第535話 心当たりしかない噂の出どころ
「冒険者の方に依頼したんだけど、どうも連中、それがわかっているみたいなんだよ」
「連中ということは、やはり複数で?」
「ああ。うちの場合、集団で狼型のモンスターに襲われた。おかげで、家畜たちが少なからず被害にあってね」
「おかしいわね。よほど腕のたつ冒険者でもいたのかしら?」
テンユウさんの言うとおり、その冒険者があまりにも強いのであれば、モンスターといえど逃げるはずです。
しかし、それほどの実力者となると、モンスターに気取られないことも気をつけるはず……。
やはり、私たちが知るモンスターであれば、逃げること自体が不思議ですね。
「獣人だったとか? あいつらなら、モンスター相手に、気配を消すなんてことは、しないだろうし」
「その場合、そもそもエーニルキアの村を守るような依頼、受けますかね?」
「そうねえ。獣人だろうと竜人だろうと、この手の依頼は受けないでしょうね」
「ええ、おっしゃりとおり、その冒険者の方たちは、人間でした。あと、こう言っちゃ悪いですけど、そこまで強い方たちには、見えませんでしたね……」
なら、ますますモンスターたちのほうが、おかしいですね。
知能が高く、実力差を感じ取って、未然に敵から逃げるようなモンスター。
そんなものが人間たちを襲うのであれば、今後の被害は計り知れないかもしれません……。
◇
“宰相様! 人間たちに、いたずらしていいですか!”
“お前ら、止められてるだろ。ご主人様、変なことしたら容赦なく切り捨てるからな?”
“くぅっ……。恐ろしい魔族についちまったもんだぜ!”
“人類に勝手にちょっかいかけると、この子に食べられちゃうよ?”
“ちゃんと食べるよ! 私、かしこいから!”
“すみませんって! 仲間じゃないですかあっ!”
「グレムリンたち、馴染んでいるなあ」
うちのモンスターたちとも、仲良くやっているらしい。
まあ、うちの子たちは、良い子だからな。
いじめなんて、最初から心配していない。
「こいつら、気を抜いていたら、自分たちの成果にいたずらしそうなんすよねえ。油断ならねえっす」
「え、邪魔になってるか? だったら」
“やってないです! 精霊の兄貴、迂闊なこと言わないでください!”
「なんか、すごい抗議されてるぞ。テクニティス」
「まあ、被害はないんで、そのことを言ってるのかもしれないっすけど……。他のグレムリンに、やられたことあるせいで、しばらくは疑っちまうんっすよねえ」
“くそっ! 他のグレムリンめ! グレムリンのとんだ面汚しだ!”
“君らも、さっきいたずらしたがってたじゃない”
“それはそれですよ!”
「こいつらがきてから、モンスターたちもにぎやかになってるし、案外悪いことではないかもな」
「そうですね。なんといいますか、活気があっていいじゃないですか」
フィオナ様。にぎやかなのが好きだからな。
かつて自分以外全滅していた反動か、地底魔界に人が多いことを喜んでいる節がある。
そのくせ、本人は一人でいることが好きという、ちょっと複雑な方なのだ。
一人でいることを好むけれど、周囲に人がいてほしいのか。わがままだな。
「フィオナ様って、ぼっちでいることが好きですよね」
「言い方! なんですか、急に! 流れるように魔王を侮辱。まったく、恐ろしい宰相ですよ。本当に」
「いえ、一人が好きなのに、にぎやかな方が好みみたいなので、変わってるなあと」
「別に一人が好きというわけではありませんよ? ということで、今日もあなたにべったりくっつきます」
「邪魔はしないですし、まあいいですけど……」
そういえば、一人が好きなくせに、よく俺に絡んでくるな。
なんとも、気まぐれな方だ。
「ところで、今日はどんなお仕事をするんですか?」
「モンスター園ですね。せっかくですから、グレムリンを入れてみようと」
「なるほど、そういえば、レイが生成するモンスターにはいませんし、ちょうどいいですね」
「ええ。ということだ。ついてこい。グレムリンたち」
俺が話しかけると、向こうは当然のようにこちらの言葉を理解していた。
ただ、なんか渋っている気がするな。
“な、なにされるんですか?”
