第536話 嫌いじゃないけど、会いたくはない!
「すみません。そのお話、詳しくお聞かせいただけますか?」
「え? あ、エーニルキアの聖女様! それに、精霊使い様! ……ええ!? テイランの勇者様まで!」
あ、ごめんなさいね~。
いつもなら、見た目変えてるけど、今日はスティアとミスティと一緒だから、そのままだったわ。
アタシのことは気にしないで、おしゃべりしていてほしいんだけど……。
スティアが、なんか聞こうとしてるわね。やめましょうよ。絶対あいつのしわざだもの。
そのモンスター園。絶対無関係に、頭おかしいだけよ。
「そのモンスター園とやら、お話聞かせていただいても、よろしいでしょうか」
断れ! がんばれ、アルマセグシア女子! 断るのよ!!
「は、はい。もちろん」
あ~……。駄目ね。
アタシ、まだあいつに会いたくないんだけど……。
絶対に、あいつの変な行動を指摘したくなっちゃうじゃない。
「そもそも、モンスター園とは、どういうものなのでしょうか?」
「えっと……。柵の中にモンスターが入っていて、それを見たり触れ合ったりして楽しむ場所です」
もうおかしいわよね! なんで、柵の中に大人しく入れられているのよ! 抜け出せるでしょ。大概のモンスター!
百歩譲って見るのは良いけれど、触れ合うって何!?
「モンスターを? え……危なくなりませんか?」
「大丈夫です! だって、柵の中で大人しくしていますから」
「外に出てこないの?」
「ええ。なんだか、柵からは決して出ませんし、そもそも攻撃的じゃなくなっているんですよね」
「触れ合うっていうのは……?」
「行動パターンは完全に普通のモンスターですけど、大人しいので、触っても大丈夫なんです。こっちを襲わないとなると、けっこうかわいいですよ?」
「そ、そうなんですか……」
絶対、あいつの使役しているモンスターに、命令しているでしょ!
だったら、そんな野生のモンスターのふりみたいなことさせるんじゃないわよ! かわいそうじゃない!
「おすすめですよ。欲望のダンジョンなので、モンスター園以外にも、カジノや海や温泉宿もありますし」
「そ、そうですか。ありがとうございます」
その勢いに圧されたのか、スティアは少し引いたような表情でお礼を言っていた。
ま、あの感じ、ちょっと怖いわよねえ。うちのレンシャとスイリョウとレイライも……。
全部、あの宰相のせいじゃない!? い、いえ。単に商売してるだけ……。本当に?
でも、何か魔族に仕込まれている様子は……。あ! もしかして、あれだけ熱中して堕落してるのが、魔王軍の策略!?
……いえ、落ち着きなさい。アタシ。一通り調べたけど、おかしな仕掛けも魔力もなかったじゃない。
「テンユウさん?」
「あ、あら。何かしら?」
っと、いけないいけない。
お店を出て歩いていたというのに、考えこんじゃったわ。
心配そうに、スティアに話しかけられていたけれど、無視してしまったみたい。
「大丈夫? なんだか、疲れた顔してるけど」
「ちょっと、悩みが多くてねえ。ほら、アタシ乙女だし」
「ひ、否定しづらい……。私より家事とか料理とか得意だし……」
「いつでも教えてあげるわよ?」
ミスティが、わりと本気で悩んじゃったみたいね。
さて、何の話だったかしら。あの宰相のせいで、全然聞いていなかったわ。
やるじゃないの。魔王軍宰相。勇者を遠隔から苦しめるなんて。
「モンスター園についてです。安全なモンスターということは、人に危害を加えないよう、調教されているのかもしれません」
「ああ。その可能性高そうねえ」
調教というか、あいつが使役しているからでしょうけど。
「柵の中では大人しいということは、スティアみたいな結界でも使えるのかしら?」
「ああ、それで柵を設けてるってこと? う~ん……。あり得るわねえ」
たぶん見かけだけの柵で、あの宰相の言うことを聞いてるだけでしょうけど。
「欲望のダンジョンというと、先ほどの方たちも言っていましたが、次々と商売を始める方が増えている場所ですよね?」
「たしか、ハーフリングの転生者が、同じく転生者を集めて活動しているのよね。ということは、そのモンスター園も転生者の力かも」
魔族よ。絶対あの魔族の力よ。
「スティアみたいな結界を使える転生者なら、仲間になってほしいわね」
「そうですね。そうでなくとも、モンスターを大人しくできるのなら、頼りになりますし」
魔族だから無理よ。モンスターよりやばいもの。あいつ。
「じゃあ、行ってみようよ。もしかしたら、調査中のモンスターと関係しているかもしれないし」
「そうですね。案外、そこから逃げたモンスターが、今回の騒動の原因かもしれません」
だとしたら、宰相のせいってことね。
ただ、逃げるかしら? あの様子だと、随分懐かれているし。
逃げたんじゃないとしたら、命令されて人類を侵略している?
