第547話 こう見えて仲は悪くない
「……」
「……」
「……」
早く来すぎた。そうだ。そうに違いない。
というか、そうだとしても、本来なら先に来ているメンバーと遅れているメンバーは、逆だと思っていた。
だけど、現実はご覧の通りだ。
「……ええと」
何か話そうとしても、こちらに目線を向けられるだけで、乗ってくる気配はない。
そも、オレもそんなに話題を膨らませるのは得意ではない。
「二人も、テンユウに呼び出されて来たんだよな?」
「当たり前じゃない。そうでなければ、わざわざルダルから離れたりしないわ」
「くだらないこと聞くな」
……会話はしてくれるんだけど、膨らむ気がしない。
テンユウ。リック。早く来てくれ……。
「あら、遅れちゃったわね。ごめんなさい」
テ、テンユウ~!
それに、リックも。
良かった……。これで、へーロスとイドと三人でいるという気まずい状況から解放された。
「わざわざ俺たち全員を集めて何の用だ。くだらない用事じゃねえだろうな」
「それでも来てくれるあたり、律儀よねえ」
「ちっ……」
すごいな。イドに食ってかかられるも、飄々と受け流している。
イドのほうも、諦めてそれ以上追求していない。
「へーロスもひさしぶりねえ。あんた、こうやって呼び出さないと、ほんと顔見せないし」
「前に顔を見せてから、一年も経ってないじゃない」
「人間にとっては、一年は長いのよ」
たしかに、この中ではへーロスだけが長寿族だからな。
感覚が違うのは、仕方がないことだろう。
「オルナスは、この間ぶりね。どう? 死んだりしてない?」
「ああ、俺は無事だが……。そういえば、お前は死んだって聞いたぞ。大丈夫なのか? テンユウ」
「いやあ、転生者って怖いわよねえ。刺し違えてやったから安心なさい」
ああ、こいつも転生者にやられたのか。
まいったなあ。今のところ、俺には転生者は不利益しか及ぼしていないぞ。
国にダンジョンを作って、多くの人を犠牲にしたり、俺に寄生して気付いたら殺したり……。
うまく舵取りしろと、女神様に呆れられそうだ。
「で、用件は何? 私たち五人が揃って話し合うほどの問題なの? ……まさか、テイランの病が悪化した?」
「いいえ。そっちは、相変わらずといったところよ。今回は、そんな緊急性が高い問題ではないんだけど」
イドの眉間にしわが寄った。
くだらない用事で呼び出すな、なんて今にも怒り出しそうだ。
「リックの仲間とアタシで、モンスター被害を調査していたんだけど、ちょっと面倒そうなのよね」
「へえ、モンスターか」
そう聞いて、イドは興味がわいたのか、大人しく話を聞いている。
モンスター……。そういえば、欲望のダンジョンに、オレの攻撃を防ぐほどの謎のモンスターがいたよな。
いや、あれ自体が転生者のしわざだったのか?
「ミスティとスティアからも聞いたけど、どうやら僕たちの国だけでなく、さまざまな場所で特殊個体のモンスターが生まれているらしい」
「特殊個体? 通常よりも強いとか、そういうモンスターってことか?」
「いいえ、頭が良いのよ。こちらのことをよく見ているわ。かなわないと知ったら、すぐに逃げ出したり隠れたりする」
「それで、自分たちを倒せない相手を狙って、襲いかかるみたいだね」
厄介だな……。
モンスターが知恵をつけるだなんて、オレたちからしたらたまったものではない。
普段なら、考えなしに暴れたり、無謀な相手に襲いかかるため、自滅することも多い。
だからこそ、被害は最小限に抑えられる。
だけど、隠れて行動したり、実力差を理解して襲撃するようでは、発見も遅れるだろうし、被害はその間に拡大するばかりだ。
「魔王の影響かしら?」
「わからない。でも、僕たちはみんな知っている。魔王の圧倒的な強さも、僕たちではその力をまるで削れなかったことも」
「そうね。人類は、私たちのおかげで魔王も力を削られた、なんて言ってるけど、魔王が活動していないのは、たぶん気まぐれだから」
「あるいは、水面下で活動していたり、力を蓄えているんだろうね」
リックが言うとおり、オレたちでは魔王に太刀打ちできなかった。
あのリピアネムさえも倒したというのに、話にもならなかった。
そんな魔王が動かないのは、気まぐれかあるいは……。
「軍自体は壊滅させたから、向こうは向こうで軍を再編しているんじゃないか?」
「再編するほどの人材もいないんじゃない? 念入りに全員殺したもの」
「……だから、モンスターを使おうとしているのかもしれないね」
そういうことか。
たしかに、それなら魔王が動かない理由も、特殊個体のモンスターが増えたというのも、納得できる。
大元の魔王を倒すのが一番だろうが、オレたちでは、まだまだ届く気がしない。
