第538話 生えてきたやり込み要素
「さて、テンユウたちも無事に帰ってくれたし。特に問題は、なさそうだ」
なんか、変な置き土産されたけど、それも害がないのであれば、気に留める必要もないだろう。
ということで、気兼ねなくダンジョンを拡張できるし、モンスターだって生成できる。
食事休憩を終えたら、ちょっと本格的にやってみたいことがある。
「おや? 今日は、気合が入っていますね」
「ええ。ちょっと、気合を入れてガシャを引こうと思いまして」
ガタッと、音が立ったかと思えば、フィオナ様が立ち上がったときに、椅子を倒したらしい。
何事か? と、食堂の利用者が目を向けるも、俺たちだとわかるやいなや、すぐに目線をもとに戻す。
気を遣われたか? フィオナ様と俺という、魔王軍の上のほうの者たちだったため、おいそれと何か指摘することもできなかったのだろう。
迷惑をかけてしまったな。ちょっと静かにしよう。というか、静かにしてください。
「まさか、早くもレイが本気で、ガシャを引くことになるとは!」
「声が大きいです。静かにしてください」
「ついに、レイも宝箱ガシャにはまったのですね!」
「はまってません。落ち着いてください」
なんで、興奮しながら顔を寄せてくるんですか。
顔が良いくせに、まったくドキドキしません。
プネヴマもそうだけど、美女や美少女の残念な姿って、なんかより一層残念さを引き立てるよな。
「え~……? でも、私のために本気で蘇生薬を狙うって、言っていたじゃないですか」
「言っていません。数秒前の記憶を捏造しないでください」
「くっ……。手ごわい!」
むしろ、俺ってそんなにちょろいと思われていたんですか?
勢いでごまかすのは、無理と判断したのか、フィオナ様は、またほんわかした状態に戻っていった。
気合を入れるのは、ガシャのときくらいというのが、実に残念でフィオナ様だ。
「では、何を狙うんですか? 欲しいアイテムがあるのなら、魔王ボックスから持っていっていいですけど」
「ありがとうございます。でも、アイテムじゃなくて、モンスターガシャのほうなんですよね」
「ああ、そういうことでしたか。ついに、超位モンスターの上を目指すのですね」
「え、超位の上ってあるんですか?」
「ありませんけど、レイなら、なんかふとした拍子にできるかなあ、なんて」
それは、俺ではなくてダンジョンマスターさん次第だけど、さすがにこの世界の理を超えるのは無茶ぶりもいいところだ。
なので、超位モンスターが上限と考えて良いと思います。
「今回は、超位とかそういうのよりも、グレムリンを狙ってみようかなって」
「おや? 今のグレムリンでは足りませんでしたか? それとも、やはり再生成できるほうがいいですか?」
「まあ、再生成できるほうが、便利ではありますけど」
「あるいは、今のグレムリンが、手に負えないとか……? だとしたら、倒します?」
否定しようとした瞬間、遠くで食事をしていたグレムリンたちが、土下座してきた。
違うから。そんなこと考えてないから、怯えないでくれ。
「いえ。わりとうまくやっていますよ? あいつら」
その言葉を聞いて、グレムリンたちは、腕で額の汗をぬぐっていた。
なんか、ほんとにごめんな。
「ただ、あいつらって賢いじゃないですか」
「そうですねえ。レイが生成したモンスターと、あまり変わりないようですし」
「ということは、俺がグレムリンを生成すれば、ものすごく賢い個体が生まれるかなと思いまして」
「なるほど。賢いの二乗ですね」
うまくいけば、テクニティスやカールを凌駕する、アイテム作りのプロが生まれるかもしれない。
さらに、俺たちの言葉すら学習するかもしれない。
そうなれば、他のモンスターの通訳もできる、最高のエンジニアの誕生だ。
◇
「というわけで、モンスターを生成しようと思うんだけど」
“俺たち、クビじゃないんだよな?”
“最悪クビでもいいけれど、物理的に首を取られるのは、勘弁してくれ……”
“あの、うさぎの兄さん。俺たちのこと見てない? 首狩られる?”
