第554話 弱者の戦い方
「……見つからないわね」
「ええ、やはりこれまでのモンスターたちと違い、身を隠す能力が格段に高いようです」
それよりも、危機察知能力のほうかしら。
こちらが近づく前に逃げる力が、あまりにも高すぎる。
へーロスが、遠距離から広範囲をいっせいに攻撃したがる気持ちもわかるもの。
「アタシも、街一つくらいの範囲の魔力攻撃しようかしら……」
「テ、テンユウ様! おやめください!」
やらないわよ。冗談じゃないの、失礼ね。
でも、本気でやると思われているくらいには、アタシもうんざりしているってことね。
「ったく、どうせここにもモンスターなんかいやしない……」
街の周辺を歩いていると、そこにはいくつもの死体があった。
住民が犠牲者になったのかと思い、すぐに従者たちよりも先に死体に駆け寄る。
あの子たちに、犠牲者の姿を見せたくない。
……でも、とんだ勘違いみたいね。
「……コボルトね」
「テンユウ様。それって……」
「ええ。アタシたちが追っているモンスターと、特徴が一致するわね」
「つまり、特殊個体モンスターですよね。……なんで、こんなところで死んでいるのでしょうか?」
「……何かに襲われている?」
体の傷を見る限り、戦闘の末に息絶えたような死体ね。
もしかして、アタシたち以外の誰かが戦ってくれたのかしら?
「とりあえず、街の人たちに話を聞きましょ。何か目撃しているかもしれないわ」
◇
そうして行った聞き込みの結果、残念ながら目撃者は見つからなかった。
「残念ですね……。まさか、ここで暮らす人たちも何も見ていないなんて」
「情報はゼロかあ……。なんか、釈然としないわね」
レンシャがごちるけれど、その気持ちも理解できる。
ここまで追っていたモンスターが、急に死体で発見されたのだもの。
消化不良というか、なんだか気持ち悪い結末よね。
「情報ならあるわよ」
でも、完全に情報がないというわけでもない。
アタシの言葉に、レンシャだけでなくレイライもスイリョウも耳を傾けた。
「街の人たちが知らないということは、少なくとも街の自警団じゃない。それに、派遣された騎士や兵士や導師でもない。当然、雇った冒険者でもないわね」
「ということは、誰にも知られずにひょっこりと現れた強者が、コボルトたちを全滅させたってことですか?」
「そう考えるしかないわね。誰かしら……。勇者なら街の者に話は通す。兵士たちも冒険者も同じ。ふらっと現れてモンスターを倒して説明もなく去っていく……」
リズワンあたりならやりそうだけど、さすがに住民たちに話くらい通すでしょうし……。
ルフみたいな武芸者かしら? それともダンテみたいな荒くれ者? あの手の連中なら、ふらっと立ち寄ってモンスターを倒して、そのまま去っていくこともしそうだし。
「そうなると、今回はたまたまモンスターが倒されただけで、これで問題が解決するなんて考えるべきじゃないですね」
「ええ。今回は運が良かったくらいに考えておくのがいいわ。それでもここの問題は解決した。次のモンスターを探すわよ。まだまだ、被害にあっている村も街も多いんだから」
腑に落ちないけれどそうするしかない。
願わくば、この現場を作った者が、他のモンスターも倒してほしいものだけど。
さすがにそれは、虫が良すぎるからね。
◇
「へーロス様」
「ええ。わかっているわ」
仲間に言われるまでもなく、血の匂いは鼻腔に届いている。
それも、人類の血の匂いじゃなくて、モンスターの血の匂い……。
「私たちが探していたモンスター。ってことなんでしょうね」
「戦闘の痕跡もあります。返り討ちにでもあったのでしょうか?」
「さあ、どうかしら」
それで返り討ちにされるようなモンスターだったというの?
このモンスターたちの厄介なところは、自分と相手の力量差を見極めて、勝てる相手を襲って、勝てない相手からは逃げるところよね?
そうやすやすとやられるとは思えない。
でも、現実はこれ。いったい誰が……。
「考えてもしょうがないわ。ここは解決した。次に行くわよ」
「はい!」
疑問は残るけれど、そんなことを考えている余裕もない。
私たちは、まだまだ相手にしないといけないモンスターがいるのだから、そういう謎解きはテンユウにでも任せればいい。
◇
「さすがは勇者様です!」
「おかげで村は救われました!」
「や、やめてよ。アタシたちの手柄じゃないわ」
そう言っても謙虚だなんだとさらに持て囃される。
……勘弁してほしいわねえ。謙虚だなんてとんでもない。単なる事実を述べているだけなのに。
「各地で次々とモンスターが倒されていますね」
「ええ、どうやら流浪の強者は、モンスターを狩ってくれているみたい」
誰? うちだけじゃなくて、リックもイドもオルナスもへーロスも、みんな同じような状況だと報告してくれた。
じゃあ、誰がそんなことしているっていうの?