……ぞっとしたわ。あいつ、やりかねない!
淡々とモンスターに命令している姿が、あまりにも簡単に想像できたもの!
それも、ちょっと試しに程度の好奇心でやりそうだから怖いのよ!
うわあ……。調べないと。これ、この子たちだけで行かせたら駄目ね。
……よし! 行くか! また、あの野郎に会いに!
◇
「案外、成功しているんじゃないか?」
「そうですねえ。モンスターのかわいさを理解できるとは、人類も少しはやるじゃないですか」
インディーズ時代から応援していたファンみたいなポジションですか?
フィオナ様のドヤ顔は、今日も絶好調だった。
だけど、その発言にうなずける部分があるのも事実だ。
てっきり、モンスターなんて、と相手にされないかと思っていたけれど、意外とどうして、一定以上の人気を博している。
「駄目だったら、身内用にしようと思ったんですけどね。従業員の中には、家族をこっちに引っ越させた人も多いし」
まあ、そのまま触れ合うことも全然できるけれど、子供とかはこういう場所を作ってやったほうが、接しやすいだろう。
……こうして、モンスターが受け入れられたということは、ソウルイーターとかもいけるんじゃないか?
「できるか?」
“わたし、かしこいから。できるよ!”
「できるって言ってそうだな」
「できるとしても、その子は身内以外に見せないほうが、良いみたいですけどねえ」
「そうでした。……となると、身内には上位とか超位モンスターを、解禁してしまえば良さそうですね」
「なるほど。ケルベロスとか、案外子供に人気ありそうですからね」
子供というのは大したもので、最初はケルベロスを見て泣いていたはずなのに、慣れてきたら遠慮なく抱きついている。
そんな子供たちをはらはらしながら見ている両親は、もはや地底魔界内では見慣れた光景だ。
「それなら、さっそく……おっと、新しい客……。テンユウ?」
「そうですね。相変わらず顔は隠していますが、見た目も魔力の反応も、テンユウです」
「欲望のダンジョンは、以前踏破したはずですし、いまさら再挑戦ってことでもないですよね」
「ですねえ。となると、カジノにいる従者を連れ戻しにきたとか?」
あり得そう。たしかレンシャとか言ったか。
あの従者、いまだにカジノに定期的に通っては、ロペスに募金してくれるもんなあ。
最近では、通常の何倍もする値段のマギレマさんのお弁当を、リズワンと一緒に食べている。
ほうっておいたら、そのうち二人で一つのお弁当を食べそうだ。
「あれ、カジノじゃないですね」
「ええ、通り過ぎていきました。あっちは……モンスター園?」
フィオナ様の言うとおり、あっちのほうはモンスター園しかない。
テンユウは、二人の従者と……。あれ? なんか、テイランの人っぽくないな。
「フィオナ様。テンユウと一緒にいるのって、テンユウのパーティメンバーですか?」
「いえ、あれは……。エーニルキアの勇者、リックのパーティメンバーです」
なんでまた、そんな連中と?
……テイランの勇者と、エーニルキアの勇者のパーティメンバーが、揃ってうちに来るって、なんか嫌な予感しかしない。
「潰します? テンユウなら、死んでも納得するはずですし」
だって、次会うときはちゃんと殺すって言ったから。
向こうもそれを聞いて納得していたし、文句は言われないだろう。
「う~ん。ダンジョンのほうに入って、人目がつかないようならで、良いんじゃないですか?」
それもそうか。
チャンスなので、思わず気が逸ってしまった。
さすがはフィオナ様。やるときはちゃんとやる魔族なので、こういうときの判断はとても頼りになる。
「フィオナ様って、頼れますね」
「そうでしょう! ふふん、どうです? もっと、たよって良いんですよ」
「今、頼れなくなりました」
「どうして!」
どうしてでしょうねえ……。そんなもの、俺が聞きたいくらいです。




