第550話 属性武器必須のテコ入れ調整
「それは?」
「回復薬のための薬草です」
「そっちは?」
「こちらは、葉を煎じれば毒消しになる木ですね」
すごいことになっている。
俺は場所を提供しただけなのに、プリミラの手にかかればそこを様々な植物だらけにすることは、容易いようだ。
「バナナ」
「はい。果物の木も、たくさん準備しました」
自慢げに胸を張る姿に、彼女がいかに楽しんでいるか伝わってくるかのようだ。
それにしても、木の形や色だけでも随分と違うものだな。
それらを種類ごとに植えて、さらには見栄えがよくなる配置にしているあたり、プリミラは相当本気で植物園を作ってくれたようだ。
「よく、こんなに色々な植物を準備できたな」
「それは、魔王様のおかげです」
ああ……。種系のアイテムは、片っ端からプリミラに渡していたからな。
その成果が今こうして遺憾無く発揮されているということだ。
魔王様の無念も、少しは晴らされることだろう。
「うん。問題ないと思う」
一通り周ってみたけれど、わりと楽しめたし見応えもあった。
派手な見世物こそないものの、ゆっくりと穏やかな時間を過ごせたと思う。
案外、フィオナ様が気に入りそうな施設だ。
外の者たちも、のんびりと楽しんでくれそうだな。
「ありがとうございます」
プリミラも、俺の感想に緊張が緩んだ様子で息を吐いた。
いつもと変わらないように見えて、これでなかなか緊張していたのかもしれない。
畑と違って、見ている者が楽しめる施設作りだもんな。どんな感想をもらえるか、さすがのプリミラも不安だったのだろう。
「あとは職員を決めて、一般公開と内部公開のスケジュールも決めないとな」
「お待ちくださいレイ様。その前に一つだけ」
公開まであと一歩。最後の部分をつめていこうとすると、プリミラから待ったがかかる。
「ここは、私の持てる力を注いだ集大成の場所です」
「そうだな。良いセンスだと思うよ。本当に見応えがあったし」
その言葉を聞いて、プリミラはほんのわずかに自慢げな表情を浮かべた。
珍しいな。態度はともかく、表情にまで出すとは。
「こほん。そのため、様々な希少な薬草や果実もございます」
俺の視線に気が付き恥ずかしくなったのか、小さな咳払いをしてから説明を続ける。
「ですから、かつてのロペスのように、希少な植物を狙う者も出てくるかもしれません」
「あ~……」
それもそうだな。
ロペスのことは、薬草を狙ってうちに来たところを捕まえた。
あのときは単なる薬草だったけれど、品質が良かったので狙っていたそうだ。
だが、今回はそれ以上に希少なものも多くある。
つまりそれだけ狙われやすくなるということ。
「罠を仕掛けるか?」
「いえ。それですと、他のお客様が逃げてしまうかもしれません」
それもそうか。
ダンジョンならともかく、ここは一般開放する予定の施設だ。
罠があって危険だと思われたら、まともな客が去ってしまう。
「となると、ますます従業員が大切だな」
次に考えることは、従業員に守ってもらうということだ。
見回りしつつ、怪しげな者がいたら咎めてもらう。あるいは、荒っぽくなっても身柄を押さえてもらう。
となると、戦える者にしたほうがいいな。
「植物の施設ということもあって、ダークエルフに任せようと思ったけど、オーガたちみたいに戦える者に任せるべきかな?」
防犯のことを考えると、やはり腕っぷしは必要だ。
いっそのこと、ダークエルフとオーガ両方に働いてもらうのも良いかもしれない。
「失礼ですが、あまり荒っぽい者たちが見回っていると、落ち着いて植物園を楽しめないかもしれません」
それもそうか。
植物園は、どちらかというと争いとは縁遠い穏やかな者たちが、メインの客層になる気がする。
ある意味ではオーガたちと対極の存在のため、職員といえどオーガたちが目を光らせていると、楽しみづらいか……。
「プリミラが見回りできればよかったんだけどな」
「いえ、私は四天王なので、オーガたち以上に重圧を与えそうです」
「人類たちにとっては怖いかもしれないか……。かわいいのに」
