第523話 得意分野はこちらで作ります
「悪いな、ロペス。また、お前に頼ることになって」
「なに、かまわねえさ。ただ、何度も言ってあるが」
「ああ。お前の商売のことは、他の誰にも漏らさせない。隠しておきたいことがあるんだろ? それをバラすほど、恩知らずではないさ」
「なら良いんだ。悪いな。念のため、確認は必要で」
店長、本当にあのロペスさんと、親しかったんだ~。
頭を下げながらも、気心知れた友人のような、やり取りをしている姿を見て、私は店長ってすごい人だったんだと驚いていた。
私と同じ境遇の、新人店員たちも同じようであり、みんな、店長を見直している。
「それじゃあ、お前ら、ここで学ばせてもらえ」
「はい! 目標は、店長の店を潰すくらい、成功することです!」
「俺に、何か恨みでもあるのかよ。お前は……」
あれ? 弟子が、それだけ成長したら、喜ばしいものじゃないの?
「なるほど、トキトウタイプだな」
ロペスさんは、そんな私たちのやり取りを見て、何か言っていた。
なんだろう。トキトウタイプって。
もしかして、大成するタイプかな!
「悪いな。こいつら、こんな感じだから、手を焼いているんだ。特に、今は忙しくて、面倒を見ている余裕がない。お前も忙しいとは思うが、頼めるとありがたい」
「構わないぜ。うち、残業禁止の職場だから」
え、わりと休めるの? やった!
働くのが嫌いというわけじゃないけれど、そればかりだと疲れるからね。
最近の店長、休みなく忙しそうにしているから、ロペスさんを見習えばいいのに。
「それだけ成功しているのに、いや、だからこそか。まあ、うちもしばらくしたら、お前のところみたいな方針にするさ」
「そのほうが良いぜ。疲れない、体を壊さない、といっても、どうしてもパフォーマンスは落ちるみたいだからな」
「へえ。実体験からか?」
「いや、医者から聞いた」
その後も店長は、ロペスさんと親しげに話を続けてから、もう一度私たちのことを頼むと言って、立ち去っていった。
さあ、新しい職場の一日目。気合を入れて、働かないと!
「さて、まずは、何ができるかだけど」
「なんでもできます!」
「私も!」
「任せてください!」
私に続いて、みんな同じようなことを言う。
みんなやる気はあるからね。しっかりと、ここで経験を積んで、独立して、大成功しなくっちゃ。
「へえ、優秀なんだな」
「将来は、大商店の店長になる予定ですので!」
それならばと、ロペスさんは、さっそく仕事を紹介してくれた。
わあ、入り口とはいえ、本当にダンジョンの中に入るんだ。
中には、商店に宿。あっちが、噂のカジノと人工海かな!
「とりあえず、カジノを手伝ってもらうか」
「ディーラーですね! 手先は器用です!」
「そりゃあ、良い。そうだなあ。試しに、カードのディーラーでもやってもらうか。ルールはわかるか?」
「もちろんです!」
一人、仕事が決まった。
「そんで、お前はルーレット。できるか?」
「できます!」
もう一人、決まった。
「お前はそうだなあ。ダイスを頼む」
「はい!」
私も決まった。
なんてことはない。あっさりと、みんな役割が決まった。
ここから、私たちの出世街道が花開くのだ。
カジノの主として……いずれ、有名なディーラーに。
◇
「では、いきます!」
「待て待て待て! まだ賭けてないぞ! 逸るな。ハーフリングの少女よ!」
あ、忘れてた。
ついつい、ダイスを振ることばかりを考えていて、お客さんたちのこと気にしてなかった。
「え~と、ベッティング終わったから。今度こそ……いきます!」
行け! 私のダイス!
……転がる。転がる。なんか、一個足りないね。
どこだろう? ……あ、さっきのお兄さんの顔に。
「も、申し訳ありません。リズワン様!」
「いや、良い。その少女、新人なのだろう? 失敗を糧に成長すれば良い」
すごい! なんで、私が新人ってわかったんだろう。
「ほら、あなたもちゃんと謝って」
そうだった!
ダークエルフのお姉さんに言われてはっとする。
私はすぐに頭を下げると、お兄さんは気にするなと笑ってくれた。
よし! これは、お詫びの意味も込めて、このお兄さんを勝たせないと!
「……私が代わろうか?」
「い、いえ! 大丈夫です! おかしいなぁ……。気合が足りないのかなあ」
「思うに、気合を入れすぎじゃないかしら?」
そうして、ダイスを振って、賭け金の計算を間違えて、なんなら渡す人を間違えて、ついには見かねたダークエルフのお姉さんが、私と交代してくれた。
くっ……。また、失敗しちゃった。
◇
「なるほどなあ。やる気が空回りしている」
「やる気だけは、あります!」
「何でもできると言っていたが、悪いが何にもできてねえなあ……」
うっ……!
