第531話 地図の中の世界旅行
「知能が高いモンスターね」
「ああ、念のため聞いておくが、うちは無関係なんだよな?」
「うちのモンスターは、外で活動させてないし、無関係だと思うぞ」
俺の言葉に、ロペスはほっと息をついた。
まさか、そんな目立ったことをしていたら、前みたいに勇者が出張ってくるかもしれないからな。
テンユウのときは、たまたまうまくいったけれど、次も誤魔化せるなんて思わないほうがいい。
「そうなると、リズワンの旦那やレンシャの姐御が言うように、別の転生者ってことかねえ」
「可能性はあるな。レイのように、特殊なモンスターを使役できる者がいても、おかしくはない」
そういうもんか。
まあ、俺以外にダンジョンを作っていた転生者もいるくらいなのだから、モンスターも同じことだろうな。
「そういえば、君のダンジョン、モンスターに関連するものがあったな」
ダスカロスの言葉に、しばし考えるも、どれのことかわからない。
どのダンジョンも、モンスターは関係しているからな。
一見ダンジョンではない、レストランや魔導映写館みたいな施設くらいだ。モンスターと無関係なのは。
「ほら、外のモンスターをおびき寄せて、こちらの魔族たちの訓練相手にする、というコンセプトのダンジョンだ」
「あ~。あれか」
あれ、うまくいかなかったんだよなあ。
モンスターをおびき寄せるために、餌とか場合によっては魔石を配置した。
おかげで、一定数のモンスターは、ダンジョン内に侵入し、それらを魔族たちに狩らせることもできた。
だが、せいぜい二度や三度が限界だ。
「なんか、途中からおびき寄せることができなくなった。学習したんじゃないか? このダンジョンに侵入するのは、危険だって」
「そりゃあ、入るたびに襲われてたらなあ」
さすがに学ぶか。
人間たちにも、似たようなことはしているものの、そちらはバランス調整がされているからな。
全滅は、たまにしかしていないし、危険と判断するよりも、探索して旨みを得るほうに、天秤が傾いているのだろう。
「モンスターの場合、経験値のために全て狩っていたからなあ」
こちらも、ある程度は逃がすべきだったか。
いや、何匹か逃げているのはいたはずだ。
ということは、モンスターのほうが人間よりも、危機感が上なのかもしれない。
「……つまり、今では無人になっているということか」
「そうだな。モンスターも来ないし、諦めて放棄している」
「……なるほど、少し調べてみるか」
何をだろう。よくわからないが、心当たりがあるのなら、こちらも協力することは、やぶさかではない。
「俺も手伝おうか?」
「いや、まだ確証はないので、私一人で大丈夫だ。君は、魔王様の相手をしていてくれ」
きっぱりと断られてしまった。
なら、言われたとおり、フィオナ様でも見に行くか。
なんか、マップを見て遊んでた気がするし、きっと暇だろう。
◇
「ということで、暇している魔王様の相手をしに来ました」
「相変わらず、歯に衣着せぬ物言いですねえ。暇なら、レイが構えばいいじゃないですか!」
「だから、来たんです」
「たしかに……。では、一緒に寝ますか?」
「よく眠りますねえ。というか、選択肢の一番目が睡眠なのは、どうなんですか?」
どうせ今日の夜、一緒に寝るでしょう。
フィオナ様も、それに気づいたのか、何をするか考え始めたようだ。
「さっきは、何をしていたんですか?」
「ダンジョンの地図を見て、ピルカヤに実際の光景を映してもらいながら、探索していました」
「ついに、ダンジョン内ですら歩かず、引きこもるようになりましたか」
「仕方ないじゃないですか! 今は、侵入者もいるんですから! 歩いていたら魔王と遭遇しても、いいのですか!?」
それもそうだな。この時間帯に出歩くと、それが怖い。
なんだか、窮屈な思いをさせて申し訳なくなってきた。
「すみません。ここは魔王様のものなのに……。いっそ、フィオナ様が散歩したくなったときは、侵入者皆殺しましょうか?」
「い、いえ、それには及びません。といいますか、若干面倒なので、地図とピルカヤで遊んでいたといいますか……」
やっぱり、外に出るのが億劫だっただけじゃないか!
