第524話 おすすめはフリスビー
「ねえ、ロペス」
「なんだ? タケミ」
「あれ、なんだろう」
「モンスター園らしい」
どうしよう。聞いても意味が分からない。
いや、なんとなくニュアンスは、わかる。
要するに、動物園のモンスター版ってことだよね?
「ハーフリングたちが、ご飯をあげてるけど、いつもはみんな食堂で食べるよね? あんなふうに、野性味あふれる食べかたじゃないよね?」
「あれは、パフォーマンスだな」
地底魔界。どこに向かっているんだろう……。
別に、モンスターたちとなら、いつでも触れ合える。
ということは、あれは、外向けの施設かな。
それじゃあ、一番気になること聞いていいかな?
「檻ですらないんだけど……。なんで柵? あの柵って、僕が知らないだけで、ものすごく頑丈なの?」
あの程度の柵じゃ、モンスターは簡単に壊せると思うし、そもそも飛び越えたり登れる者ばかりだと思うんだけど。
「あれも、パフォーマンスだな」
「そっか……」
僕は、深く考えるのをやめた。
きっと、レイさんも、何か考えあってのことだろう。
今までの施設のように、あれはあれで、成功するのかもしれない。
◇
「ロペスが、モンスターテイマーという設定で」
「やめておこうか」
「駄目か?」
「たしかに、これまでの転生者には、そのような力を持つ者もいた。そして、だからといって迫害されたりはせず、人類にとって、戦力として扱われていた」
なら、モンスターを操るからといって、魔王軍と疑われる心配は、少なそうだな。
だとしたら、ダスカロスに却下された理由は……。
「ロペスの能力は、確定させないほうがいいか」
「そうだな。今後のためにも、それが良いだろう。特にモンスターテイマーなどは、他の国も欲しがりそうだ」
それは困る。うちの従業員だぞ。
ロペスに抜けられたら、色々と破綻しそうだ。
あと、クララが悲しむ。
……いや、それどころか、ダークエルフを引き連れて、ロペスについていきそうだ。
「駄目だな。ロペスに抜けられると困る」
「ああ。だから、適当な者に……いっそ、今モンスターを世話している、ハーフリングの少女たちが、モンスターテイマーということにすれば、いいのでは?」
「魔王軍に引き込むってことか。ロペスの知り合いって話だし、勧誘する許可が出るか次第かな」
「彼から聞いた話では、商人には向いておらず、面倒を見ていた者も、将来を心配していたそうだ。ならば、就職先が決まるのは、喜ばしいことだろう」
いけそうだな。
よし、あとでロペスに話を通しておこう。
「ところで、レイ様」
「どうした? プリミラ」
「次の集客は、モンスター園で決定ですか?」
そこなんだよなあ。
正直、手探りでやっているだけで、どんな施設を作れば人気が出るかは、難しい。
何か良い案があるのならば、どんどん実行に移したいところだ。
「他に、良い案はある?」
「植物園は、いかがでしょう」
植物園かあ……。
口にこそ出さなかったものの、そんな態度は伝わってしまったらしい。
植物園のよさを、プリミラがプレゼンするかのように、説明してくれているのだが……。
「かつての密林の湯と同じ結果だろうな」
「う……」
そう。そこなんだ。
この世界、自然は溢れているからなあ……。
冒険者たちは、そんな場所で野宿すらしている。
ならば、街のすぐ近くに作るかというと、街から出た時点で、周囲は雄大な自然が広がっている。
「植物好きな客は、一定数集まりそうだけどな」
「あとは、研究者か」
研究か……。いっそ、そっち方面の客を集めるか?