“先輩方、モンスター園ってなんなんですか!?”
“柵の中から人類を観察する仕事だ。基本的にはだらだらしていれば、それでいい”
“そ、そんな仕事が!?”
他のモンスターたちが、なにやら声をかけると、グレムリンたちは、大人しくなった。
先輩として、色々と教えてあげているんだろうか?
この子たちも、立派になったなあ。
◇
「ということで、グレムリンを追加したのでよろしく」
「はい! もう、なんでもこいです!」
ハーフリングの少女たちは、頼もしい返事をしてくれた。
すでに地底魔界にも馴染み、俺やフィオナ様も顔を合わせているため、気兼ねなく話すこともできる。
「そうか。それなら、次はケルベロスを……」
「なんでもは嘘です! 限度というものがあります!」
なんでだよ。かわいいじゃないか。ケルベロス。
「レイ。さすがに、超位モンスターをモンスター園に入れるのは、ダスカロスが却下すると思います」
それもそうか。惜しいな。かわいいのに……。
やはり、身内だけのモンスター園でも作るか。
……いや、その場合、そもそも普通に触れ合えばいいだけだった。
「フィオナ様。この後モンスターたちと触れ合います?」
「レイは、モンスター好きですからねえ。良いでしょう。こちらも魔王ですし、そろそろモンスターを使役できるほどの力を見せてやりますとも」
そういえば、フィオナ様はモンスターを使役してないんだっけ?
ダンジョンを作っていたときに、モンスターを配置していたとは聞いたが、適当に捕まえたモンスターをそこに置いていただけなのかもしれない。
「まずは、ソウルイーターがおすすめです」
「普通なら、かなり上級なおすすめですが、あの子賢くて人懐っこいですからねえ」
俺たちに名前を呼ばれたからか、ソウルイーターがこっそり影から見ている。
そうだな。さすがに、モンスター園に出たら騒ぎになるみたいだし、隠れていられるのは賢いぞ。
「待ってますし。行きますか」
「ええ。ほ~ら、宝箱ですよ~」
「それで喜ぶの、フィオナ様くらいです」
◇
「駄目ねえ。痕跡はあるけれど、たどり着けない」
スティアとミスティは、アタシの言葉に疲れたように頷いた。
ま、調査結果が芳しくないもんねえ。
そういうときって、疲れもより感じちゃうのよね。
「休憩しましょ。国境に来たおかげで、アルマセグシアも近いし」
「あ、ほんとだ……。いつのまにかこんなところに」
「それなのに、何もわからないとなると、想像以上に難しい問題なのかもしれませんね」
まあ、そこは否定しないわ。
わかったことは、自分たちにたどり着くような証拠は残していないということ。
それすなわち、それだけの知能があるということ。
……ま~じで、あの宰相じゃないでしょうねえ。
いつか戦うとは言ったけれど、全然準備できてないわよ。こっちは。
……いえ、さすがにあの宰相なら、こういう痕跡すら残さないか。
騒ぎになるにしても、なるべく魔王軍だと気付かれないようにするでしょうし、モンスターを使って目立つことはしないでしょうね。
「さ、行きましょ。ここ、アタシがお気に入りの喫茶店があるから」
「テンユウさんのお気に入りってことは、かなり期待できるわね」
「良いところよ。店員しかいないときは、残念な味になっちゃうけど」
まずは一休みよ。
あの宰相関連でないのなら、余計に疲れることもないでしょうし、ひとまず休憩して頭の中を整理しましょ。
「ねえ聞いた? モンスター園の話」
モンスターを使って、思いっきり目立ってるわねえ!
いや、落ち着きなさいテンユウ。
まだ、あいつの仕業と決まったわけじゃ……。
「欲望のダンジョンでしょ? あそこ、本当に色々やるよねえ」
やってるわ~……。
あいつ、絶対やってるわ~……。
わ、忘れましょ。たぶん、今回の調査とは無関係のはず。
そうよね? そうと言ってちょうだい!




