第530話 本番当日のドタキャン
「……ねえ、ロペスくん」
「わかってる。わかってるんだが、試しにな」
平気かなあ。でも、ダスカロスの旦那やアナンタの旦那も、平気だって言ってたしな。
慎重派のあの二人が言うのなら、きっと問題ないんだろう。
いや、ボスを信用してないわけじゃねえよ? だけど、ほら……ボスって、なんかわりと突っ走るときあるじゃん。
……俺、誰に言い訳してんだろう。
「ふむ……久しく見なかったのだがな。モンスターを手懐ける者は」
「そうね。まあ、大転生も始まったことだし、いてもおかしくないか」
リズワンの旦那もレンシャの姐御も、まったく気にしていない。
というか、それが当然のように受け入れている。
ってことは、やっぱり、これはあり得ない光景ではないってことだな。
「にしても、モンスター園ねえ。つくづく面白いことするわね。あなたたちって」
「こっちの世界の当たり前では、俺たちに勝ち目がないからな。常識はずれなことで、客を掴むしかないのさ」
「カジノと海自体はあるが、ここのように宝箱やらジェットスキーとやらは、ないからな。宣言どおり、独自の強みを持っている。う~む……やはり、全員俺の国に来ないか? 好待遇を約束するぞ?」
「それなら、テイランにも欲しいんだけど……。まだ、よその者を入れるのは無理ねえ」
レンシャの姐御は、がっかりしたように息を吐いた。
国の情報を持ち帰られたくないから、と思っていたが、むしろよそ者のためだったとはな。
勇者とそのパーティは、女神の加護によって、病から守られている。
内部に潜伏自体はしているらしいが、それが活性化することもなければ、他者へ移ることもない。
どおりで、国の出入りが厳重なはずだよなあ。
「喜びのダンジョンに誘ったとき、俺はほぼ素通りだったがな」
「そりゃあ、あなたは、感染しないじゃない。かといって、体を調べても、そこから病の特効薬も作れないし。ほんと、ぬか喜びよね」
「すまんな。俺の体が無意味に頑丈で」
リズワンの旦那。ゲームのメインキャラらしいからなあ。
シナリオの都合上、不要な病にはかからないようにしているんだろうか?
だとしたら、ゲームに出てきた他のキャラクターたちも同じか?
案外、魔王軍の十魔将以上の人たちなら、テイランの病なんてまったく通用しないかもしれねえよな。
「さて、残念ながら、勧誘は失敗した。ちなみに、このモンスターたちを手懐けている者は? 引き抜けないか?」
「無茶言わないでくれよ、旦那。そんなことされたら、俺たちだって困るんだ」
いや、まじでな。ボスを引き抜く? 地底魔界どうなるんだ?
ダンジョンは、これまでどおりに稼働させられなくなるだろ?
拡張も一苦労。モンスターも補充できず、罠も一つずつ作るか直すかってことになる。
施設のほうも同じだな。うちの場合、宝箱とか一切提供できなくなるし。
他の施設は、商店以外は問題なさそうか……?
まあ、問題というのなら、そもそもビッグボスがお怒りになる。
その時点で、あり得ない話だろうさ。
そう判断した俺は、あえて大げさな身振り手振りで、リズワンの旦那に拒絶の意思を示した。
「ふむ、駄目か」
「諦めなさい。というか、この子たちはこれまでの転生者と違うから、下手に引き抜くと、ちょっとした騒ぎになるわよ」
「どこにも所属せず、転生者だけで、ここまで有用性を見せているからな。おかげで、どこも手出ししづらい。か」
「そうそう。せっかくどの国のどんな種族も、恩恵を授かっているっていうのに、独占なんかしちゃったら、恨まれるでしょ?」
幸い、わりと多くの客層が利用しているからなあ。
そのかいあって、うちだけでなく、各地の俺の仲間と思われている者たちも、無茶な勧誘は受けていない。
有用性を示し、それを独占して各国から敵視されると思うと、今の状況が一番良いという考えに落ち着くんだろう。
胸糞悪い例えになるが、女王様たちを共有資産にしていたのと、同じような考えか。
「それに、あなたのところは、二人も転生者を招き入れたんでしょ? あまり、欲張るものじゃないわよ」
「それを言うのであれば、そちらも、一人招き入れたそうじゃないか。いや……そちらの場合は、保護か?」
「さあ、どうかしら?」
なんか、探り合ってそうだなあ。
そういう話は……大歓迎だし、もっとやってくれ。なんなら、こちらも混ざりたい。
「まあ、レンシャの言うとおり、欲張りすぎても良くない。エーニルキアじゃあるまいしな」
「あそこ、徹底的だからねえ。この様子だと、そっちが原因かしら……」
「であろうな。まったく、管理できないほど、転生者を保護しないでもらいたい」
何の話だ……?
