第532話 お前も魔王軍だ
「え、俺のせい?」
『いや、まだそうと決まったわけではない』
ダスカロスから連絡を受け、事情は理解した。
どうやら、俺が作ったレベル上げダンジョンのせいで、野生のモンスターが知恵をつけた可能性があるらしい。
まだ、可能性ではあるらしいが、ダスカロスがすでに、拠点のようなものを発見しているため、少なくともそんなものを作る知恵はあるということだ。
「大丈夫か? 二人だけで」
『この距離ならば、問題はない。大所帯で行ったほうが、何者かに発見される恐れがある』
そういうことなら、ダスカロスとロペスに任せておくか……。
ダンジョンの外ということは、ピルカヤの目で共有もできないが、この二人がそうそうやらかすはずもない。
「じゃあ、頼んだ。何かあったら、ピルカヤにすぐ連絡してくれ」
『無論だ』
「学習するモンスターかあ」
てっきり、本能のままに行動すると思っていたが、モンスターを過小評価していたか。
というか、うちの子たちが特別だと、慢心してしまっていたのかもしれない。
野生のモンスターたちは、あの子たちのように、賢くないだろうと思い込んでいた。
「レイ殿。危険なモンスターたちというのであれば、私がいって殲滅するか?」
「いや、リピアネムが外に出るのは、さすがになあ……」
「私は速く動けるぞ」
「そうだけど、今回はダスカロスに任せておこうね」
本能のままに行動するうちの四天王は、今日も元気だなあ。
……そのモンスターのほうが、賢かったらどうしよう。
◇
「不要だ。レイに言っておいてくれ。リピアネムを解き放つなと」
「……旦那。もしかして、リピアネムの姐御が、向かってたのか?」
心配そうに尋ねられるが、もう問題ない。
私だって御免だ。ここにリピアネムが襲来するなど。
モンスターは蹴散らせるだろうが、余計な騒動を引き起こす気しかしない。
「レイに頼んだから問題ない。彼ならば、リピアネムを止められる」
彼女は、自分の上の者の命令には、従うからな。
これまでは、それが魔王様しかいなかったが、レイというもう一人の上役が増えたことで、以前よりも制御されている気がする。
なんというか、懐いているからな。
「さて、やはり、野生モンスターでは、考えられんような拠点だな」
周囲を十分に警戒し、目撃されることも、魔力を感知されることもなく、安全を確かめて近づく。
本来のモンスターが作るような巣ではない。やはり、知性はあるようだ。
「君、一緒に来てよかったのか?」
「まあ、もののついでだからな。なにかあったら、ダスカロスの旦那が守ってくれ」
「かまわない。では、私の後ろをついてくるように」
私一人で進むよりは、ロペスのように観察力がある者がいたほうがいい。
戦闘自体は不得手のようだが、動じていないのは、私を信用しているからか。
それとも、少なからず荒事に慣れているためか。
……後者の可能性が高そうだな。転生者のまとめ役の顔を担っているため、彼は騒動に巻き込まれがちだ。
「……匂いがする」
「モンスターかい?」
「ああ、そうか……。たしかに、彼らであれば、手先は器用だったはずだな」
そして、こちらが一方的に存在を感知できるところから、実力そのものはそこまでではない。
ならば、これでいいだろう。
私が、ずかずかと前へ進むと、ロペスはその様子に目を丸くしていた。
「話し合いに来た」
“な、なんだ!?”
“ガサ入れか!”
やはり、そうだったか。
急に押し入った私を見て、グレムリンたちが、おろおろとしながら、何かを言っている。
大方、私を見て警戒しているのだろう。
「旦那……。意外だな。なんかもっとこう、慎重にいくものかと」
「こいつらの場合、このくらいのほうがいい。なんせ、一度舐められると、延々と悪戯のターゲットにされるからな」
“やべえ! ばれてる!”
“なんか、強いし隙がないぞ。この人狼!”
“謝るか!? 頭下げれば、なんとかなるだろ!”
