第525話 期間限定という呪詛
「お前、また色々と好き放題してるらしいなぁ」
突然、そんなことを言われた。
失敬な、好き放題なんて……してるな。
だって、ダンジョンってそういうものじゃないか。
フィオナ様が、俺の好きにダンジョンを改築して良いって言ってたし。
なんでも試してみることが、俺の加護にとっても重要なことなんだ。
「してるな」
「そこで、ふんぞり返るんじゃねえよ」
自信を持っているだけじゃないか。
だいたい、俺が宰相として自信を持つように言ったのは、周囲のほうだ。
すなわち、ダンジョン作成のことも、みんなが認めてくれたということだな。
「あまり、ダスカロスやプリミラを、困らせんなよ?」
「そうだなあ。たしかに、最近は色々と作ろうとしすぎていたか。よし、新たな施設は、一旦作るのをやめるとするか」
「ああ。もう少し考えてからでも、遅くはないだろうなぁ」
「だから、ダンジョンを改造しよう」
「は? え……?」
実は、テイランの件の準備で、一つ気になっていたことがあったんだ。
色々と後回しにしてしまっていたが、今が絶好の機会なのでは?
「なんで、今の会話でそんな話に……。俺、お前のことが、たまにわからなくなりそうだよぉ」
「たまになら、まだまだ大丈夫だな」
「そうやって、譲歩するぎりぎりを見極めようとするところも含めて、わけわかんねえよぉ!」
アナンタが元気なのは、いつものこととして、今回は引き下がらないぞ。
というか、実験だけはすませておきたい。
なにも、ダンジョンに設置するとまでは、言っていないんだ。
俺にできることが増えるのであれば、悪いことじゃないだろ。
「くそっ、絶対開き直ってやがる!」
そんなことを言いながらも、アナンタは渋々とこちらに付き添ってくれるようだ。
よし、これで、何かあったとしても、冷静な意見を取り入れることができる。
「それじゃあ、始めるか。罠のアップグレードを」
「それ聞いただけで、もう帰りたくなるんだよなぁ」
ここがお前の家だ。
それとも、ガナみたいに、リグマの中に帰ろうとでもいうのか。
さすがにそこまで追い詰めたのであれば、多少は自重するけど、それはまた今度だ。
◇
「まあ、まずは岩だよな」
「だよなぁ。お前なら、そうだよなぁ」
「なんだ。アナンタも、わかってくれているのか。やっぱり、手始めには岩だよな」
「違ぇよぉ! お前なら、絶対そうするって思っただけで、賛同してねえからなぁ!?」
なんだ。岩の良さがわからないとは、それでも地属性か。
リグマを見習え。お前の本体だぞ。
「転がる岩作成。魔力多めに供給」
快復の湯で、本来必要な量以上に魔力を使用したら、快復の源泉になった。
もしもこれが、俺のこれまでのメニュー全てに適用されるのであれば、罠も施設も、モンスターさえも強化できることになる。
なので、まずは岩だ。作り慣れているし、変なことにはならないはずだからな。
「さあ、いったいどんな岩が……」
「普通の岩だな」
あれ? おかしいな。ちゃんと魔力は多めに注いだぞ。足りないか? じゃあ、二倍注いでみるか。
岩なら、消費魔力も少ないし、こういうふうにさらに多めに注ぐのもたやすい。
「普通の岩だな」
「いや、きっと何かが違うはずだ。心なしか、いつもより良い岩になっている気がする」
「絶対、お前の気のせいだ。……と言いたいけど、なんか、お前が言うとそうかもしれないって、思っちゃうんだよなぁ」
大きさは普通。じゃあ、落下速度?
