第556話 行きつく先はピグマリオン
「再開してる!」
私の憩いの場が再開している!
やっぱり、予想通り。
簡単な話。ここを閉鎖していたのは、ここ最近のモンスター騒動のあおりを受けたのが原因。
つまり、その騒動が収まってきた今なら再開していると睨んでいた。
「あ、常連さん! どうぞどうぞ」
「ん、一日楽しませてもらう」
ハーフリングの店員たちにお金を払い、久しぶりの憩いの場へと突入する。
いたいた。私のスライム。きっと、私に会えなくて寂しかったに違いない。
「久しぶり。抱きしめてあげる」
まずは挨拶として思い切り抱きしめる。
このひんやりぷるぷるした身体が癖になる。
ああ~……。これだ。これこそが私がずっと求めていたもの。
スライムは嫌がりもせず、私に大人しく抱きしめられている。
これは……。つまり向こうも、私のことが好きなんだと思う。
よし、この子を引き取ろう。
「だ、駄目ですよ~」
だけど今回も断られた。
仕方ない。ハーフリングたちにとって、この子は大切な従業員なのだから、私が引き取ったら迷惑なのだろう。
「くっ……。また会いに来るから、あなたも元気で」
私の言葉に反応して、スライムはぷるぷると震えていた。
かわいい。やっぱり持ち帰って……駄目? あ、そう。
「よお、元気にしてたか?」
「あはは、君は相変わらずやんちゃだね」
周りの客たちも、私と同じように思い思いのモンスターに話しかけている。
みんな、仲良く交流している。
まったく……こんないい子たちが、モンスター騒動と関わっているはずないのに、誰がいい加減な噂を流していたんだか。
いけない。今はそんなことよりも、全力でモンスター園を楽しまないと。
次はコボルト……いや、ゴブリン?
どちらも堪能する予定だけど、どっちを先にすべきか悩んでしまう。
「あら、久しぶり」
「ん、久しぶり」
悩んでいる私に声をかけてきたのは、狼獣人の女性。
私たちは互いの名前すら知らない。だけど、同志ではある。
ここでモンスターを愛でている常連同士、自然と世間話くらいはするようになった。
それに、今日はどのモンスターがかわいかっただの話せる相手がいるのは、なかなかにありがたい。
きっと、今日も彼女なりの感想を共有してくれるのだろう。
そう思っていると、聞き捨てならない言葉が口にされた。
「あなたはもう見た? ここにおみやげコーナーができてるわよ?」
「おみやげ? アイテムとか?」
「いえ、それがモンスターのぬいぐるみが……」
「詳しく!」
私の剣幕に驚くことはなく、むしろそう来るだろうと思われていたみたい。
さすがは私の同志だ。彼女は焦らすこともなくすぐに場所を教えてくれた。
「ほら、出口のほうってちょっと広いけど何もなかったでしょ? そこに、こういうぬいぐるみが売っていてね」
「うわあ……」
かわいい。
彼女が手にしていたのは、彼女お気に入りのコボルトをデフォルメしたようなぬいぐるみだった。
断りを入れて触らせてもらうと、驚いたのはその触感。
まるで本当にコボルトのように、ふかふかとそれでいて固めの毛の感触が再現されている。
「……これ、もしかして」
「わかる? 私も店員に聞いたんだけど、モンスターの素材も使っているらしいわよ」
なるほど……。それでこの再現度。
たしかにここなら、モンスターの抜け毛程度は安全に集められるはず。
だけど、そんなに大量にぬいぐるみを作るだけの素材は……。
「っ! ごめん、急いでそっちに行く!」
「ええ、それがいいわ。売り切れると困るからね」
その場から走るように出口へと向かう。
いい情報をもらえた。それに、会話を中断して去っても笑って許してくれる。
さすがはモンスター好きの同志。実にできた獣人だ。
そうして普段は苦手な全力の移動を終えて、私は件のおみやげコーナーへとたどり着く。
よかった。まだ人はまばらで商品もちゃんとある。
