第529話 わたしのかわいいがばれてしまった
「モンスター園?」
今日もカジノで楽しもうと思い、宿に泊まっているとそんな話を聞かされた。
たまに現れるこの男は、なかなかのやり手であり、各地に宿屋を作っては経営しているらしい。
ここだけでなく、他の地にも宿を作っているそうなので、噂されている転生者グループの一人なのかもしれない。
「ああ。まあ、なんだ? 俺の仲間が、試しに作った施設でな。お前さん、わりと新しい施設は、なんでも試すだろ? だから、興味があったらと思ってな」
たしかに、私は転生者たちが作ったであろう娯楽は、ひとしきり試している。
なにせ、こちらの世界にない娯楽も多く、興味深いのだ。
カジノに海。温泉に魔導映写。そのあたりは、ずいぶんとお世話になってきたものだ。
だけど……モンスター園?
「さすがに、期待はできないけど、試さないことには、評価もできない」
「だろ? まあ、騙されたと思って、行ってみてくれ。安全は保障するからさあ」
「ん」
大丈夫。私は、けっこう強いから。
カジノで資金がなくなったときも、このダンジョンに潜ってモンスターを倒して稼いでいるし。
でも、だからこそ、期待はできない気がする。
モンスターなんて、あくまでも敵。油断したら殺されるような、危険な相手。
それを飼いならそうなんて、ずいぶんと変わった人間がいたものだ。
これだから、転生者というものは面白い。
「カジノはやめて、今日はそっちに行ってみる」
「おう。だが、カジノのことも忘れないでやってくれ。そうしないと、俺がどやされちまう」
やっぱり、このおじさんもカジノのハーフリングの仲間なんだろう。
聞いてもはぐらかされるけれど、話を聞く限りだとそれは理解できる。
行ってみよう。モンスター園には期待できないけれど、それを管理している相手には興味がある。
◇
「へえ、ここが」
海のときもそうだったけれど、よくもまあ、こんなふうにダンジョンの中に、広大な安全地帯を見つけるものだ。
もしかしたら、仲間の一人に、そういう力を持った転生者でも、いるのかもしれない。
それに、魔力による光源と高い天井のおかげで、ここがダンジョン内ということも、忘れそうになる。
いったい、何人の転生者たちが、協力し合っているんだろう。
「い、いらっしゃいませ~」
「お店じゃないから、その挨拶って違うんじゃないの?」
「あ、そっか。でも、それなら、なんて挨拶するの?」
「わ、わかんない」
私に声をかけるハーフリングが、三人。
なんか、もめている。その様子を見ると、まだ成人していないハーフリングなのかもしれない。
まあ、私も人のことは言えないけど。
「はい。入場料」
「あ、ありがとうございます!」
そうしてお金を払って中に入ると、いくつかの柵が設置されている。
柵の中には、本当にモンスターが……。
ゴブリン。コボルト。スライム。なるほど、ダンジョンでもよく見る顔ぶれだ。
つい、魔法を撃とうとしたけれど、さすがにそれはまずいと思いとどまる。
「……こんな柵、簡単に越えてくるんじゃないの?」
そんな疑問を口にするけれど、意外なことに脱走しているモンスターは一匹もいない。
なんでだろう? もしかして、この柵に特殊な魔法でも仕掛けられている?
モンスターよりも、そちらが気になり調べるも、特に変わった様子はない。
というか、魔力の痕跡すらほとんどない。
……? 魔法で作られている? いや、魔力で? 転生者が作ったのかな?
