第539話 きっとポンコツもプラスされる
「フィオナ様も、このゴブリンのことを知らないんですか?」
「う~ん……。こんなに黒いゴブリンは見覚えありませんけど、これもまた個性ですかね?」
「なんか、ブラックゴブリンという種族みたいです」
「別の種族ですか。少なくとも、これまでの魔王軍にはいませんでしたね」
魔王様でさえも知らないとなると、かなりレアなゴブリンなのかもしれないな。
倒したら、レアアイテムをドロップするとか、経験値が多いとか、そういう類のモンスターなのだろうか?
「あと、こいつステータスが少し不思議なんです」
「不思議、ですか」
「ええ。なんか数字の後に、プラスという記号がついているんですよね」
今までのモンスター。いや、侵入者含めても、こんな数値は初めて見る。
「レイは、いつもステータスを数値で見ているんですよね?」
「ええ。記号は初めてです」
「ふむ……。プラス、プラスですか……。少なくとも、何か悪いものではなさそうですよね」
「それはそうですね。マイナスとかなら、ちょっと怪しいところでしたけど」
ブラックゴブリンの様子を見ると、別におかしな様子もない。
先輩であるゴブリンたちのところに行って、なにやら話を聞いているようだ。
「仲良くなれているみたいですね」
「そうですね。仲間外れはかわいそうですし、馴染めているのなら良かったです」
フィオナ様も、風変わりなゴブリンを心配してあげていたようだ。
相変わらず、部下に優しい魔王様だな。
「ちなみに、この子のステータスはどの程度なんですか?」
「そうですねえ。ゴブリンキングよりは低くて、ゴブリンソルジャーよりは高いです」
「であれば、他の子たちと同じように、侵入者の相手をさせてあげたほうが良さそうですね」
「そうですね。当面は、ゴブリンダンジョンで働いてもらいましょうか」
ステータスを見る限りでは、それで十分にやっていけるはずだ。
ステータス以外の能力は、他のゴブリンやディキティスに教えてもらえば、いずれは身につくことだろう。
◇
「さて、さっそく侵入者が来たわけですが」
『なんだ? あの黒いゴブリンは』
「やっぱり、色が違うと目立ちますね」
「そうですね。侵入者たちに一番に狙われそうです」
となると、あの子には、これから強くなってもらわないとな。
狙われやすいということは、一番危険な立ち位置ということになる。
死んでも再生成はするけれど、だからといって、死んでばかりだとかわいそうだからな。
『なにか珍しい素材になるかもしれない! あいつから倒すぞ!』
ああ、やっぱりか。
冒険者たちは、ブラックゴブリンを真っ先に殺そうとしている。
あの冒険者たちのステータスを見るに、ブラックゴブリンでは太刀打ちできないだろうなあ。
『な、なんだ!? こいつ速いぞ!』
『ぎゃっ!』
『な、なんなんだよ! こいつ!』
なんか、だいぶ圧倒しているな。
おかしい……。ステータスにそこまでの違いはないはずだぞ。
現にゴブリンソルジャーたちは、あの冒険者に敗北していたし。
「ほう、やるな。従来のゴブリンたちの……いや、ゴブリンソルジャーたちの倍ほどの強さか」
リピアネムの感心した声に、思わず彼女の顔を見ると、不思議そうにしていた。
「どうした? レイ殿」
「いや、ゴブリンソルジャーの倍? 多少強いくらいのはずなんだけど」
「そうなのか? 私には、少なくともゴブリンソルジャーの倍以上の実力に見えるが」
そうなのか?
リピアネムが言うことだし、そうなのかもしれない。
現に、あの冒険者たちがなすすべなく、終始優位に立ち回って、全滅させてしまったからな。
……でも、さすがに疲れているっぽい。
一人でパーティ全員の相手をしたのだから、当然か。
「あ、また新しい侵入者が」
肩で息をしているようなブラックゴブリンの前に、今度は別のパーティが現れる。
先のパーティと同じく、彼女らが狙うのは、やはり一番目立つブラックゴブリンだった。
『なんか、珍しい! 倒すわよ!』
だが、彼女たちのステータスは、先ほどの冒険者たちと変わらない。
このままでは、先ほどの焼き直しになるだろうな。
『ん? 強さはふつうのゴブリンくらい? ま、いいや。なにかいい素材は……。う~ん。いまいちね』
「倒されちゃいましたね」
「ええ。なんででしょう?」
相性の問題? いや、種族も攻撃手段も、別に大きく違ってはいない。
だというのに、なぜか二つ目のパーティには、あっさりと敗北してしまった。
「うん? 今度は、ゴブリンたちと同じ程度の力だったな。もしかして、全力を出せる時間が短いのか?」
同じくブラックゴブリンの様子を見ていたリピアネムが、ふとそんなことを呟いた。
……そういうことか? もしかして、ステータスの後ろのプラスって、一時的に能力をブーストできるという証なのか?
