第548話 たまにぶり返す暗い日のこと
「それで、そのモンスターを狩るってこと?」
「そうだ」
「まあ、他の勇者どもも動いているのなら、俺たちもやったほうがいいか」
「そうだな。どうせモンスター退治は、それとは無関係にやるつもりだったし、さぼって叱られても面白くない」
全員、異論は無いようだな。
テンユウの野郎の思惑であろうが、関係ない。
もとより、モンスターどもは狩るつもりだった。
力を取り戻すために、あの女と雑魚を倒せるようになるために、闘争は必要だ。
そのついでに、国を救うというのであれば、それを拒む理由もないというだけの話だ。
「なら、テンユウが調べた場所をあたるぞ。変異体だろうが、そうじゃなかろうが、皆殺しにして強さを取り戻せ」
「俺たちだけか? お前は、どうするんだよ。イド」
「俺は、お前らが寝てる間に、ある程度力を取り戻している。獲物は譲ってやるから、お前らだけでやれ」
「あんた、私たちが死んでいる間も、何回か死んだって聞いたけど。大丈夫なの?」
「それでも、お前らよりはましだ」
さすがに、互いの実力がわからないほど馬鹿ではない。
全員納得したらしく、俺たちはモンスターの目撃場所へと向かう。
……そう。俺たちは、実力差がわからないほど馬鹿ではない。
あの女に、まだまだ届かないということも、理解できている……。
それでも、全身全霊の渾身の一撃でさえも、傷一つ付かないというのは、力量差がありすぎる。
強くならないといけない。あんな、寄生虫に体を奪われて、死んでいる場合じゃないんだ。
◇
だというのに……。
「匂いはこっちからするぞ!」
「三方向から追い詰めるぞ! ミリアム! まずは、広範囲に魔法を放て!」
「ええ、取り逃がした分は頼むわよ!」
「いない? いや、これって、普通のモンスターだよな……?」
「あいつら……匂いを囮にして、逃げやがった!」
「それに、魔力を誤認するように、別のコボルトのところに、誘導されたみたいね……」
なんで、こんな雑魚どもに、手こずらないといけない。
ムカついてくる。普段なら、雑魚ども相手にこんなムキになることはない。
逃げるというのであれば、別に放っておいても良い。
なら、なんでこんなにムカつく……?
ああ、そうか。
似ているのか。俺が二番目に殺したい、あの雑魚の魔族に。
弱いくせに、様々な策を講じて俺たちから逃げようとしている。
そして、まんまとその策にかかり、相手を追い詰めきれずにいる。
認めたくないが、なんてことはない。俺たちより、相手のほうが上ということだ。
「ここで逃げきれたら、あいつの勝ちか……」
なら、そんなくだらない策を叩き潰せるほどの力を身に付ければいい。
それこそ、あの女のように……どんな手段もねじ伏せられる、圧倒的な力を見せればいいだけだ。
隠れている? なら、魔力を探るだけだろ。
逃げている? なら、逃げ切れない速度と範囲に攻撃すればいいだけだろ。
「死ね」
最初からこうするべきなんだ。
あの雑魚と戦ったとき、その後の魔王との戦いを思って力をけちりすぎた。
四天王どもがいるからと、あの雑魚に費やす力をどうしても、最小限へと意識しすぎた。
それで、二度も死んでれば世話ないな。
そもそも、力の配分がどうとか考えるのは、俺の性に合っていないだろうが!