「……なんというか、それでいいのかな。君たちは」
柵に近づいても、モンスターは、私を襲うことはない。
それどころか、私を気にすることもなく。だらだらと動き、休み、なんとも気楽そうだ。
……モンスターだからと、警戒していたのが、なんだか馬鹿馬鹿しくなってくる。
「ま、いっか」
周囲を見ても、他の人たちが襲われている様子もないし、どのモンスターも柵の中でのんびりしている。
本当に、なんなんだろう。ここは。
ぼうっと眺めていると、ゴブリンがこちらに近づいてきた。
襲われる可能性も考え、念のため身構えるも、なんだか敵意とかはなく、ほのぼのとしている。
「平和だね」
触ってみても、嫌がることもない。もちろん攻撃もされない。
モンスター相手に、こんな体験をするなんて、なんとも不思議で面白い。
面白い? なるほど、たしかに面白いのかもしれない。
そう気づいた私は、モンスターたちを見て回ることにした。
「スライム。うん。ひんやりしていて、案外気持ち良いんだね」
手にしてみると、弾力とつめたさが、死骸や素材のときよりも増している気がする。
これ、喜びのダンジョンのマグマエリアに連れていけば、楽になるかもしれない。
「……でも、そうなると、この子たちのほうが大変だね」
なので、この場でぷにぷにと触って楽しむだけにしよう。
段々と、私のモンスターへの警戒心も薄れていき、大胆に触れ合うようになってきた。
周囲の人たちもそれを見て、自分たちもと同じように触れ合っている。
「ここは、植物だけ?」
柵の中に、植物。モンスターたちの餌かな?
と思ったら、中からゴーレムと妖精が出てきた。
なるほど、君たちの家だったんだ。
ゴブリンやスライムたちのように、柵の中が草むらだけということはなく、モンスターごとに環境も変えているみたい。
ずいぶんと、モンスターのことを考えているんだね。
ということは、それだけモンスターと共存できているってことかな。
やっぱり、転生者にそういう人がいるんだと思う。モンスターを飼いならす。あるいは、仲良くするとか、そんな感じの能力者が。
思っていたより楽しかった。
というか、しばらく通うことになると思う。
敵でしかないモンスター。それを、こんなふうに眺められるなんて、なんとも面白いことを考える転生者もいたものだ。
「いやいやいや。さすがに、君たちは飛んで逃げられるでしょう」
ひとしきり見回り終えたと思ったけれど、最後に訪れた柵の中。
その中では、鳥型のモンスターたちが飛んでいた。
……柵関係ないじゃん。やっぱり、柵の中でしか行動できないように、しっかりしつけられているのかな。
さあ帰ろう。そう思ったら、入り口で受付をしていたハーフリングの女の子たちが、モンスターたちに近づく。
なんだろう? 不思議に思い見ていると、彼女たちは、なんとモンスターたちに餌をあげはじめた。
うわあ。やってみたい。よほど、そんな気持ちが目に現れていたのか、飼育員の女の子の一人が私に近づく。
「やってみます?」
「私にもできるの?」
できるかも。だって、モンスターたちは、触っても問題なかったし。
「ええ。この子たちは、攻撃しないように教えていますので」
なら、問題ない。
私が餌をあげると、周囲の人たちも、やはり気になるらしく、それに続いてまたモンスターと触れ合うのだった。
◇
「トキトウさん! 私たち、モンスターに餌やりできるようになりました!」
「うん。上手になったね。私も鼻が高いよ」
なんか、ハーフリングの子たち、時任に懐いたな。
時任って、わりと物おじせずに誰とでも話すから、あの子たちも接しやすかったのかもしれない。
「どうなるかと思ってたが、案外うまくやれてるな。あのハーフリングたち」
あの子たちを預かった責任からか、ロペスは安心したように見守っていた。
「トキトウやりますねえ。あの子、私にさえ普通に話かけてきますもんね」
フィオナ様って、あまり本音というか、腹を割って話す相手いないもんな。
魔王軍の部下たちでさえ、礼儀を失することなく、上司への会話みたいだし。
「案外、精神年齢とかが近いから、うまくいってるんじゃないかい? 子供同士のほうが、仲良くなるだろうし」
……時任って、俺と同じくらいの年齢のはずなんだけどなあ。
だけど、ロペスの言うことに、やけに納得してしまっている自分もいる。
「さすがに、時任のほうが年上のはずなんですけどねえ」
待てよ。
時任と魔王様も、わりと仲良く話しているな。
時任がまだ子供のハーフリングと精神年齢が近いということは、フィオナ様ももしかして……。
「どうしました? レイ」
「いえ……」
「なんですか~! 隠さず言いなさい。魔王ですよ~」
うん、近いかも。わりと子供っぽいよ。この魔族。
おかしいな。たしか百年以上は、生きているはずなんだけどなあ。
「いえ、かわいいなと思っただけです」
「かわっ! ……ですよね! レイは、私のこと好きですからね!」
嘘は言っていない。
かわいいの種類も、色々あるというだけだ。