だから、リピアネムの見たてでは、ゴブリンたちの倍の実力であり、実際に、一度目の侵入者がなすすべなく敗北した。
だが、その能力上昇も永続的なものではなく、あくまでも一時的なパワーアップなのだろう。
それも、おそらくは長時間使えないし、疲労も溜まりやすい。
その結果が、二度目のパーティとの戦闘の結果だと考えれば、辻褄は合いそうだ。
「とりあえず、再生成するか」
ブラックゴブリンを改めて生成すると、他のモンスターと同じく、やはり同じ個体が優先して生成されたようだ。
俺のほうを見ると、深々と頭を下げているのは、先ほどの敗北の謝罪だろう。
「謝る必要はないよ。敵が多すぎた。それに、本当なら最初のパーティですら、厳しい相手のはずなんだから」
それでも納得はしていないのか、彼はすぐに持ち場へと戻ろうとする。
ただ、今は待ってほしいかな。
「ちょっと待ってくれ。侵入者の相手よりも、試してもらいたいことがある」
俺の言葉は、素直に聞いてくれる。
このあたりも、他のモンスターと同じだ。
違うのは、やはりあのステータスの記号くらいのものか。
「リピアネム。今のゴブリンの強さはどうだ?」
「そうだな。今は、他のゴブリンたちに近い」
ということは、最初の戦いで力を使い果たしたか。
まあ、それならそれで、他のゴブリンたちと同様に、集団で連携すればいいだけだ。
「む? やはり、かなり強くなっているな。おおよそ、倍程度の強さだ」
しかし、俺が今後の運用方法を考えていると、ブラックゴブリンに、変化があったらしい。
なんというか、戦っていたときのように、やる気満々という様子だ。
「戦うときだけ、強くなるとか?」
「というよりは、一時的に自身の力を飛躍的に上げられるのだろう」
なんか、魔力も上がっているっぽいしな。
そんなゴブリンだったが、しばらくすると疲れたように肩を落とした。
ああ、これもさっき見た光景だ。
「リピアネム」
「また、元の強さに戻っている。やはり、長時間は強化できないのだろう」
みたいだな。じゃあ、連戦には向かないか。
だけど面白い。ステータスが全てではないことは、重々承知だったが、ここまではっきりとステータス以上の強さになるとは。
これ、国松あたりなら、騙し討ちで倒せるんじゃないか?
それとも、俺の見るステータスと違い、あいつなら、強化後のステータスもリアルタイムで反映されるのだろうか?
「面白いな。ブラックゴブリン」
プラスという謎のステータス記号。
それは、どうやらこちらにとって、いい結果をもたらしてくれるらしい。
もしものときの、奥の手として、今後は使ってもらうのも良いだろう。
「レイ。レイ」
「なんですか?」
「この子のステータスに付与されているプラスとやらのおかげで、この子は一時的に倍の強さになるんですよね?」
「リピアネムの見たてではそうですね」
「魔力も倍になるんですよね?」
「そうですね。そのあたりは、なんとなく俺も感じ取れましたし」
「……私にも、プラスのステータスを付与できませんか?」
……なるほど。つながった。
「やり方がわからないので、無理です」
「倍になったら、一万ガシャも回せるんですよ!?」
「そう言われましても、無理なものは無理です」
そりゃあ、俺だってこれが自由に付与できるのなら、魔王軍全員に付与しますよ。
そうしたら、勇者との戦闘で倍の強さになるかもしれないので。
ただでさえカンストしている魔王様が、倍の強さになるとか悪夢だな……。
だというのに、本人は、そういう方面でねだるのでなく、ガシャのためにねだってくるとは。
ほんと、ポンコツな魔王様だな……。