ギャーギャーと、混乱しながらも話し合っているようだな。
この感じ、うちのモンスターたちに近いものを感じる。
やはり、知性は高いらしい。元来、グレムリンたちは、知性は高めだが、こいつらは、それよりもさらに上のようだ。
「単刀直入に聞く。お前たち、人類を襲撃しているか?」
“そ、そんなことしてませんよ。旦那!”
“俺たち、あのダンジョンに入ったら、恐ろしい魔族に襲われて、ここに逃げて籠城中なんですから!”
“そもそも、ちょっとした、いたずらくらいしか、しませんって!”
どうやら、否定しているようだな。
やはり、従来のグレムリンと違い、こちらの言葉を正確に理解しているようで、やりやすい。
「無関係のようだな。いや、レイが関係しているかもしれないが、少なくとも人類を襲っているのは、別のモンスターらしい」
リズワンやレンシャの話では、冒険者が襲撃されているようだからな。
いくら知恵をつけようと、こいつらがそんなことをするとは思えない。
グレムリンは、魔道具を勝手にいじくり回して、その機能を改造してしまう厄介者だ。
だが、それ以上のことはしない。誰かを傷つけることはせずに、からかって笑っているような連中だ。
たしか、以前テクニティスが被害に遭い、珍しく本気でモンスターを焼こうとしていた。
「だが、急速に知恵をつけた理由は気になるな。お前たち、自分たちが他のグレムリンより、賢いことは自覚しているか?」
“え、俺たち賢いのか?”
“なんか、急に押し入って来て、褒めだしたぞ。飴と鞭か? 飴と鞭なのか?”
「駄目そうだな。困惑しているだけか」
「旦那。言葉通じないのに、わりとこいつらのことわかるんだな」
「感情は言葉以外からも、理解できる。そこから、予測を立てているだけだ」
だが、言葉を交わせるわけではない。
仮にこいつらが、急に知恵をつけた理由を知っていたとしても、そこを詳しく聞き出すことはできない。
どうしたものか……。放置しても問題なさそうではある。
だが、一応聞いてみるか。
「レイ、調査は終わった。たしかに、知能が高いモンスターのようだ。このグレムリンたちは、君のモンスターのように、話し合いをする素振りを見せている」
『え、グレムリン? そういえば、うちにはいないな……。でも、レベル上げダンジョンに、グレムリンなんて来ていたっけ?』
「隠れて悪戯ばかりするからな。大方、他のモンスターに紛れて、うまく隠れていたのだろう」
“やべえ! 手口がばれてる!”
『興味あるな。うちで、働かせてみるか?』
「やはり、そうなるか。わかった。可能であれば、連れ帰る」
レイは、モンスターが好きだからな。
自分が生成していない知恵あるモンスターということもあり、興味がわいたのだろう。
「ということだ。君たち、うちで雇われないか? 安全と衣食住は保証する。もっとも、衣は、いらんだろうが」
“なんだこの人狼。急に家に入ってきて、怪しげな勧誘し始めたぞ”
“だけど、食事と安全な拠点っていうなら、興味あるな”
“最近物騒だし。体験してみるか!”
どうやら、彼らも乗り気なようだな。
レイがどう扱うかわからんが、まあ、おかしなことにはならないだろう。
“全然安全じゃない場所に、連れて行かれる!”
“旦那! そのダンジョン、やべえって!”
“あれ……。もしかして、旦那ってこのダンジョン側の魔族なのか?”
“早まったか!”
しかし、うちのモンスターと違い、うるさい連中だな。
さすがに、何を話しているのか、どんな感情なのか、今は読み取れない。
さっさと、レイのところに連れて行くか。
◇
“な、なんだこの魔族! いや、他のモンスターがおかしいって!”
“え、死ぬの!?”
“俺たちも、命張らないといけないのか!?”
「あ、そっか。グレムリンたちは、死んでも復活できないのか」
“あぶねえぞこの魔族!”
“逆らったら、殺される……”
“この魔族にだけは、いたずらしないようにしようぜ……”
後日様子を見ると、なんだかグレムリンさえも、レイに恐れ戦いているようだった。
さすがだな。モンスターの扱いはお手の物ということか。