だとしたら、あの畑のように、あるいは、あの畑を移転させて。
「薬草だらけの植物園でも作るか? あとは、うちの巨大フルーツとかも、見栄えは悪くないだろ」
「なるほど……。君の奇妙な畑であれば、従来とは一風変わった植物も、果物も作れるな」
慣れていたから忘れたけど、プリミラが育てた植物も野菜も果物も、全部大きいんだよね。
あと、薬草関係は、テンユウたちみたいに、調査に来る者もいるかもしれない。
「薬草園をメインにすれば、うちの畑の延長だし、負担は少ないと思う。最悪、今の畑を移転してしまえば、労働力を増やす必要もないし」
そう考えると、悪くはない。
手間は移転だけ。追加で必要な人員は、植物園の表向きの管理者や、受け付けだけ。
モンスター園よりも、低コストで運用できそうだな。
「じゃあ、そっちも並行して進めるか。プリミラも、それでいいか?」
「はい、さすがはレイ様です。あのダスカロスを説得してくださるとは」
「君、私をなんだと思っているんだ」
プリミラは、ほら。
たまに熱中したら、年相応になるから。ともすれば、無礼ととれる発言に、ダスカロスは呆れたようにため息をつくのだった。
「レイ。それなら、私にも良い案が」
プリミラの意見が採用されたので、近くで眺めていたフィオナ様も、手を挙げて参加してきた。
自信たっぷりだし、やはり、自分の得意分野をアピールするっぽいな。
「フィオナ様の案ですか……。大図書館とか?」
「それも良いですね。ただ、今は蔵書が不足しています。図書室にため込んでおきたいので」
それもそうだ。まずは、人類よりも魔王軍優先だもんな。
外向けに出せるような本は、うちには無さそうだ。
「宝箱園を作りましょう!」
「却下です」
「くっ……手強いじゃないですか」
なんですか、そのしょうもない施設は、喜びのダンジョンの最初の部屋で満足してください。
そもそも、そんなもの全て回収されるでしょうが。
というか、特にプレゼンする材料すらないのですか?
それら全てを一瞬で頭に走らせた結果。
俺が返せる言葉は、これだけだった。
「あなたが、雑魚なだけです」
「なにをぅ! 魔王ですよ!?」
そうですね。最強無敵の魔王ですね。
なのに、なんでこんなにも、強みも決めてもない、雑魚極まりない提案をするんですか。
「プリミラ、ダスカロス、どう思いますか!」
「仲がよろしいかと、存じます」
「そういうのじゃなくって!」
「提案そのものは、私も却下側ですね。それと、魔王様を雑魚扱いできるレイに、少なからず驚いています」
「言葉の綾だ」
さすがに、四天王や十魔将は、ここまで軽口叩けないだろうからなあ。
実際に強いことは、知っているよ? だけど、さっきのは、そういう強さの話とは、また別なんだ。
「ひとまず、私たちは薬草園の案を練ろう。レイは、魔王様と休憩するが良い」
「それなら、俺も」
「プリミラのあの楽しそうな姿を見ろ。私たちは、あれを邪魔してはいけない」
それもそうか。
口出しせずに、ただ、案を聞くだけになりそうだな。
だからダスカロスが、聞き手に回ってくれるということだろう。
「私は、プリミラの相手はできるが、魔王様を楽しませることはできない。適材適所だ」
「ダスカロスにも、できると思うけどなあ」
「そうですよ。自分の力をもっと信じなさい」
俺たちの言葉に、ダスカロスは、穏やかに微笑んで頭を下げた。
どうやら、これ以上は、本当に邪魔になりそうだ。
ならば、俺たちというお邪魔者は、二人仲良く退散しておこう。
◇
「宝箱園じゃなくて、ハズレが入ってた空箱でも並べたら良いんじゃないですか? 見た目だけなら、望んだ光景ですよ?」
「そんなもの、悲しいだけのハリボテじゃないですか!」
立ち去る二人の背を見て考える。
私たちが死ぬ前は、こんなに活気に満ちていなかった。
それは、私たちが、我を出さなかったせいだろう。
そして、傍らで、頭を捻らせる上司を見る。
うんうんと捻っては、何かを書いているようだが、なんとも、趣味に全力だ。
以前までは、このような姿は見られなかっただろう。
そして、魔王様が真に望んでいたのは、このような光景なのだろう。
「……私も、仕事抜きで全力になれる趣味でも、見つけるべきかもしれないな」




