第559話 二兎を追う兎の事業拡大
「釈然としねえよな」
「ねえ? 私たちどころか、他の勇者たちも関係ないんでしょ?」
「被害はなくなったって話だし、どこかに俺たちも知らない強いやつでもいるんじゃないか?」
「だとしたら転生者か……? どう思う、イド」
「興味ねえ」
逃げ足が速いだけの雑魚は他にも知っている。
モンスターどもよりは、そっちのほうが優先だ。
逃げたければ逃げればいいし、そいつらが死んだのなら興味はない。
「そういえばモンスターといえば、なんかまた転生者が変なことしてるみたいよ?」
「もしかして、今回の騒動の首謀者ってことか?」
「いいえ。むしろその逆というか、モンスターを大人しくさせて見世物にしてるとか」
そこまで聞いて、ミリアムの話にもたいして興味はなくなった。
転生者によるモンスターの見世物なんて、前にもあっただろ。
……前? 前だったか? 思考にモヤがかかるが、興味がないし忘れたってところか。
待てよ。転生者……?
「大人しいモンスターが大量に……なあイド。そこなら、簡単に強さを取り戻せるんじゃないか?」
ラヴィスの顔が曇る。
そのくだらない発言に、俺が苛ついているのがわかったらしい。
戦う気もないモンスターどもを狩るだと? そんなことしてなんになる。
「魔族でもない無抵抗の雑魚を狩ってどうするんだ。お前は」
「わ、悪かったよ……」
「そんなことで強くなれるわけねえだろ」
魔王軍は別として、戦う気概もない雑魚との戦闘なんて何も得られるものはない。
いや、事実として強くはなる。ムカつくことにそれは正しい。
だが、そんなハリボテの強さで満足しているようじゃ、あの女には一生届かない。リピアネムにすら届かない。
「そんなやつらより、他のモンスターを探すぞ」
「でもよお。人類を襲うモンスターたちは、あらかた片付いたんだろ?」
「悪知恵を働かせてるやつらが死んだだけだ。今まで通りのやつらはいくらでもいる」
それに、突然変異で知能が増したというのなら、力を増したやつだっているかもしれない。
まずは、そいつら相手に力をつける。全てはそこからだ。
ただ、その前に気になることだけは先にすませておくか。
「そのモンスターを見世物にしている転生者って、どんなやつだ」
「え、そこまでは知らないわよ」
「なんだよ。使えねえな」
「悪かったわね!」
あの寄生虫野郎だとしたら、殺しに行こうと思ったんだが……。
「場所は?」
「えっと、たしか欲望のダンジョンとか言われている場所ね」
……あいつが、俺とオルナスを殺したダンジョンだな。
◇
「聞いたか?」
「ああ、楽に殺せるモンスターか……」
「勇者どもは手を付けないみたいだし、俺たちで手軽に殺しちまうか」
◇
「ロペスくん、もういっぱい担当してるじゃん!」
「そうだけど、別にそんな手間じゃねえし、問題ねえさ。そんなに心配しなくても」
「心配じゃなくて、私がやりたいの!」
「お、おう。そうか」
なんか、時任とロペスが言い争い……。いや、時任がロペスに駄々をこねている。
「どうした?」
「ボス……。ちょっとトキトウがな」
「レイさん! ロペスくんが意地悪する!」
「何言ってんだお前!」
たぶん、ロペスが正しいんだろうな。とは思うが、一応時任の話も聞いておこう。
「まあ落ち着いて。とりあえず、事情を話してくれ」
「私とモンスターたちって仲良しじゃないですか?」
「まあ、そうだな」
ソウルイーターとかケルベロスとか、時任に世話されたり世話したりしてるし。
「だから、私こそモンスター園の責任者にふさわしいと思うんです!」
「んん?」
そうかな? そうなのか……?