「……どれにしよう」
なんなら、全部買いたい。
だけど、数はそんなに多くないから、買い占めるわけにはいかない。
この幸せは同好者みんなで分かち合うものだから、一人一つが暗黙の了解だ。
現に、周囲の者たちも資金はあるはずなのに、どれにするかうんうんと悩んでいる。
「……コボルト。ゴブリン。ダンジョンクロウラー。っこれは!」
決めた。
これこそが私のぬいぐるみだ。
すぐに店員のもとへと向かい支払いをすませ、それを私の物にする。
「えへへ……」
やわらかい。
しかも嬉しい誤算があった。
ぬいぐるみだから期待していなかったけれど、このスライムもちゃんとぷるぷるしている。
これはもう、あの子の兄弟といっても過言ではない。
いい買い物をした。これなら、ここに通えないときもこの感触を楽しめる。
そんな多幸感を味わいながら、再びモンスターたちのいる場所に戻ると、なにやら視線……いや、気配を感じた。
「……ち、違う! 浮気じゃない!」
さっきまで抱きかかえていたスライムが、私のぬいぐるみをみているような気がして、ついそんなことを口走る。
なので私は、荷物を置いてから再びその子を抱きしめて機嫌を取るのだった。
◇
「ラプティキさんのぬいぐるみ、すごい人気だなあ」
「そうね。それに、服ではないけれどけっこう作るのが楽しかったわ」
試しにおみやげコーナーに置いてみたら、それぞれが頭を悩ませてから一番好みのぬいぐるみを買っていった。
さすがはモンスターの良さをわかってくれる人たちだ。礼儀正しさも含めていい客層だな。
「レイさん! 私もぬいぐるみ欲しいです!」
「あの……私も魚とかエビとかカニのぬいぐるみが」
「ラプティキさんに頼んでくれ」
転生者女子組から、そんな嘆願をされるくらいには、いい出来だよなあ。
特にモンスターの質感を再現しようと、素材を使うあたりかなり凝っている。
スライムの素材をどうやってぬいぐるみに使ったのかわからないが、テクニティスと相談していたから魔力とか魔石関係かな?
「女の子はぬいぐるみが好きだなあ」
「転生前は、新の部屋にぬいぐるみたくさんあったからね」
「ふむ、ぬいぐるみ……。ラプティキ様よ。ヒーローのフィギュアとか作らないか?」
「そういうのは、テクニティスに頼みなさい」
「なるほど!」
鳴神は鳴神で何を企んでいるんだ。
悪いけどそれは売れないぞ。お前の認知度低いからな。
ヒーローとして大っぴらに活動させるわけにはいかないんだ。許せ。
「それにしても、うちのモンスターたちがすごい」
「ほんと賢いですねえ。購買欲をそそるために、心なしかいつもより人懐っこい演技をしていますし」
「あの魔法使いの女の子とか、スライムに謝りながら抱きしめていますからね」
ぷるぷる震えるだけで、身ぶり手ぶりさえもできないというのに、大した役者だ。
それともあの少女は、スライムの言葉や感情でもわかるのか?
「このまま順調にいけば、客足は戻りますし、なんなら増えそうですね」
フィオナ様の言葉には同意だけど、そうなるとあとはやはり管理者か。
このままロペスに任せていいのかな?
そろそろロペスの負担が大きくなりすぎではないか?
「ロペスは、平気なのか? カジノや温泉宿だけでなく、ここの責任者になって」
「受付のハーフリングは、元はと言えば俺の仲間に頼まれて預かっている連中だからな。責任はちゃんと負うし、そもそもそんなに負担にはなってないから安心してくれ」
ならばいいのだが。
だが、今後施設を増やすとしたらいよいよ責任者不足かな?
そのあたりは、よく考えて行動したほうがよさそうだ。
「ところで、気付いたらフィオナ様も、ラプティキさんのところに行っているな」
「ああ、ビッグボスもぬいぐるみが欲しいみたいだぜ」
「へえ。モンスターの?」
「いや、ボスのぬいぐるみを作ってもらうと言っていた」
「……止めてくる」




