第534話 みんなのオネエさん
「そうですか。わかりました。調査してみましょう」
「ありがとうございます! 聖女様!」
一人の男性が代表して感謝の言葉を述べると、周囲の方たちも口々にお礼を言いながら、頭を下げました。
ちょっとした騒ぎになりそうだったので、後のことは、城の騎士の方たちに頼み、私は仲間たちのもとへと戻ります。
「どうだった? スティア」
今は、リックもオルドもいないので、ミスティが出迎えてくれたようですね。
用意されたやけに広い部屋は、利用者が減ったことで、余計に広く感じてしまいます。
「被害は、かなり拡大しているようです。作物や家畜たちが、次々と狙われているみたいですね」
「そっか~……。やっぱり、モンスターなの? 実は、魔王軍からの攻撃とかじゃなくて?」
「目撃情報自体はあるので、モンスターによる被害で間違いなさそうです。ただ、裏に魔王軍がいる可能性は、否定できませんが」
モンスターによる被害。それは、特別珍しいものではありません。
しかし、最近の被害は、どうにも腑に落ちない点があります。
モンスターにしては、賢すぎる。
姿こそ見られているものの、従来の罠などは全て避けられ、行動パターンもやけに慎重です。
そのため、冒険者や騎士たちさえも、手をこまねいている状況が、続いているそうです。
「それで、私たちになんとかしてほしいってことか~」
「ええ。あくまでも、調査ですけどね。本格的に勇者として動くかどうか、それは、リックと王次第ですから」
「そのリックが、いないんだけどね」
ミスティは、少々呆れた様子でそう言いました。
困りましたね。ともすれば、私たちだけで、調査することにもなりそうです。
「二人は、またクニマツさんと、モンスターを倒しに行っているか、あるいは訓練をしているのでしょうか?」
「そう。男三人で、ま~た、鍛えにいってるみたい。きっと、何日かは、戻ってこないわよ。これ」
であれば、やはり簡単な調査だけでも、私たちで進めておくべきですね。
ミスティも、それがわかっているようなので、私たちは部屋を後にしました。
◇
「では、さっそく、実際に被害に遭った方たちのところに向かいましょうか」
「そうね。今のところ、頭の良いモンスターってことしか、わかっていないし」
城を出て、二人で歩きながら方針を決めていきます。
幸い、被害者の方たちの居場所は、先ほど城に来ていた方たちから聞いているため、迷うことなく聞き込みはできそうですね。
問題は、少々遠いということですが。一つ一つ回っていくしかないでしょうね。
「せめて、転移魔法陣が使えたらねえ」
「仕方ありませんよ。王都や街からは、離れていますから。転移魔法陣の設置をするくらいなら、そのまま事情をうかがったほうが早いです」
「それもそうね。街ごとの移動よりも、苦労するなんて、便利なんだか不便なんだか」
気持ちはわかりますが、転移魔法陣は、頻繁に使うところではないかぎり、設置されませんからね。
自然が多いのどかな村では、利用者がいないので、仕方がありません。
「あ~あ。魔法に強い転生者が、そこら中に設置してくれてたらいいのに」
「さすがに、それは……。便利ではありますが、危険かもしれませんよ」
「そうよねえ。移動に便利なのはいいけれど、攻め込むのも簡単になっちゃうし」
……ミスティの声じゃありませんね。と言いますか、聞き覚えがある声です。
どうして、彼がここに?
「テンユウさん。お久しぶりです」
「うわっ! びっくりした! 平然と、会話に混ざってこないでよ!」
「ひさしぶり~。スティアは、相変わらず冷静ねえ。ミスティくらい、反応が面白いほうが、アタシの好みなんだけど」
「すみません。面白くない女で」
「冗談、冗談よ。……最近、ちょっと色々と引っかき回されてねえ。たまには、驚かす側に回りたかったの」
なんか、やけに疲れたような声ですね。
もしかして、テイランのほうで、何かあったんでしょうか?