「お、おい。俺たちに任せるって話はどこいったんだよ」
「っていうか、キレてない……? そりゃあたしかに、なかなか倒しきれなかったことは悪いけど」
次だ。次会ったときは、もう後のことなんて関係ない。
全力で速攻殺す。次こそは、お前のことを見くびらない。
「次行くぞ。お前らも、ちまちまやっていないで、全力で殺せ」
◇
「テンユウ様。イド様から報告です。コボルトの変異種とスライムの変異種は、仕留めたそうです」
「そう。どうやら、真面目にやってくれているみたいね」
イドだけでなく、リックもオルナスもヘーロスも、それなりの成果をあげてくれている。
もちろん、アタシたちも、変異種を倒し続けている。
所詮はモンスター。勇者たちが本気で相手をした場合、対処は難しくない。
……と、言えたらよかったんだけどねえ。
「テンユウ様! ミスティから連絡です。私たちを避けるようにして、村を襲うモンスターが発生しています!」
「やっぱりねえ……」
どうやら、特殊個体の中にも優劣はあるみたいで、アタシたちが倒せているのは、あまり優秀ではないモンスターらしいわね。
被害の原因となっているのは、もっと賢くて勘が良いモンスターたち。
アタシたちが動いて、念入りに根絶しようにも、それを察して逃げてしまう。
本当に、頭の良いモンスターなんでしょうねえ……。
「テンユウ様……。ヘーロス様たちが、ブレスでそこら中を攻撃していいか、確認しています」
「駄目に決まってるでしょ!? モンスター以上の被害じゃないの!」
「で、ですよね~……」
ヘーロスの案は却下するとして、まあ、そうなるわよねえ。
うぬぼれるつもりはないけれど、アタシたちって人類の中でもトップの実力だもの。
警戒心が強い特殊個体のモンスターたちは、アタシたちと戦うことをまず避けようとする。
だから、アタシたちを囮に、あとは各国で戦える者たちにも動いてもらって、件のモンスターを狩るという方針なんだけど……。
「村や町の状況は?」
「ある程度以上の実力者が守っている場所は、やはり避けられてしまうみたいです……」
「なら、それ以下の実力者が守っている場所は?」
「その場合は、相手に翻弄されてしまう場合が、多いらしく。優勢になった場合には、すぐに逃げられてうまくいっていません」
「やんなっちゃうわねえ……」
自分の弱さも強さも、しっかりと理解している。
そのようなモンスターの、なんと面倒なことか。
弱さの自覚ねえ……。やっぱり、あの宰相のしわざだったり……しないんでしょうねえ。
あの宰相なら、こんな足がつく真似絶対にしないでしょうし。
◇
「最近、リズワンの旦那とレンシャの姐御来ねえな」
彼は頬杖を突きながら、暇そうな声をあげた。
大丈夫かねえ? また、レイ様が急に視察にきて、慌ただしく働くことにならなければ良いんだけど。
「そうだね。お得意様が来ないと、なんだか寂しいものがあるね」
「ピルカヤの旦那の情報では、俺たちに影響がある問題ではないようだが、人類は大変らしいぜ」
「モンスター被害だからね。それなら、たしかにうちは無事だろうさ」
「ああ、むしろ、捕獲するか罠の検証するか、うちに来てほしいとか言いかねないからなあ」
ありえそう……。
私たちや人類にとっては、馬鹿にならない被害をもたらすモンスターたちも、レイ様にとっては、実験台に過ぎないのか……。
まあ、罠やモンスターだけでなく、十魔将や四天王の誰かがいれば、被害なんてありえないだろうからねえ。
つくづく、どこよりも安心できる組織だよ。本当に。
唯一、女神と敵対している。という点さえ除けばの話だけど。
「そういえば、モンスター園の客入りも、悪くなっているらしいぜ」
「それは災難だね。うちのモンスターたちは、そのモンスターと関係ないというのに」
といっても、さすがにそれを理解しろという方が無理か。
人を襲い、田畑を荒らし、家畜たちも奪われる。
人としての真っ当な生活が、そのモンスターたちに脅かされているんだ。
善良なモンスターだなんて、考える余裕はないだろう。
……だけど、その生活って、魔王様に保護されるまでの私たちと同じじゃないか。
いい気味だ。どうせもう忘れているから無理だろうけれど、少しは自分たちの所業を悔い改めればいい。
「モンスターたち、がんばれ~」
「何言ってんの!? ……よ~し、ちょっと休憩しよう。女王様、たまに目が濁るから、疲れているんだ。きっと」
そうかい? 今、気分が晴れ晴れしているし、私は元気だと思うんだけど?
ま、まあ。君がどうしても私とお茶をしたいというのなら、付き合ってあげても良いけどね!