グレムリンたちが、ついてきた。
それを見て、他のモンスターたちも、何事かとついてくる。
その結果。最終的には、モンスターだけでなく、手が空いていて興味がある者たちが、またも俺のやることを眺めている。
そんな、みんなで見るようなことじゃないんだけどなあ。
「まあ、人がいるならちょうど良い。ダスカロスかディキティス」
「なんだ?」
この二人なら、色々と知っていそうだし、俺が回すべきガシャのことを聞いておこう。
「グレムリンって、上位? 中位?」
超位。ということは、ないだろう。
戦う力が全てではないが、さすがにステータスが低すぎるし。
「低位だ」
「なるほど……」
薄々そうじゃないかとは思っていたが、低位モンスターかあ……。
別に、低位モンスターが嫌なわけじゃない。トキシックスライムやゴブリンやコボルトやダンジョンクロウラー。
初期から、うちを支えてくれていたモンスターたちは、今でも頼りになるかわいいモンスターたちだ。
だが、低位モンスターということは、ただのモンスター生成だよな?
あれって、もうずいぶん回し続けていたから、これ以上の新規入手はないと思っていた。
俺の運が悪かったのか。あるいは、グレムリンはガシャに入っていないのか……。
「まあ、回転数が全てだな」
祈りとか、そういうものは信じていない。
なんせ、初めて会った神があれだ。俺は、絶賛無神論者として、ガシャに挑ませてもらおうと思う。
モンスター作成:消費魔力 5
いっそ、懐かしくなるメニューだ。
昔は、たったの5であっても、何度か回したら資金が尽きていたからな。
今では、俺自身のレベルアップによる魔力上昇と、プリミラが量産してくれた魔力回復薬のおかげで、わりと天井を叩くまで回せそうだ。
……まあ、天井なんて優しいものはないけれど。
アップデートしてくれ。なんとか、時代の流れについていってくれ。ダンジョンマスターさん。
「ゴブリン。コボルト。スライム。犬。虫」
種類は、やっぱりこのあたりが多いな。
回す。生まれる。回す。生まれる。それを繰り返し続けると、一部の者たちから、ドン引きされている視線を送られていた。
そうか。あのあたりは、まだ魔王軍に入って日が浅いか、復活して日が浅い者たちだな。
慣れてくれ。時任なんて、片っ端からモンスターに勝手に名前をつけているぞ。
「あんた。今付けた名前覚えきれるの?」
「わかんない!」
じゃあ、何してたんだあいつ。
新しく生まれたモンスターたちは、時任を残念そうな目で見ながら、先輩たちのもとへと集まっていった。
ゴブリンもコボルトも、それだけでなく全てのモンスターたちが、ちゃんと同種族を指導してあげるようだな。
これなら、いずれは先達のように、立派な多芸なモンスターになることだろう。
「なぁ……。増やしすぎても仕事がないぞ」
「そうなんだけど。次は引ける気がするんだ」
「わかりますよ。その気持ち」
回す。見知った顔が出る。まだ駄目か。
「なあ……。モンスターたちの維持費だって、ただじゃないだろぉ?」
「いや、モンスターたちは、最悪何も食べなくても活動できるから平気」
「ちなみに食料なら、私がさっき大量に仕入れたばかりですけどねえ!」
それにしても、やはり新顔は出てこないか。
そうだよな。もうずいぶんと回してきたし。なんなら、5以上の魔力を注いだりも試したけれど、結果は変わらなかったし。
「くそぉっ! 何言っても止まらない!」
「諦めろアナンタ。……いや、諦めないでくれ。君が、最後の希望だ」
「それ、全部俺に押しつけてるって自覚しての発言だろうなぁ!」
「すみません。私たちよりも、適役なので」
「理解できてしまう、自分も憎い!」
なんか、アナンタが盛り上がっている。
これは、そろそろ結果を出さないと、本気で止められるパターンだな。
仕方ない。あと少しだけ、回して終わりにするか。
「なんか出ろ」
そう言いながら生成すると。出てきたのは、やはりゴブリン。
……あれ? 暗い場所だからか? 色が少し違うように見える。
「なんか、黒いゴブリンですねえ」
しかし、フィオナ様もそう言っているので、光源とかのせいではなく、実際に黒いのだと確信した。
色違いか。……まさか、この期に及んで、そんなコレクション要素が!?
ブラックゴブリン 魔力:12+ 筋力:27+ 技術:18+ 頑強:27+ 敏捷:18+
……いや、新しいモンスターだな。
しかも、ステータスが、なにかおかしい。バグったか?