「そう思いますよね!?」
そうなのかも。
とはいっても、モンスター園の責任者の仕事って、従業員の管理とトラブル対応だからなあ。
モンスターと仲良しかどうかは、また別物だと思うんだが……。
ただ、時任は時任で、商店の店長という責任者をこなしている。
それを踏まえると、彼女にもできる気はしてきた。
「ロペスはどう思う? 時任に任せられるなら任せてもいいと思うんだが、ロペスの負担が大きい気がするし」
「俺は大丈夫なんだがなあ……。むしろ、トキトウに任せたほうが、不安から負担につながりそうだ」
「どういう意味さ!」
いや、これでなかなかうまくやりそうではある。
商店は順調。従業員もすでに頼れる戦力ばかり。
となると、時任の忙しさは以前よりは格段に減っているか……。
「とりあえず、やってみるか?」
「やった~! さすがレイさん!」
「大丈夫かねえ……」
ロペスは、手のかかる妹を心配するような表情を浮かべているが、時任はそのことに気づくことはなかった。
◇
「まあ、オクイも海と水族館を両立していますからね。トキトウも平気でしょう」
「フィオナ様がそう言うのなら、なんかいける気がしてきました」
この魔族、人事に関しては本当に優秀だからな。
さすがは魔王軍の最高責任者。数多くの部下を適切な現場に配属させていただけのことはある。
「ただ、トラブル対応のほうは、少し気になりますね」
「トキトウとハーフリングたちですか……。ひとひねりされそうですねえ」
時任もハーフリングの少女たちも、明るく元気だが弱いからな。
その点、ロペスはそういう相手に慣れているし、奥居は俺にボディガードを生成するよう頼んでいた。
……奥居のやつ、仕事にかこつけて自分の海鮮欲を満たしていないか?
「ハルカを連れて行くんでしょうかね?」
「いえ、ハルカは商店のほうの用心棒なので、時任が離れていても商店で働くはずです」
となると、あの場にいるのは弱々しい少女が四人……。
それと、従業員であるダークエルフたちか。
なんか、一気に心配になってきた。
「よし、護衛用モンスターを作りましょう」
「なるほど、ブラックゴブリンみたいな、本来より強い子たちですね」
「でも、そっちは狙って作れないんですよね」
残念ながら、そうそううまくはいかない。
メニューに登録されている者たちは量産可能だが、ソウルイーターとかケルベロスの亜種は作れていない。
「狙っているものが引き当てられない苦しみ、私にも覚えはあります」
「フィオナ様?」
「というか、覚えしかありません。ですが、そんな状況でもいつかは報われるのです! そう、祈りと回転数さえあれば!」
「フィオナ様?」
あ、ガシャスイッチが入ってる。
大丈夫かな? ダメそうだな。もう助からない、諦めよう。
「というわけで、一緒に二人で大勝利しましょう」
「大敗する予感しかしません」
「いけません! そういう付け入る隙を見せると、やつらはすぐに侵略してきますよ!」
やつらって誰だろう。
俺が知らない間にフィオナ様は、存在すら怪しい敵と戦っていたようだ。
◇
「それで、またもやこんなに大量のモンスターが」
「ブラックは出てきませんでした」
前回は出たんだけどなあ……。ブラックじゃなくて、別の名前だけど。
俺たちは仲良く正座してプリミラに事情を説明した。
アナンタが遠い目をしながら、配置しなければまだ平気と自分に言い聞かせる中、プリミラは困ったような顔でこちらを見ている。
「ええと……。魔王様をお叱りすれば?」
「なぜ!?」
「レイ様をそそのかして、悪の道を共に歩んだからです」
「悪魔が魔王に対して善を説くというのですか!?」
悪しかいないからなあ。この空間。
唯一の正義は風間と原と世良の勇者パーティくらいか?
鳴神もすでにダークヒーローだし。
「そうですね……。残念ながらモンスターたち全員には、仕事を与えることはできませんし……。レイ様は彼らの待機部屋を作成してください」
「わかった」
住む場所も含めて作っておこう。
さすがに、俺のせいで住処が手狭になるのは申し訳ない。
「絶対ダンジョンに配置するなよ。絶対だぞ」
「わかってるから念を押すなって……」
「ところで、私の護衛モンスターっていうのは、生成できたんですか?」
そうだった。元は時任の護衛の話だったし、そこはしっかりと伝えておこう。
「マーフォークとケルピーができたけど、どっちがいい?」
「えっと……そっちは、たぶん江梨子ちゃん用ですねえ」
こうして、奥居の水族館に新たなモンスターが追加された。
このままではまずいので、とりあえず時任にはシャドウスネークたちを渡しておこう。