見た目は美少女だし、彼女が目を光らせていても微笑ましい光景に過ぎないだろう。
「かわっ……。こほん。ありがとうございます」
ほら、かわいいと言われて赤面するくらいの普通の女の子だし。
「そうなると、あとはリグマにでも……」
「リグマ様なら、安心してお任せできますが、あまり仕事を増やしすぎてもよくありませんね」
リグマならまだいけそうだけど、余裕を持たせておくべきだし、ここで使うべきでもないか。
なら、昆虫人? う~ん。オーガと同じ理由で駄目そうだ。
「レイ様には、モンスターをご用意していただきたく存じます」
「モンスター? ああ、そうか。食人花でも混ぜておくか」
それなら、植物園にも馴染めるし問題ないということか。
「いえ。さすがに、植物が好きで集まったお客様ですから、食人花なんて紛れていたらすぐに発見されて、大騒ぎになるかと……」
手強いな。植物好きの客どもめ。
「ですので、レイ様には食人花や食人木の改良をお願いしたく」
「改良……。バレないように、小さいモンスターとして配置するか?」
「それも良いのですが、いっそ他の植物に溶け込めるような見た目にはできませんか?」
「見た目かあ」
そのあたりは試していなかったな。
だけど、大きさも変えられるわけだし、がんばればできそうな範囲だ。
よし、まずは何ごとも試してみよう。
◇
「ほほう。つまり、モンスターガシャですね?」
「ちょっと違いますけど、もうそれでいいです」
ガシャのこととなると、他人の結果でも楽しそうだからなあ。
いっそ、またガシャ祭りでも開いてしまおうか。
「食人花生成」
「おや、食人花ですか? それでは、ガシャと違って固定の結果ですよ?」
それで良いんです。ガシャじゃなくて、ただの改良ですから。
と言っても、フィオナ様は理解しなさそうだな。
まあ、今回はガンガン改良してしまうとしようか。
「小さいのは、見つけにくいけど溶け込めるかと言われると微妙だな」
ということで、今度は植物園にあるような花の姿をイメージして生成した。
「おや、新種ですか? 新種ですね? つまり、やはりガシャ……」
「モンスターガシャじゃなくて、改良した食人花ですってば」
そこでがっかりするようだから、勝手に進めていたというのに。
……後で、ちょっとだけモンスターガシャも回してあげようかな。
「生成」
「わかってきました! さっきよりも普通の植物っぽい子です」
「さすがは魔王様ですね。俺も、少しずつ良くなっていると思っていたところです」
よし、魔王様が評価してくれている。このままどんどん改良して、完璧な食人花を目指そうじゃないか。
◇
「駄目だ。マグマエリアきつい」
「だよなあ。あっちはリターンも大きいが、リスクも大きい。俺たちは慣れてる道を行こうぜ」
喜びのダンジョンに通い慣れた男たちは、新規エリアの攻略は放棄し、慣れ親しんだ道を進むことにした。
たしかに、こちらの道も変化することはある。
部屋も道も罠もモンスターも、前回とは違っている。
だが、その変化は微々たるもの。さすがに、マグマだらけの新規エリアとは比べるべくもない。
「よ~し。今日は良い引きだったし、楽にクリアしてしまおうか」
そう言いながら、意気揚々と次の部屋へと進む。
これまで通りならば、この構造はモンスターだらけの大部屋だ。
なら、さっそくアタリの装備品で蹴散らしてやろう。
そんな考えは、部屋に足を踏み入れた途端に霧散した。
「多いよね!?」
部屋一面を埋め尽くすほどの植物。植物。植物。
これら全てが食人花であることを知った男たちは、急いで逃げ帰るように走り出す。
「無理! 何あれ!?」
「食人花だったよな! まさか、マグマエリアで、炎系の装備を整えろってことか!」
「げえ……。必須かよ。きついなあ」
そう言いながらも、男たちは次回はマグマエリアの攻略を視野に入れることを考えるのだった。
◇
「増やしすぎだろ。馬鹿ぁ!」
「だから、喜びのダンジョンに配置したじゃないか……」
「就職先を用意すれば、無限に生成しても良いってわけじゃないからなぁ!?」




