第528話 鎮魂歌を捧げられない魂へ
「レイさん! レイさん!」
「なんだ、時任」
ソウルイーターをいじくり回していた時任が、ふと、こちらに話しかけてきた。
最近、ソウルイーターと遊んであげることが多いようだけど、モンスター園だったら良い客になっていたかもしれない。
「ソウルイーターちゃんって、ソウルをイーターするんですよね?」
「そこは、イートするじゃないのか?」
まあ、言わんとしていることは、理解できるが。
たしかに、名前は魂の捕食者だよな。
……どうなんだろう?
「お前、魂食べられるの?」
“わたし、かしこいから、すこしだけたべられるよ!”
なんか、自信ありげに巻き付いてきた。
時任が、少しうらやましそうにしている。
言葉は理解できないが、この感じは肯定ととらえていいかもしれない。
……たしか、ロマーナの仲間たちのこと食べてしまったよな?
以前、仲間たちの復活は必要ないと言われたが、もしかして、どのみち復活させるのは無理だったんじゃないだろうか?
「イーターちゃん、私もぐるぐるして!」
時任の言葉を聞き、今度は時任に巻き付くソウルイーターを見ながら、わずかにまずいことをしたと思う。
契約の不履行は良くない。今は、ロマーナにその意思がないけれど、いずれ気が変わったとき、あなたの仲間の魂はありませんとなったら、それは裏切りだ。
「よし、専門家に相談するか」
ソウルイーターに、捕食されかけているように見えるウサギは放っておいて、俺はすぐさま彼女のもとへと向かうことにした。
◇
「ふひゃあ! お、推しが……目の前で……ファンサービスを……!」
なんか、変な叫び声をあげられた。
プネヴマに会いに行く道中で、フィオナ様に絡まれた結果、いつものごとくべたべたとうざ絡みをされ、そのまま訪れた矢先のことだ。
「どうしちゃったんですかね?」
「さあ……。まあ、プネヴマなので、気にしないことにします」
プネヴマ、奇行が目立つからな。
最初は心配していたが、なんか楽しそうだし、すぐに復帰するから問題ない。
なので、人の頭の上に顎を乗せないでください。
その体勢だと、後頭部や首あたりに感触が伝わります……。
「プネヴマが復帰するまで、お茶でもいかがですか?」
「ああ、ありがとう。エピクレシ」
「手伝いましょうか?」
「いえいえ。さすがに、魔王様のお手を煩わせるような真似は、できませんので」
そう言うと、エピクレシはお茶を淹れる準備を始めた。
……ねえ? なんで、プネヴマの口から出てる粒子を回収したの?
それ、入れないよね? いや、入れてもいいけど、危険じゃないよね?
◇
「ふぅ……。死ぬかと……思った……」
「落ち着きなさい。もう死んでいるでしょうに」
幽霊だもんなあ。
なんかやたらと不思議な甘さの紅茶を飲んでいると、プネヴマが意識を取り戻した。
恥ずかしそうに口元をごしごしと拭いているところを見るに、あの粒子はヨダレのようなものなのかもしれない。
……この紅茶に、入ってないよな?
「それで、お二人はどうしてここに? プネヴマへの褒美でしょうか?」
「いや、聞きたいことがあってきたんだけど……そうか。褒美か。今度用意しようか?」
「い、いえ……! すでに……いただきました……!」
なにを? 知らないうちに、フィオナ様が与えたのか?
この方、部下はしっかりと評価するし、そういうことをしていたとしても、不思議ではない。
「ということで、プネヴマは大丈夫です。いえ、もう手遅れなので駄目ですけど、大丈夫です」
それは、大丈夫と言えるのだろうか……。
まあ、本人もこくこくと頷いているし、親友の発言が正しいのであれば、気にしないでおこう。
「プネヴマって魂を管理しているだろ?」
「は、はい……」
「ロマーナの部下の魂って……わかる?」
「ああ、そういうことでしたか」
その発言だけで、エピクレシは俺が言いたいことを理解してくれたらしい。
カップを置いてから、こちらに向き合って説明してくれた。
「あの子の部下たちは、たしかにソウルイーターに捕食されました。ですが、その気になればアンデッド化も蘇生も可能です」
少しほっとした。
これで、いざというときに約束を破らずにすみそうだ。
「ソウルイーターって、やっぱりそういう名前というだけで、実際に魂に干渉はしていないってこと?」
なんか、自信たっぷりに巻き付いてきたが、あれは単に甘えてきただけなのかもな。
そんな考えを浮かべるも、それもエピクレシに否定された。
彼女は、首を横に振ってから、俺の疑問に答えてくれる。
「していますよ。干渉。あの子に捕食されると、魂が破損します。ですが、完全に消失するのではなく、一部を失うということです」
わりと、とんでもない力かもしれない。
フィオナ様とプネヴマ以外に、そんなことができそうな者はいないし、強力な力じゃないか?
