったと思う。
うん、やっぱりいない。
「う~ん……。心当たりはありませんね」
「……そうか。では、やはりリグマの蘇生は杞憂にすぎないか」
リグマさん? ……あ! あの人もスライムだっけ!
いつもおじさんだから、忘れていたけれど昔聞いた覚えがある!
そっかあ、このお姉さんはリグマさんを探しているんだ。
……なんで?
「何も買わないのも悪いな。では、このアイテムを売ってくれ。君が勧めるモンスター園とやらは、その後に行ってみることにしよう」
「あ、ありがとうございます!」
大丈夫かな? 私もしかして、魔王軍の敵っぽいお姉さんを、地底魔界に招いてないかな?
選択肢! 私、大丈夫!?
……ああ、そうだった。この聞き方じゃ選択肢が答えられない。
えっと、このお姉さんに対して、私がとるべき行動は?
1.見送る → 馴れ馴れしく、押しの強い店員と思われたまま。魔王軍であることは疑われない。
2.モンスター園に行くのを引き留める → 変な店員と思われる。魔王軍であることは疑われない。
よし、大丈夫そう。
じゃあ1だね。……変な店員か馴れ馴れしい店員か、そのどっちかしかないの?
できる店員の時任みたいな選択肢ってない?
◇
「……だらけている」
なんだこのモンスターたちは。
力の差もわきまえずに襲ってくる連中とは違うが、いくらなんでも牙を抜かれすぎだ。
どちらのほうがマシかはわからないが、あまり好ましいとも言えないな。
「だが、ここにもレアモンスターはいないな」
やはり、ダンジョンに時折発生するというだけなのだろうか?
であれば、いよいよここの調査も終わらせて良さそうだ。
ヘーロスが気にしていたが、モンスター騒動とレアモンスターの関連性はない。
レアモンスターはたしかに少々他より強いが、私一人で十分相手ができている。
あのモンスター騒動のときのように、こちらの接近を察して逃げるような知能はない。
ならば、いくら発生しようが特に問題もない相手ということだ。
「お、ここだな」
モンスターたちを眺めながら考えていると、この場にそぐわない獣人の男たちがやってきた。
……私が言えることでもないな。
だが、この男たちもここを楽しむというよりは、ダンジョンに潜っているようなタイプの人種だろう。
まさかあのウサギ獣人の押しに強さに負けたのか? この男たちも。
だとしたら、あのウサギ獣人もかなりのやり手だな。
転生者……ある意味で侮れない存在だ。
いっそ、ここの責任者と話せないか交渉してみるか?
このモンスターたちがあの騒動と関係しているとは思わないが、モンスターを使役できる者がいるのなら、なにか知見を得られるかもしれない。
「もう少し、このダンジョンに滞在してみるとするか」
そう決めた私は、改めてモンスターたちをぼんやりと眺めることにした。