「大丈夫ですか? 元気がなさそうですけど」
「う~ん。失敗はしたけれど、成功もした。だから、気持ち的には、差し引きでゼロね。だから、この疲れは、あれのせいよ……」
あれ? 別に、何か変わったものはなさそうですけど。
きっと、テンユウさんは、自分の疲労の原因を特定しているんでしょうね。
そして、それを明確に伝えなかったということは、私たちでは、手伝えないことのようです。
「せめて、回復しましょうか? これでも、聖女ですし」
「いいえ。これでも本当に、体だけは絶好調なのよね~。ほんと、それなのに、問題は解決しないし。嫌になっちゃうわよ」
どうやら、そのようですね。
他の勇者たちと違って、テンユウさんが、自身の体の状態を理解していないとは思えませんし、やはり、心労が疲れの原因でしょう。
「ところで、なんでテンユウさんは、ここに? また、何かの調査?」
ミスティが尋ねると、テンユウさんは、隠すこともせずに、理由を教えてくれました。
どうやら、先ほどの問題とは違って、こちらは話せる内容みたいですね。
「ちょっと余裕が出てきたからね。アタシも、あんたたちと同じで、例のモンスターのこと、調べてんのよ」
「え、そうなの? じゃあ、一緒に調べる? あれ。でも、レンシャとスイリョウとレイライは?」
「最近、大変だったからね。各自、しばらくは休みなさいって、言ってるの」
よくわかりませんが、大きな問題があって、それ自体は解決したみたいです。
では、テンユウさん自身も休んだほうがいいような……。
それが原因で疲れているのであれば、なおさらです。
「テンユウさんは、休まなくて良いんですか?」
「へいきへいき。アタシ、けっこう休んでるから。うちの子たち、そういうのへったくそなのよね~。仕事も趣味も没頭しすぎて、バランスとるのが下手くそなのよ」
それは、なんとなくわかるかもしれません。
といいますか、うちのリックやオルドもそうですからね……。
最近、ずっとクニマツさんと一緒に、モンスターを倒してばかりですし。
「みんな、趣味なんてあったっけ? なんか、仕事ばかりしていたイメージだけど」
「最近できたの。それ自体は良いんだけど、なんか変にはまってんのよねえ」
「どんな趣味なんですか?」
「ギャンブルと温泉と戦闘」
「二つほど、不穏なんだけど……」
まともなの、温泉くらいではないでしょうか……。
特に、ギャンブルは大丈夫なのか、心配になってきます。
もしかして、テンユウさんの疲れの原因というか、悩みの種って、これなのでは?
「温泉といえば、アルマセグシアにもできてたわよね。なんでも、どんな病気も治る、すごい温泉とか」
……? テンユウさんの体が、一瞬強張った気がしますが、気のせいでしょうか。
ミスティは、特に気にすることもなく、話を続けたので、私も気にせずに聞くことにしました。
「なんかさあ。聖女様って呼ばれてるんだって。私、最初はスティアが、変なこと始めたのかと思ったわよ」
「しませんよ。それに、アルマセグシアでそんなことしたら、王様が自国でやれって、言いそうですし」
「それもそうね。でも、そうなると聖女だなんて、また自称とかなんだろうね~」
「でも、それだと、温泉も偽物ってすぐにばれますし、案外本当なんじゃないですか?」
「どの聖女だろう? 商売を始めそうな聖女なんて、心当たりないけど」
「ということは、転生者じゃないですか? そういう加護があっても、不思議ではありませんし」
……あれ。テンユウさん。会話に参加しませんね?
不思議に思って、彼のほうを見ると、なんか汗をかいている気がします。暑かったですかね?
「えっと、まあ、本物っぽいわよ。アタシも一回行ったけど、良い温泉だったし」
「そうなの? 今度行ってみようか?」
「そうですね。オルナスさんに会うついでに、寄ってみてもいいかもしれません」
「そのときは、スイリョウがいるかもね。あの子がはまってるの、その温泉だし」
そうだったんですね。
では、いっそのこと、スイリョウさん案内してもらうのも、いいかもしれません。
なんだったら、この調査を終えて、事件を解決したときにでも……。
よし、がんばらないといけませんね。
そう決意を新たにしていると、テンユウさんが、なにかぼそっと呟いた気がしましたが、こちらには聞こえませんでした。
まあ、彼なら陰口とかではないでしょうし、きっと大して意味のない言葉だったのでしょう。
「……ま、下手に隠してもしょうがないし、スイリョウも気付いてないし、大丈夫よね」
◇
「レイさん。また、スイリョウさんが温泉に来ました」
「レイ様。部下の報告では、また、レイライが喜びのダンジョンを踏破したそうです」
「ボス。レンシャの姐御、今日も大負けしたぜ」
「そうか。なんか、テイラン組は、最近羽目を外しているな」
病は、悪化状態から快復したとはいえ、完治はできなかった。
だけど、すっかり趣味に没頭しているらしい。
あの病が、女神のせいだとしたら、対策も困難だろうからなあ。
あまり気張らずに、肩の力を抜いているのだとしたら、それはそれで悪くないのかもしれないか。
「レイ~。報告終わりましたよね~? 構いなさい。構ってくださ~い」
「あ、私たちこれで失礼しますね」
「何かありましたら、いつでもお申し付けください」
「じゃあな。ボス」
まあ、いいけどさあ。
たしかに、報告は終わったし、特に問題もないから、動くこともないけどさあ。
「もう少し待てないんですか」
「待てません! あまり、気を張りすぎても疲れますよ? ということで、一緒にだらだらしましょう」
「まあ、良いですけど……」
肩の力を抜くのは、悪くないとは考えたが、これはどうなんだろう。
この魔族、いつもだらだらしてるからなあ。
むしろ、たまには、気を張ったほうがいいのでは?
そんな忠言も、目の前で楽しそうにしている顔を見ると、喉でつかえて出てこなかった。
ま、いっか。俺は、こういうフィオナ様が好きなのだから。
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