第540話 人工的な神の気まぐれ
「どうだ?」
「いやあ、それが全然」
「やっぱりなあ」
仲間の声に、少々落胆するけれど、同時に仕方ないとも思う。
諦めるか。いや、諦めて良いものか? これこそが、俺たちの性分だ。それを諦めてしまっては、俺たちが俺たちではなくなる。
「いっそ、ばれてもいいから、やっちまうか!」
「いや、早まるな! 死ぬぞ!?」
仲間に止められる。だが、ここで大人しくしていて満足なのか?
そもそも、多少の危険を覚悟で、いつだってやってきたじゃないか。
「止めるな! 俺は、一人でも行くぞ!」
「次は、ただじゃすまないぞ!」
「それでも、俺は、テクニティス様の魔道具にいたずらするんだ!」
宰相様がなんだ! ばれなきゃ問題ないはずだ!
◇
「……」
「すごい綺麗な土下座」
「まだ何もしてないのに、必死すぎる」
うるさい! 決意した直後に現れたんだぞ! 絶対に、俺たちを泳がせていたに決まっているじゃないか!
宣言してから、ものの数秒で偶然を装って出くわすとか、なんなんだよこの魔族!
俺の土下座に、困惑している様子を見ると、まるで無防備に見えるから、たちが悪い。
“なんかよくわからないけど、未遂なら許す。ただ、次やったら岩で潰すから、くれぐれも気を付けてくれ”
「ほんっと、すみませんでした!」
ほら! 完全に、殺す気じゃないか!
こわっ……。駄目だ。俺たちグレムリンの性とか、関係ない。
この宰相様に逆らうことは、あまりにも無謀すぎる。
「良かったな。許してもらえて」
「最後通告だった気もする……」
「やっぱり、テクニティス様たちの仕事は、真面目に手伝おうぜ」
そりゃあ、できなくはないけど。……ないけど!
そんな、魔族助けするだけのグレムリンなんて、アイデンティティが崩壊する!
何かないか……。何か方法は……。
“へえ、グレムリンなんているんだ。ちゃんと大人しくしているし、やっぱり、転生者がしつけてるのかな?”
おい、こっちは考え事をしているんだ。
あまりべたべたと触るんじゃ……。こいつ、隙だらけだな。
惜しいな。こいつがいじりがいのあるアイテムを持っていたら……。
いや、ここでは客に危害を加えるなって言われてたし、客相手のいたずらも駄目だろう。
……なにか、いい案が思い浮かびそうな気がした。
“いたずらしてこないグレムリンって、安心して見てられるね”
“いつも、警戒が必要だったからね……。ほんと、下手な強敵よりも、面倒くさい”
“アイテムの効果が、微妙に変えられるせいで、ギリギリの戦いでは致命的なのよねえ……”
よし、わかった。そういうことか。
◇
“ソウルイーターか! 俺が引き付けるから、頼んだぞ!”
“任せろ!”
「あ~、もう! なんか、攻撃があたんない!!」
ギリギリで、姐さんの攻撃が避けられてるな。
それだけの手練れ……ではないな。あれは、そういう装備だ。
攻撃力が、がくっと下がる代わりに、回避力が上昇する。
だから、そいつは囮になって、他の仲間たちに攻撃させてるってことだろう。
つまりは。
「いたずら、できるってことだな!」
幸いなことに、そいつは姐さんしか見てない。
だったら、いつも通りこっそりと忍び寄って……。
“げっ、グレムリン!?”
馬鹿め! 気付いても、もう遅い!
魔力を注入。効果をちょっと変更。よし、これでどこに出しても恥ずかしくないアイテムになった。
“くそっ! 先に、グレムリンを倒してくれ! ソウルイーターの攻撃は、俺が受ける!”
“わ、わかった!”
よし、逃げよう!
いたずらは成功したんだから、あとは全力で逃げるだけだ。
飛んでくる魔法やら矢を避けて、近づく奴からは全力で離れて、そうこうしているうちに、状況に変化があった。
“やっぱ、やられてる! 敵の攻撃が、感知できない!”
「あ、なんか、攻撃あたりやすいかも~」
ソウルイーターの姐さんは、先ほどまでとは打って変わって、攻撃を命中させている。
今回は、なんかいい感じにいたずらできたな。
たぶん、あの装備は敵の攻撃を感知し、持ち主に知らせ、その後に回避するための力を底上げしていた。
その感知能力が、誤作動するようになったらしい。
よかった~。本当にごくまれに失敗して、むしろ装備の効果を引き上げるときもあるが、今回は平気らしい。
“駄目だ! 逃げるぞ!”
