第557話 まことおぞましい団らん
「ぐぎゃ」
「どうした?」
珍しいな。ゴブリンが仕事中に話かけてきた。
ソウルイーターなら、わりといつでも巻き付いてくるけれど、この子たちは仕事中には遠慮して近づいてこないのに。
代表してゴブリンが一匹とブラックゴブリンが一匹か。
さて、一体何を伝えたいのか……。
ゴブリンがブラックゴブリンを指さしている。まさか、喧嘩でもしたのか?
いや、そのわりには二匹とも落ち着いているな。
しばらく様子を見ていると、ブラックゴブリンの魔力量が変わった。
……あれか? ステータスのプラス部分の能力を使っているのか?
念のために確認してみると、ステータスは変わっていない。
やっぱり、ブーストみたいな能力を使用しているらしいな。
「え? お前も?」
ブラックゴブリンを観察していると、隣にいたゴブリンが自分も見てくれと言わんばかりに指をさす。
別にいいけれど、いったい何のために……。
え?
ゴブリンソルジャー 魔力:10+ 筋力:25+ 技術:16+ 頑強:25+ 敏捷:17+
「プラスだ!」
なんで!?
もしかして、うちのゴブリンたち全員……ではないな。
他のゴブリンを確認しても、プラスがついていない者もいる。
だが、俺が最初に見たゴブリン以外にも、ちらほらとプラスがついているな。いったいどうして……。
「なんかわからないけど偉いぞ」
とりあえず、ゴブリンたちを褒めておくことにした。
そうか、これを知らせに来てくれたんだな。
◇
「ということがありました」
「私もゴブリンの仲間になればいいですか!?」
「それでプラスがつくのなら、俺もゴブリンの仲間になりますよ。というか、魔王軍全員ゴブリンの仲間にします」
いや本当に。俺や時任みたいな非戦闘員は、フィオナ様以上に切実だぞ。
これで一割ほどのステータスが向上するのなら、喜んでゴブリンと寝食を共にするとも。
「とんでもない政策を提案してるなあ……」
「リグマさんなら平気じゃない? ゴブリンにも変身できるし」
「そうか! リグマなら」
「別にいいけど、おじさんゴブリンたちと会話できないからね? 何が切っ掛けで強くなるかなんて、聞き出せないよ?」
そこなんだよなあ。
ゴブリンたちは、どうやってプラスのステータスを手に入れたんだろう。
こういうとき、モンスターたちと会話ができればなあと常々思う。
「やっぱり、ブラックゴブリンと一緒に暮らしていたからかな? そこで、何かを学び取ったとか?」
だとしたら、他のモンスターにも有効か?
コボルトとかスライムとかソウルイーターとか、色んなモンスターと一緒に暮らしてもらうか?
「他のモンスターたちにも、そのプラスのステータスを付けられるか?」
「ぎゃぎゃ」
無理みたいだ。
ゴブリンもブラックゴブリンも、首を横に振っている。
ということは、同じ種族のモンスター同士じゃないとプラスを付けられないってことだな。
「つまり、ゴブリン以外にもプラス付きを生成できれば、その仲間のモンスターを強化できる可能性が……」
「やり込み要素ですね」
「そのためには、ガシャを引き続けないといけないんですよねえ」
なんですか。その仲間を見つけたような目は。
俺は初めからあなたの仲間ですけど、そっちサイドにはいきません。
「まずはアナンタの説得。そこからだな」
「本人の目の前で、心情を吐露するやつがいる!?」
というわけで、必要なことなんだ。
モンスターの大量生成を許可してくれ。アナンタ。
◇
「もうやめとけってぇ」
「さすがに、厳しいか」
「お前、あとで絶対に地底魔界拡げて、こいつら用の部屋作ってやれよ」
「そこは当然ちゃんとするさ。生成した以上は、しっかりと住む場所を用意する」
ゴブリンたちは、大量に仲間が増えて喜んでいる。
コボルトやスライムたちも、新人を歓迎しているみたいだ。
それにしても、やはり低位モンスター生成は、わりと打ち止めだよなあ。
新しいモンスターなんて、まったく出てこなかったし。
だが、俺はこの結果に満足している。
新しいモンスターは出なかった。だけど、亜種はちゃんと生成できたのだから。