「魂が破損した場合でも、再生ってできるの?」
「ええ。しょせんは一部を失っただけなので、いずれ時が経てば復元します」
軽い傷とかと同じか。
ソウルイーターでは、その程度の破損しかできないので、実際はそこまで影響がないらしい。
「ただ、魂が破損した場合、復元時に力の一部は失うので、蘇生するにせよ、アンデッド化するにせよ、弱体化は免れませんけどね」
要するに、勇者たちの死後のレベルダウンみたいなものか。
……勇者たちが、力を取り戻さなきゃいけないのって、そういう理由なのかな?
魂が欠けてしまい、修復するまでは弱くなっている?
つまり、修復する間もなく、勇者を殺し続けたら……。
「フィオナ様」
「はいはい。なんですか?」
相変わらず、俺に密着したフィオナ様が、骨伝導よろしく声を伝えてくる。
「勇者を殺して、蘇生後にまたすぐ殺して。これを繰り返したら、勇者の魂って殺し切れます?」
「ふむ……。理屈で言えば、可能かもしれませんね」
じゃあ、勇者の対策として、有用そうだな。
「ただ、勇者はその場ですぐには蘇生しません。女神の加護により、魂が安全な場所に転移し、そこで蘇生します」
「ということは、蘇生直後に殺すのは現実的じゃないですね」
「まあ、安全な蘇生先をこの世から無くせば、できなくはありませんよ?」
それは、世界征服したらということか。
……さすがに、女神にバレるな。
「あと、プネヴマであれば、ものすごく弱体化した勇者の魂の転移を妨害できるかもしれません」
「弱体化が必要なんですね」
「さすがに、そうでもしないと力が及びませんから」
「ということは、プネヴマを強化すれば……」
「ただ、そうなると勇者が蘇生しないので、女神にバレますね」
ま、そうだよな。
結局のところ、勇者に何かあれば女神が出てくる。
それを何とかできない限り、下手なことはすべきじゃないだろう。
「それにしても、よく知っていますね。もしかして、もう試しました?」
「ふっふっふ……。日頃の研究の成果です。私も、ただぐーたらしてるだけじゃありませんからね!」
意外にも、魔王らしきことはしていたんだな。
てっきり、ただのかわいい生き物かと思っていた。
「ま、結論としては、率先して倒さない。それに尽きます」
「でも、わりと向こうから来るんですよねえ」
放っておいてほしいよなあ。
どうやら今後も、勇者たちとは、戦うことになりそうだ。
いい加減うんざりして、俺が遠い目をすると、慰め代わりか、フィオナ様が強く抱きしめるのだった。
◆
「……」
「あら……? そういうこと……。ま、魔王ですものね。それくらいできても不思議でないわ」
殺す。
「……どうなるのかしら? このまま魂が損傷し過ぎたら、消滅するのかしらね?」
殺す。
「せめて、楽に殺してほしい……って言うまでもなく、一瞬だもんねえ」
殺し続ける。
魂というものが、朧気ながらわかってきた。
これで、勇者を完全に……。
「さすがに、それは見過ごせないわね」
「……なら、どうしますか?」
「勇者に肩入れするわ。いいの? あなたはともかく、あなたの部下たちは、二度と勝てなくなるわよ?」
その言葉を聞き、テンユウの魂を砕く直前で放棄すると、女神は忌々しい笑みを浮かべた。
「それでいいのよ。余計な手は煩わせないでね?」
ああ、あとどれくらい、こんなことを続けないといけないんだろう。