申し訳なく思って損したよ!
「ということで、レイも一緒に、ダンジョン旅行といきましょう」
「俺、日頃から歩き回っているので、慣れているんですけど」
「では、まず入り口で待ち合わせですね」
「聞いていやがりませんね。この魔王」
そもそも、待ち合わせもなにも、すでに隣に寄り添っているじゃないですか。
肩が触れる距離なのに、互いを待つという意味不明な行為は、一般的な魔族である俺には、理解ができないようだ。
「さあ、お待たせしました。待ちましたか? レイ」
「待ってる間、腕に抱きついてくる魔王がいた気がします」
「気のせいですね」
「気のせいですか」
こうして、魔王と共に、見慣れたダンジョンを室内で回るという、意味不明な遊びに興じることとなった。
◇
「魔王様……と……レイ様が……! デート……して……る!」
「今度は、何を見たんですか。あなた」
プネヴマが倒れた。
まあ、問題ないだろう。エピクレシやテラペイアに、任せておけばいい。
私は私で、気になることを調べよう。
「なあ、ダスカロスの旦那」
目的の場所に向かおうとすると、ロペスがなにやら考え込んで、こちらに尋ねてきた。
「旦那、もしかして、心当たりでもあるのか?」
やはり、彼にはばれるか。
もっとも、隠すつもりもなかったので、何も問題はないが。
「心当たりというよりは、少し気になることがあってな」
思い当たる点がないためか、彼は黙って私の言葉を待っているようだ。
「レイがおびき寄せたモンスター。ある日を境に来なくなったのは、そこが危険であると学習したからだろう」
「まあ、多少の学習能力があったとしても、不思議じゃねえが」
「それが多少なのか、あるいは変異したのか。それが気になってな」
「……もしかして、ボスのダンジョンから生き延びたモンスターが、知恵あるモンスターに進化したってことかい?」
「さすがに、そこまで急な変異はないだろう。だが、モンスターたちのその後を、確認していなかったのも事実だ。危機察知能力に長けるのであれば、君が聞いた話と一致する」
そこまで聞き、彼も私と同じく気になったのだろう。
レベル上げダンジョンだったか? 私と共に、そこに向かうための転移魔法陣へと足を踏み入れた。
「さて、どうなっているか」
「もうすっかり、誰もいない場所になっちまったなあ」
かつては、大量のモンスターが押し寄せ、それらを狩る魔王軍の者たちも、かなりの数だった。
そんな混戦状況は、見る影もなく、ここには私たち二人しかいないのだと静寂が教えてくれる。
「ピルカヤの見回りは優れたものだ。まさか、こんな場所にまだモンスターがいるとは思えない」
「ということは、やっぱりここは無人で、今回の話とは無関係ってわけだ」
「だが、ピルカヤとて、完璧ではない。対策もされれば、見落としも生まれよう」
たとえば、火のない場所は死角となる。結界で妨害すれば、目は届かない。
あとは、転生者の力。その内容によっては、ピルカヤを出し抜けるだろう。
「……なあ旦那。もしかして、あれか?」
「……怪しいな。ダンジョンから離れているが、ここから、かろうじて確認することができる。モンスターが出入りしていることから、あれが拠点のようだ」
「モンスターって、うち以外では、あんな場所作るほどの知恵ないんだよな?」
「種族による。コボルトやオーガは、比較的賢く。住処のようなものを作る。しかし、あれほどまでに、しっかりした住居はさすがに」
冒険者たちが、本格的に作成した拠点地のようではないか。
あれをモンスターが作るとなれば、うちのモンスターくらいの知能は必要となる。
「……幸い、ダンジョンからそう遠くはない。確認してみるか」
「大丈夫なのかい? 俺一人で見に行ったほうが」
「問題ない。だが、レイたちには連絡はしておこう」