ノクターバット 魔力:16+ 筋力:18+ 技術:10+ 頑強:11+ 敏捷:43+
グリムクロウラー 魔力:13+ 筋力:27+ 技術:9+ 頑強:35+ 敏捷:21+
ダスクコボルト 魔力:6+ 筋力:24+ 技術:28+ 頑強:26+ 敏捷:33+
クリスタスライム 魔力:13+ 筋力:5+ 技術:11+ 頑強:37+ 敏捷:25+
見事に全員プラス付きだ。
ブラックじゃないけれど、なんとなくただのモンスターからの亜種みたいな名前のような気がする。
そして当然ながら、メニューにも登録済みだ。
こうなると後は簡単だな。この子たちを量産して、仲間たちと一緒に生活させてみる。
うまくいけばゴブリンたちのように、コボルトやポイズンバットたちにもプラスが付くかもしれない。
◇
巨大な芋虫蠢く一室。俺とフィオナ様は、その一員としてのんびりと過ごしていた。
そんな姿を見てリグマが呆れたように声をかけてくる。
「んで、あなたたち何してんのさ」
「ダンジョンクロウラーたちと一緒に生活している」
「魔王として、部下との交流を深めているところです」
大丈夫。この子たちの邪魔はしていないから。
なんなら、それなりに歓迎されているような気もするから。
ソウルイーターのように、体全体をこちらにこすりつけるように甘えてきているので、俺はたびたびこの子たちをなで回していた。
それを見たフィオナ様も、同じように真似をする。
ただし、俺の真似をしてダンジョンクロウラーたちをなでるのではない。
ダンジョンクロウラーたちの真似をして、俺になでられている。
……まてよ。ダンジョンクロウラーの真似をしたほうが、プラスがつきやすい? だとしたら、フィオナ様のほうが正しいんじゃないか?
でもその場合、俺は誰になでられればいいんだ。
「俺はリグマになでてもらえばいいのか?」
「レイくんの発想、たまに異次元になるから、おじさんついていけなくなりそうだよ」
「レイをなでるなら私でしょう! ずるいですよ。リグマ!」
「俺、何もしてませんってば……」
とりあえず、フィオナ様になでてもらうか。
そうしてお互いの頭をなでてしばらくして気が付いた。
これ、普段の俺たちと変わらないのでは?
「駄目かあ」
「ですねえ」
残念ながら世の中そんな甘くはないらしい。
俺たちは、脱力しながらダンジョンクロウラーにもたれかかるのだった。
◇
「時任プラス。ありだと思わない?」
「そりゃあたしかに、強くなれるならそのほうがいいんでしょうけど」
馬鹿な話をしている。
もう一言目からそれがわかった。
オクイのやつもそう思ったのか、話半分に聞いている。
「でも、プラスを付ける方法ってわかったの?」
「ううん。今は魔王様とレイさんが、二人で検証しているみたいだよ?」
二人が検証となると、わりと本格的に実用にかこつけようとしていそうだな。
そうなると、成功したあかつきには俺たちも同じ方法を試すことになるわけだ。
……危険じゃなければいいんだが、落石の罠に潰されるとか、自爆するとか、そういうのはなるべく勘弁してほしいなあ。
「ちなみに、どんな検証なの?」
タケミの疑問に、トキトウはこの前ブラックコーヒーを飲んだときのような顔になった。
「そ、それが……ダンジョンクロウラーの群れの中で、ずっと暮らしているみたい」
「うっ……」
トキトウの言葉を聞いて、オクイだけでなくハラもセラ、主に女性陣全員から息が詰まるような声が漏れた。
う~ん……。まあ、気持ちはわからんでもないよなあ。
ダンジョンクロウラーは巨大な芋虫だ。あのサイズの芋虫が大量に暮らしている場所。
そこで共に生活するって、けっこうくるもんがある。
俺もやれと言われたらできるだろうけど、あいつらには悪いがあまり気分は良くない。
単独で会う分には、問題ないんだけどなあ……。
「と、時任プラスは諦めようと思う!」
「でも、魔王様とレイさんが成功したら、魔王軍全員はそれを試すことになると思うわよ」
「ど、どうしよう……」
女性陣の祈りが通じたのか、残念ながらビッグボスとボスにはプラスが付与されることはなかった。
失敗を願っていた仲間たちのことは、黙っておいた方が良さそうだな……。