「だから、各地の被害が増える前に、アタシたちでそのモンスターを根絶しようってわけ」
「なるほどね……。そうなると、私のところは関係なさそうだし、別の場所を担当するべきかしら?」
「そうね。そのモンスターたちが、強者から隠れて逃げるというのなら、ルダルには挑まないでしょうし」
へーロスの国ルダルは、竜と古竜の国だからな……。
へーロスみたいな、古竜どころか、一般の竜が相手でも、モンスターたちは戦闘を避けるだろう。
「それなら、俺はどうなんだ」
「あんたは強いけど、プリズイコスの獣人の実力はまちまちだからねえ。あんたは、プリズイコス周辺のモンスターを狩り尽くしてちょうだい」
「ちっ、雑魚どもが」
イドは、それでも話を受けるようだ。
おそらくは国のためというよりも、モンスターを倒して強さを取り戻す延長だからと、割り切ったのだろう。
「そういえば、あんたのところのパーティ、蘇生はしたの?」
「ああ。蘇生するのが遅すぎるんだよ、あいつら」
「信心が足りないんじゃないの?」
「てめえに言われたくねえ。あの女神じゃなくて、龍神とかいうのを信仰している国じゃねえか」
「まあねえ。そこはほら、祈りって強制すべきことでもないし」
テンユウのところは、女神よりも古い土地神を信仰しているからな。
その点、うちは人の入れ替わりも多く大きな国だからか、すっかり女神信仰となっている。
イドのところは……。そもそも、神をそこまで敬う連中じゃないからな。
「まあ、あいつらのことは問題ない。モンスターごときなら、さすがに一緒に連れて行っても良いだろう」
そういえば、欲望のダンジョンには一人で向かっていたらしいからな。
そのころには仲間も蘇生済みだったが、危険だから一人で行動したというところか。
「なるほどね。あんた、仲間が死なないように一人で行動していたってこと。相変わらず、わかりにくいけど仲間思いよねえ」
「うるせえぞへーロス。うちには、まともな連中がいねえんだよ。仲間をクビにできるほど、強いやつらであふれている、てめえのところと一緒にするな」
「失礼ね。私だって、そう簡単にパーティをクビにしたりしていないわよ。さすがに、問題がありすぎるやつは、そうするしかなかっただけ」
へーロスのところのパーティメンバーは、入れ替わりが発生しているからな。
だが、勇者についていけるほどとなると、普通はそう簡単に見つからない。
それが、ある程度確保できるあたり、ルダルという国の強さがよくわかる。
「オルナス。今回は、あんたもパーティと一緒に行動してもらうわよ?」
「わかってるよ……」
あいつらに負担になることは、なるべく避けたいんだけどなあ。
今回は人手が必要だから、そうも言っていられないか。
「それじゃあ、勇者とそのパーティで、徹底的に不審なモンスターを根絶しちゃいましょ」
テンユウの言葉に、異を唱えるものはいなかった。
これでも勇者だからな。人類を脅かすモンスターというのであれば、早急に対処しなければならないだろう。
◇
「レイ~」
「どうした? ピルカヤ」
ふわふわと浮かびながら、ピルカヤが声をかけてきた。
火を介した至急の連絡でないのなら、そこまで緊急性が高い話ではなさそうだな。
「この前外出したゴブリンたちなんだけど」
「問題でも起こしたか?」
「ううん。むしろ、まったく問題なさそうだよ。山や森をみんなで散歩してるみたい」
「そうか。それじゃあ、今後は監視もいらないかな」
やっぱり、単に外で気分転換をしたいだけということか。
そうなると、もしかしたら、他のモンスターたちも、そうしたほうが良いのか?
そんな考えを浮かべていると、ピルカヤは思い出したように言葉を続けた。
「あ、そういえば。その中に、この前捕まえた野生のゴブリンもいたね」
「野生のゴブリンも……? 危険じゃないのか?」
「問題ないみたい。大人しく一緒に歩いていたから」
「もしかして、散歩か……?」
あのゴブリンをどうするかと思っていたが、まさかペットとして飼っているのでは……。
だとしたら、やっぱり、うちの子たちって頭が良いんだろうなあ。
「散歩」
「一緒にします?」
散歩という言葉に、フィオナ様が反応したので誘ってみる。
すると、彼女は一度部屋に戻ってから、首輪を見せてきた。
「……つけろと?」
「いえ、むしろ私がつけるべきなのかなあって、思いまして」
「やめてください」
魔王に首輪をして散歩をさせる宰相……。
そんなとんでもない姿を見られたら、どんな噂を立てられるか、わかったもんじゃないぞ。
「リピアネムさんあたりなら、喜んでつけそうだよねぇ」
「これ以上ややこしくなったら困るから、やめて」




