第537話 転がり込んだ居候
……見られてる? いえ、わからないわね。
やるじゃないの、ピルカヤ。やっぱ、あんたが本気出すとかなり厄介ね。
まあ、いいわ。こっちも敵意はないって証明するために、あえて何の防御もしていないんだから。
……だから、急に襲ったりしないでよ? ほんと、頼むからね!
「ゆ、勇者様!!」
「はあい。テンユウよ~……」
モンスター園とやらの職員は、この子たちみたいね。
ハーフリング。しかも、見た目だけでなく、本当に若い子たちねえ。
ということは、この子たちとは別に責任者が、いるはず……。
「カ、カーマルさん! 勇者様がやってきました!」
「落ち着きなよ。勇者様だろうが、王様だろうが、等しくお客様なんだから。落ち着いて接客するだけだよ」
この子ね。
慌てている女の子たちと違って、やけに冷静に対応してくれている。
ただし、見た目はやっぱり子供ね。この子もハーフリングってことかしら?
「うちの従業員たちが、悪かったね」
「別に気にしてないわ。勇者ですもの。サインでもあげよっか?」
「うち、そういうの飾るお店じゃないから」
「そうよね~。まあ、アタシもサインなんてないんだけど」
たしか、欲望のダンジョンのカジノも、ハーフリングが経営しているって話だったわね。
さしずめ、トルベリオの転生者たちが、協力してここで商売を始めたといったところかしら。
「じゃあ、ごゆっくり」
「ああ、ちょっと待って」
立ち去ろうとする男の子を、ミスティが呼び止める。
露骨に面倒くさそうな顔するわね。接客があまり好きじゃないのかしら。
そういうところも、なんだかハーフリングらしくないハーフリングね。
「ここのモンスターたち、危険じゃないの? さすがに、あんな柵だけだと、簡単に乗り越えて襲ってきそうなんだけど」
「ああ、そのこと。それなら、大丈夫。誰も襲わないように、しっかりと飼育したから」
「飼育ですか……。モンスターって、そんな簡単に言うことを聞くのでしょうか?」
「簡単ではないよ。でも、できるからやっただけ」
「それは、あなたにしかできないってこと?」
「まあ、誰にでもできることじゃないね。一応言っておくけど、真似しようなんて思わないほうがいいよ。それで怪我されても、僕は責任なんてとらないから」
ちゃっかりと、自分の商売に競合が介入できないとアピールされた。
やるわね。ちゃんと商売人じゃないの。
それにしても、一部しかできない、ねえ……。
やっぱり、この子が特別な力を持っているってことになりそうね。あるいは、この子の仲間かしら?
自分が飼育しているとは、一言も言ってなかったし。
ということは、まだあの宰相のしわざという可能性は、残されていそうねえ。
「アタシも一つ聞きたいんだけど、ここのモンスターが、誰かを襲ったり、勝手に外に出て暴れたことはないのかしら?」
「ああ、そういうこと? 平気だよ。ちゃんとみんなで管理している。数が減ったらわかるし、それはあり得ない」
え~と、たぶん嘘は言っていないわね。
ということは、このモンスター園と、世間を騒がせているモンスター被害は、別物なのかしら?
なら、こっちもとっても助かるんだけどねえ。
この場所が、転生者のしわざ、あるいは、あの宰相のしわざだったとして、それらが人類を水面下で襲撃していたらぞっとするわ。
特にあいつの場合は、ほんと嫌になるからね!
「飼育できるってことは、ここのモンスターたちって、頭が良いんですよね?」
「というよりは、他よりも凶暴じゃないんだよ。本能のままに動くモンスターとは、ちょっと違うね」
「う~ん……。そういうモンスターなら、村を襲って、冒険者から逃げたり身を隠すのもできそうよね」
「何の話? さっきも言ったけど、うちのモンスターたちは、ここから出たこともないんだけど?」
「ああ、ごめん。あなたのところのモンスターというか、このモンスターを発見した場所に、同じようなモンスターがいたら、それが今も野放しになっているってことでしょ? 厄介だなあ。って思って」
たしかにねえ。この子がどこでモンスターを捕獲したのか、そこも問題ね。
その場所のモンスター全てが凶暴でないとしたら、この子が捕まえたモンスター以外は、まだ野良のモンスターということになるわね。
「それはそうだろうね。でも、大丈夫じゃないかな? だって、最初は普通のモンスターだったから」
「ということは、途中で凶暴じゃなくなったってこと?」
「言ったでしょ? しっかり、飼育したって」
「なるほど……。じゃあ、外には同じようなモンスターがいないってことね」
「そんなことはわからないよ。僕だって、世界中のモンスターを見回ったわけじゃないんだから。ただ、僕が見た限りでは、そんなモンスターどこにもいなかったね」
あくまでも自分が捕まえたモンスターは、元は凶暴だった。飼育することで大人しくなったということね。
……やっぱ、あの宰相関係してない? あのソウルイーターとか、すごく大人しくしてたじゃない。
それと同じというか。あのソウルイーターをしつけたのが、この子だったりしないかしら?