「……人類のために動いてくれている誰かがいる。それにこれだけの功績と実力。ぜひとも、仲間になってほしいわねえ」
でもそれも無理ということはわかっている。
ここまで完璧に姿を隠しているのだから、きっとアタシたちの前に姿を現すこともないでしょう。
「せめて、お礼くらいは言いたいんだけどねえ……」
この騒動の終息を予感し、アタシはそんなことを呟くことしかできなかった。
◇
「よし、ここも終わった」
「先輩次行きましょう」
「大丈夫か? お前たち、張り切ってずっと戦ってるだろ? 少しは休んだらどうだ?」
「まだやれます。というか、遭遇までが長いだけで、戦闘はすぐ終わりますし」
頼もしいことだ。
無理しているようでもないので、次の獲物を狩りに行く。
今日の外出時間を考えると、次で終わりだな。
遠方は長期の休暇と外出許可を得ればいいので、ここいらが終わったら次はそっちだ。
「さて、そろそろか」
目標に向かって進み続け、人間たちにばれないように隠れたり迂回したりすることで、なんとか無事にたどり着く。
「なんだ。ゴブリンか」
「そういうお前らもゴブリンだろ」
「……え!? なんで、俺たち以外に会話できるゴブリンがいるんだ」
まあ、驚くよな。
俺たちが連れている野生のゴブリンなんて、いまだに何言ってるかわからないし。
「うわっ……なんだそいつ。普通のゴブリンか。正気じゃない下品なやつだな」
だがこいつのおかげで、お前らを見つけられた。
野生のモンスターというのは、必ずしも俺たちに劣るわけではないらしく、嗅覚やら勘が優れているみたいだ。
そのおかげで、こうして連れ歩いていると次々と変異種と呼ばれているモンスターを発見してくれる。
「それで、お前らもなんか知恵がついた仲間なんだろ? これから人間どもの村を襲うつもりだが、一緒に行くか?」
「いや、俺たちはそれをやめてくれと言いにきた」
「は……?」
空気が変わる。
こちらの意見にいかにも嫌そうな表情を浮かべたそいつは、ため息をつきながらこちらを諭す。
「馬鹿だなお前ら。人間なんかの味方をしてもいいことないぞ。ああ、もしかして強い人間が怖いのか? 安心しろ。あんなのが来たらすぐに逃げればいいだけだ」
「というより、魔族の味方をしているんだ。その魔族に迷惑がかかるから、人間どもを襲うのはやめてくれ」
「駄目だなこいつら。仲間じゃねえよ。こんな飼いならされた連中」
飼いならされているというのはたしかに合っている。
だから、こいつらが馬鹿にしたように笑っても気にならない。
「野生のモンスターどもは馬鹿だけど、お前らみたいな臆病なやつらも駄目だな。誰かを襲うことも忘れちまってるようなら、牙も抜けてる腑抜けってことだ」
「もういいだろ。邪魔するなら殺せばいい。こいつら、俺たちより弱いからな」
それも合っている。
こいつら、頭だけでなく力も魔力も強くなっているみたいだ。
知能だけでなく、全てが強化されている。そんな印象を受ける。
だからこそ、俺たちと目の前で話なんかしているんだろう。
もしも俺たちのほうが強ければ、きっと遭遇する前に逃げていたはずだから。
「しょうがない。じゃあ戦うか」
「やっぱり頭悪いだろお前ら。俺たちが囮にした連中と同じで、半端に知恵がついただけのやつらか」
「お前らごときが俺たちに勝てるとでも思っているのか」
まあ、俺たちじゃ無理だろうな。
敵はすでにこちらを殺すと決めたらしく、集団で一斉に襲いかかってきた。
このままならばこちらの全滅だろう。
「戦闘だ。気を抜くなよ」
「了解です!」
俺たちと違う黒いゴブリンたち、こいつらの強さは普段は俺たちと同じくらいだ。
だから、目の前の敵には敵わない。
だが、本気で戦った場合は話が別だ。
「な、なんだこいつら! 急に強くなっている!」
「実力を隠していたのか!?」
「いや、その程度じゃ俺たちの鼻はごまかせない! 本当に、急激に強くなって、ぎゃ!」
さすがに知能が高いと言われるだけあって、ブラックゴブリンの相手はまずいと悟ったらしい。
ならばとばかりに、俺たちへと襲いかかるが、落ち着いて対処する。それだけだ。
ブラックゴブリンたちと共に生活し学ぶことで、なんとなくわかってきた。
他の仲間たちに教えても、俺たちゴブリン以外には扱えなかったが、そろそろものにできたと思う。
「な、なんでお前らまで急に強くなって……」
ただ、ブラックゴブリンと違って体への負担はでかいのか、俺たちじゃあそこまでの時間は戦えない。
だから、さっさと終わらせよう。
なに、あとは簡単だ。圧倒的な力の差となっているため、ただ倒すだけ。
そうして、敵のゴブリンたちは全滅した。
なるほど、嗅覚か。
それで遠方の敵の接近を知り、実力すらも嗅ぎ取り、敵わない相手なら逃げていたのか。
だが、このブラックゴブリンたちの力までは見抜けなかったようだな。
さあ、今日はこれで終わりだ。
そろそろ、遠方のモンスターを狩らないとな。
ご主人様のためにも、しっかりとおかしなモンスターたちは全滅させよう。