試しに起動してみると、いつもの速度で落下した。重さも……変わらないな。
頑丈なのか? いや、そういうわけでもないか。
「絶対、なにかあるはず……」
「諦めろよぉ。いっそ、カールでも呼んで見てもらうか?」
「そうしよう。俺がわからないだけで、きっとこの岩には何かあるはずだから」
「お前がわからないなら、誰もわからないと思うけどなぁ」
諦めきれないため、ピルカヤを通じてカールを呼び出す。
カールは、今日はテクニティスとの共同開発ではなく、石の加工をしていたため、すぐに来てくれた。
事情を聞いて、すぐに岩を観察してくれたのはいいものの、言い出しにくそうに、しかし、はっきりと答える。
「普通の岩です」
「だろぉ?」
「おかしい……。何か見落としが」
ダンジョンマスターのメニューも、新しく増えてはいないし、本当に無意味に魔力を注いだだけか。
「割ったら、爆発とかしないかな?」
「お前の想像する岩は、なんか認識がおかしい」
ならば、次は火球だ。まだまだ、試すべき罠はあるからな。
落ち込まずに、一つずつ試していこう。
◇
「駄目だったか……」
「ま、まあ、そんなに落ち込むなよ……」
やばい、アナンタが優しく慰める程度には、俺はショックを受けているようだ。
だって、罠が全滅だとは思わないじゃないか。
罠だけじゃなく、モンスターも変わらなかった。なんか、スーパージェネラルゴブリンみたいなのできるかと思っていたのに、ステータスも含めて普通のゴブリンができた。
施設も同じだ。商店や宿、果ては人工海まで試したのに変わらない。
ならば、温泉だけが、特別だったということかというと、これも違う。
畑は、なんか大きな畑になったからな。大農園という名前で、プリミラが興奮するほどの成果は残せた。
「できるものとできないものがあるけれど、法則はなさそうだなあ」
「練度とかでもないだろうしなぁ。お前、死ぬほど岩使ってるけど、その岩が駄目だったわけだし」
こればかりは、もうどうしようもないか。
片っ端から試して、駄目なものは駄目。大丈夫なものは大丈夫。そう割り切るしかあるまい。
「あと、何を作っていなかったっけ」
「お前、魔力は大丈夫なのか? 無理してたら、ぶっ倒れるぞぉ?」
「回復しながら試しているから、平気」
それに、もうすぐ終わる。
くそぉ。あまり成果がなかった。プリミラが喜んだのは良いけれど、もっとたくさん強化する予定だったのに。
「あとは……宝箱くらいだな」
「呼びました?」
「呼んでいませんけど? ついに、魔王から宝箱になったんですか?」
「いえ、宝箱といえば、私の出番かと思いまして」
急に現れたフィオナ様は、俺のささくれだった心を癒すかのように、抱きしめながら頭をなで始めた。
……現金なものだな! これくらいで、さっきまでの失敗がどうでもよくなるなんて!
「よし、いつものレイですね。さて、宝箱ということであれば、私の出番ですね」
「いえ、何度言っても答えは変わりませんから」
「なで足りませんか?」
「そんな誘惑に負けませんから」
というか、期待しないでください。
これでいつもと同じ宝箱だったら、あなたが悲しむじゃないですか。
二人して気落ちしても、良いことありませんって。
こうなったら、ちゃちゃっとすませてしまおう。
そう判断して、俺は魔力を多めに消費してから、宝箱を作ることにした。
どうせ、蘇生薬は引けないだろうけれど、せめて喜んでもらえる物を引いてほしいな。本とか。
「あれ?」
「おや? なんか、いつもと色が違いますね」
形状こそは、大して変わりはしないものの、なんか色が違う箱ができた。
これは……。俺は急いでメニューを確認する。
すると、源泉や大農園のように、異なるメニューが現れていることを確認した。
叡智の宝箱作成:消費魔力 10
「フィオナ様。それは叡智の宝箱というらしいです」
「なるほど! では、蘇生薬が出ますね!」
どう結び付けたら、そんな結論になるんだろう。
叡智の欠片も見当たらない様子で、フィオナ様はさっそく宝箱に魔力を注ぎ始めた。
「開けてください」
「はい。えっと……」
中からは、大量の本が出てくる。
なるほど、知恵といえば本だもんな。フィオナ様も、ハズレではあるものの、まあいいかという顔をしているし、悪くない結果だ。
「なあ、それって、本だけが出る宝箱ってことか?」
俺たちから離れ、イピレティスと一緒に様子を伺っていたアナンタが、そんなことを言ってきた。
叡智……。つまり、本専用の宝箱? だとしたら、わりと悪くはないな。
外で仕入れずとも、本を無限に生み出せるのであれば、案外有用だし。
「ちょっと、開けてみるか」
フィオナ様は、すでに魔力がほとんどないので、俺が回復しつつ適当に開けていく。
すると、出るわ出るわ。本の山。
たまに、首飾りやら、ティアラみたいなものも出てくるし、魔法の杖や宝玉みたいなものも出ているので、完全に本一辺倒というわけではない。
だけど、明らかに本の率が高い宝箱だ。
「ふむ……。本は当然ですが、装備品やアイテムも、知識に関するものばかりですね。なるほど、それで叡智の宝箱ということですか」
あ、今度は叡智っぽい。普通にしていれば、相変わらず立派な魔王様だなあ。
そんな思いは口にせず、俺はフィオナ様と一緒に、宝箱の中身を整理することにした。
これって、もしかしたら、ピックアップ宝箱として利用できるのか?