だとしたら、アタシは、この子にこれ以上深入りしたくないわねえ。
ただ、忠告の一つくらいは、しても問題ないか。
「一つだけ忠告するわね。今、各地で特殊なモンスターの被害が急増している。ここは、その事件と無関係だったみたいだけど、お客さんが全員そう考えるわけじゃないわ」
「……つまり、そのモンスターたちの被害のせいで、うちの営業も難しくなるってこと?」
「かもしれないわね。まあ、アタシたちだって、なんとかして事件を解決するつもりだから、それまで客足が途絶えたとしても、腐らず頑張ってちょうだい」
「わかったよ。忠告はありがたく聞いておく」
◇
「結局、関係なかったわね」
「でも、ああやってモンスターを大人しくしてくれるなら、とても頼れる場所ですね」
なるほど。そういう考えもありね。
あそこにいるモンスターは、少なくとも人を襲わない。
世界中のモンスターが、あそこに収容されたら、世界からモンスター被害がなくなるもんね。
まあ、さすがにそれは無理でしょうけど。
「でも、あの子が本当のことを言っていたかは、わからないし、一応警戒はしておいたほうがいいわね」
「それでは、誰かあそこを見張りますか?」
「ううん。大丈夫。精霊に見てもらっているから」
……平気かしら? ピルカヤが見つけたら、精霊焼いたりしない?
いえ、あの宰相なら、そこまで軽率に動くことは……。動くかも? え、どっち?
あいつ、慎重なようでもあり、考えなしに動くようでもあり、そういう得体のしれないところが怖いのよ!
「ねえ、ミスティ?」
「どうしたの? テンユウさん」
「その精霊。どんな子かしら? ほら、あまりそちらに力を割きすぎると、あなた自身が大変じゃない」
「それなら大丈夫。監視と報告だけに特化しているから、自分の意思もないような、小さな精霊よ」
「そう。それなら、あなたの負担にならないわね」
ごめん。やめて。優しいとか言わないで。
あなたの負担ではなく、下手に魔王軍を刺激しないか、それを心配していたなんて、言えない!
◇
『レイ~』
「どうした? ピルカヤ」
連絡があったということは、問題発生か?
テンユウたちは、モンスター園でカーマルと話したら、そのまま去っていったし……。
まさか、すでにテンユウが何か仕掛けた? だったら、すぐに。
『モンスター園に、監視用の精霊を置いていかれたんだけど、燃やしていい?』
「監視用……。テンユウのしわざか?」
「ミスティでしょうね。リックのパーティメンバーで精霊使いなので、念のためにモンスター園を監視させているのでしょう」
精霊使いか……。
ということは、モンスター園にピルカヤ以外の精霊がいるわけだ。
縄張り争い的な意味で、嫌がっているのかもしれないな。
「消したほうがいいですか? 消すと術者にばれたりは」
「異変は気付かれるでしょうね。幸いなことに、ただ見ているだけで、怪しい反応があれば信号を送るだけの存在です。複雑なことはできないでしょう」
「昆虫兵みたいなものですか」
「それよりも、さらに簡略化されていますね。まだ、意識もなさそうですから」
なるほど。それなら、放っておいたほうが良いかもしれないな。
どうせ、あの場所は一般開放している施設であり、怪しい動きなんてむしろごめんだ。
ならば、精霊が何かを知らせることはなく、排除してミスティが再び調査にくるほうが面倒だろう。
「ピルカヤ。放置しておいてくれ」
『は~い』
あまり気に留めていないのか、ピルカヤはあっさりと指示に従ってくれた。
まあ、意識がない存在というのなら、それにわざわざ目くじら立てることもないか。
……いや、たまに俺が作った炎や氷の罠にライバル心燃やすこともあるし、一概には違うとも言い切れないけれど。
◇
「……」
「ピルカヤ様。手出しはしてはいけないと、レイ様に言われていたはずでは?」
「わかってるよ。だから、我慢してるじゃない」
「駄目っすよルトラ。ピルカヤ様、自分の居場所に、見ず知らずの精霊が入り込んで、ピリピリしてるっすから」
「……僕たちの味方になるように、上下関係をはっきりさせるっていうのは?」
「その前に、術者に連絡されると思うっす」