ゴブリンたちに触れながら、リズワンの旦那もレンシャの姐御も、合点がいったという雰囲気で話している。
「何か、儲けにつながりそうな話かい?」
「ちょっとした噂だ。その直後で、モンスター園なんて始めたため、正直、わずかに疑いすらしたぞ」
「そうよねえ。タイミングが良すぎるもの」
モンスター園に関する噂?
おかしいな。ボスは、その構想を地底魔界でしか話していない。それも、ごく一部にしか知らされていないはずだぞ。
そんな情報が、サンセライオやテイランに出回っていたっていうのか?
「だが、ここは無関係のようだな。これほどまでに、人に懐いているモンスターというのも、珍しくはあるが、だからこそ噂とはかかわりがない」
「ええ。本来よりも強く賢いモンスターが、人類に被害を与えているなんて、この子たちとは、さすがに関係ないでしょうね」
……それ、本当にうちと無関係か?
ボスがひっそりと、人類相手に実験とかしてねえだろうな!?
幸い、ゴブリンやスライムたちは、俺よりも古株で知恵も経験も蓄え続けている。
そのおかげか、この二人さえも演技で欺けているようだが……。そいつら、実はかなり賢いんだ。
ぱっと見では、野生を失ったモンスターに見えているかもしれねえけどな。
「そんなモンスターが噂になっているのか」
「ああ。とはいっても、今のところ一部の冒険者たちが、被害に遭っているだけだがな」
「ただ、ふつうなら考えられないほど、強力だって話だからね。油断して怪我する者だって、これから続出しかねないわ」
「そりゃあ、恐ろしい話だなあ。こいつらが、やられないように、うちも気を付けるとするかね」
突然変異でもしたモンスターか?
それとも、本当にモンスターを従わせることができる転生者か?
そういえば、前にタケミたちが転移してしまった、別の転生者が作ったダンジョンには、モンスターもいたらしいな。
ということは、その手の能力を持っているやつが、いるということだ。
そいつらは、すでにプリミラの姐御が始末したが、同じ能力がないとも限らない。
下手に転生者が原因なんてなったら、うちにも変な言いがかりをつけられそうだなあ……。
ボス。やっぱりモンスター園に、ソウルイーターを配属させなくて正解だと思うぜ。
ロマーナの姐御やタイラーが言うには、あいつけっこう強力なモンスターみたいだからな。
そんなモンスターを飼いならしている転生者が身内にいると思われたら、そのあたりのあらぬ疑いをかけられかねない。
「さて、意外にも癒されたことだし、運気は高まった。いくぞレンシャよ! 出陣だ!」
「あんたの部下じゃないけど、わかったわ!」
さて、今日もうちの儲けに貢献してくれ。
情報だけでなく、寄付までしてくれるなんて、本当に親切な客たちで助かるぜ。
◇
「おや、今日はいつもより仲良しですね」
ソウルイーターに巻き付かれたまま、仕事を続ける俺を見て、フィオナ様が温かい目をしていた。
まあ、仕方ない。あれだけがんばって練習したのに、それを無駄にしてしまったのだから、このくらいは許してやろう。
“がんばったのに~!”
「あ、イーターちゃん! ご飯食べる?」
“たべる!”
と思ったら、時任がソウルイーターの世話をしてくれたため、俺は解放された。
あいつ……。なんか本当に、モンスターを使役する能力でも、身に着けたんじゃないのか?