“グレムリン対策までいるのかよ。めんどくせえ……”
悪態をつきながら、侵入者たちは去っていった。
そうそれだ。その表情と言葉こそが、俺たちのやりがいだ。
いやあ、良い仕事したな~。
「あ~あ、逃げられた」
「仕方ないっすよ。姐さん。あいつら、無謀な侵入者ってわけじゃなかったし、いつでも逃げられるようにしていましたから」
そんな熟練の冒険者たちが、俺たちのいたずらで困り果てる。
なんて、素晴らしい瞬間だろう。
これか! これが、俺たちの天職なのか!
◇
一仕事終えて、いつも以上に楽しく帰路につく。
いやあ、ぐーたらして、人類相手に適当に愛想よくするのも、楽で良いけれど、こうでなくっちゃな。
「よう。なんか、機嫌が良いな」
「うすっ、先輩! 実は、俺たちの天職を見つけまして!」
「そうか。お前たちも、侵入者の相手が担当になったんだな」
「そうっす! いやあ、やっぱ俺たちこうでなくっちゃ」
機嫌よく話していると、ゴブリン先輩たちが、ちょっと言いにくそうに口を開いた。
なんだ? もしかして、俺たち新入りが、先輩たちの領分を侵してしまったか?
「大丈夫か? 俺たちと違って、お前たちは死んだら蘇れないだろ?」
「あ~……」
それが本当にすごいよなあ。死んでも宰相様が蘇らせてくれる。
先輩たちは、宰相様を完全に信頼していて、死さえも前提に動いている。
俺たちには真似できない働き方だ。
「まあ、大丈夫っすよ。逃げ足だけは、自信があるんで」
「それに、私がちゃんと守ってあげられるからね!」
「うっす。頼りにしてます。姐さん!」
これは、本当にそう。
姐さん、俺たちへの攻撃を身を挺して守ってくれるもんなあ。
この姐さんも当然蘇生できるので、俺たちなんかのために、命を張ってくれている。
なら、せいぜい足手まといにならないよう、がんばらないとなあ。
「ところで先輩」
「なんだ?」
「そちらの黒いゴブリンさんは、どちら様? 俺たち、見覚えないんですけど」
先輩たちと明らかに違うよなあ。
顔や体格だけじゃなくて、そもそも色がまったく違うし。
「ああ、こいつはうちの新入りだ」
「どうも、ブラックゴブリンです!」
「あ、どうも、グレムリンです」
新入りか。俺たちだけじゃなかったんだな。
初めて見るってことは、もしかしたら、俺たちよりもさらに新入りなのかもしれない。
「こいつ、俺たちと同じくらいの力のはずなのに、一時的に力を倍加できるんだよ。きっと、今後大活躍してくれるはずだ」
「い、いえ。倍加は最大で、厳密には一割から十割増加です。それに、俺はまだまだ経験が足りていませんから! 先輩たちのように、うまく連携や演技できるよう、ご指導お願いします!」
「おう。そのへんは、周りを頼ってくれ」
へえ、倍加かあ。
なんか、そういうアイテムもあったよなあ。
あれは楽しかった。一時的に強化できるはずのアイテムを使ったら、全然無関係なステータスが強化されてたし。
「そういえば、俺たちを実験したやつらも、それに近い力でも持ってたのかな?」
「実験? お前ら、野生のモンスターじゃなかったのか?」
「野生は野生なんですけど、なんか急にエルフが現れたと思ったら、変な力使われて、そこから一気に人類の言葉とか、わかるようになったんですよね」
「そうそう。あと、なんか少し冷静に考えられるようになったといいますか」
「……なんか、俺たちともまともに会話できているもんな。そうか。そのエルフとやらのしわざなのか」
「むしろ助かってますけどね。人類の言葉わかるから、困ってる姿だけでなく、言葉まで理解できて、超お得です」
「そ、そうか。そういうもんか……」
思えば、俺たちだけでなく、他のモンスターも色々と変化させてたっけ。
なんか、やけに力が強くなるやつとか、魔力が高まるやつとか、あとは、同じように冷静に行動できるようになるやつも。
「今後、俺たちみたいなモンスターが、増えていくんすかねえ?」
「そうしたら、ご主人様が、全員うちに勧誘しそうだな」
……ありえるな。宰相様、なんかモンスター好きっぽいし。
はっ! つまり、俺たちがモンスターらしく、かわいく絡んでみれば、テクニティス様へのいたずらも許容される?
「よしっ、宰相様にごますってきます! そして、地底魔界でもいたずらを」
「学習しろよ。ご主人様、割り切り凄いからな」
「賢くなっているはずなのに、学ばねえなあ……」
これは、学んで諦めてはいけないことだと思うんです!
◇
「グレムリンもブラックゴブリンも、みんなと仲良くやれているみたいだな」
「そうですねえ。なんか、賑やかに話していて楽しそうです」
フィオナ様、賑やかなの好きだもんな。
言葉こそわからないものの、彼らが楽しく談笑しているのはわかる。
この雰囲気に、フィオナ様が癒されているのであれば、これからもモンスターを増やしても良さそうだな。