せめて、心だけは、何でもできると前向きにしていたけれど、ここでも通用しなかった!
他の二人は……あ、おんなじっぽい。
「まいったなあ。ちょっと、ボスに連絡してみる」
そう言うと、ロペスさんは、魔法で通信をしているのか、その場で誰かと会話を始めた。
わあ、すごい。魔法までしっかりと習得しているんだ。
「そうだなあ。何事も雑用からだな。ちょっと、気が逸っていた」
雑用! 店長のお店でも、よくやっていたから、それなら役に立てるかも!
◇
「コ、コインが……コインが、そこら中に……」
「あ~。悪いなお客様方。すぐに片付ける。なんなら、数枚程度ならくすねてもかまわないぜ。掃除を手伝ってくれ」
コインをぶちまけて、カジノの床が一面キラキラと……。
◇
「宝箱……重いぃ!」
「こらこら、一度に何個も持たない。運べる数だけ運びなさい」
「はいぃ……あっ」
「まあ……中身には影響ないだろうけど、気を付けてね」
身体が小さい自分が憎い! もっとパワーがあれば、軽々と運べるのに!
◇
「そこ、間違っているね」
「え? あれ……? どこから、わ、わからない!」
「落ち着いて。時間をかけてもいいから、一つ一つ、しっかりと計算しましょう」
計算……ここでも、苦手だなあ。
店長のところでも、間違えてばかりで、ものすごい赤字かと思ったら、黒字だったこともあったし。
◇
「やべえ……。何ならできるんだろう」
わりとお手上げになってきた。
やる気はある。やる気は、ものすごくあるんだが、それに能力がついていっていない。
その結果、とんでもない空回りをしている気がするんだよなあ。
「どうだ? そのハーフリングたちは」
「ボス……」
「その様子だと、苦戦しているみたいだな」
そんなに、顔に出ていたかねえ。
しかし、実際問題、わりと参っている。
これが、態度が悪いとか、やる気がないなら、厳しくすればいいが。
足りないのは、能力だけなんだ。なんだか、昔のリピアネムの姐御のようだ。
物怖じせず、何でもこなすのは良いが、今のところ、何にもできていない。
彼女たちには、何が合うのか。
なるほど、あいつも手こずるわけだな。
「といった感じなんだ」
ついつい、ボスに話すと、ボスはしばしアゴに指を当てて、何かを考えているようだった。
「度胸はありそうだな」
「なんでもできる、とまではいかないが、なんでもやるやつらみたいだ」
「とりあえず、雑用として借りてもいいか?」
「雑用はもう試したが、荷物を運ぶ時に、全部ぶちまけてたぜ」
一度に何でもこなそうとするせいで、却って苦労しているようだからな。
「まあ、ものは試しに」
「まあ、ボスがそう言うのなら」
◇
「モ、モンスター! ええい、やってやろうじゃない! 」
「……ボス」
『ああ、見えている。わりと、適任じゃないか?』
たしかに、今までの仕事で一番役立っているけれど。
この悲鳴だけ聞いたら、餌にされているか、テストプレイをさせられているみたいだな。
「モンスターの飼育って、必要か? みんな、自分で飯食いに行くだろ?」
『ロペスの新たな商売として、安全なモンスターの動物園みたいなのを考えている』
初耳だけど!?
『そのテストも兼ねて、地底魔界と無関係な者が、安全なモンスターにどの程度の反応を見せるか、確認したかったんだ。あと、このまま餌をやれるなら、表向きの飼育員として、雇えそうだし』
「飼育は不要だけど、客に見せるなら、そこまで賢い姿を見せるわけにはいかないってわけか」
モンスターの動物園ねえ……。
いけるのか?
『クララたちに話を聞いたが、弱いモンスターは、たまにそうやって鑑賞されていたらしいぞ』
なるほど、すでに前例があったのか。
なら、問題なさそうだけど、ボス、また何かをしようとしているのか。
「餌をぶちまけても、モンスターたちはわりと気にしていないみたいだな」
『たまに、食べ物を床に置いて、あとで食べたりしてるからな。案外野性的なんだ。あの子たち』
ソウルイーターなんて、人間を丸ごと食べるしなあ。
行儀よく食事もできるし、野生のモンスターみたいに、そこらに落ちてる物も食えるのか。
『それに、あれはあくまでもパフォーマンスの食事だからな。餌をぶちまけて量が減ろうが、地面に落ちようが、あまり気にしないでもいい』
あとは、モンスターたちと触れ合えるやる気と度胸だが、あいつらそれだけは人一倍だからな。
だけど、もしもこれが天職だったとして、俺はかつての仲間になんて言えばいいんだろう。
モンスターの飼育が向いていると言えばいいのか?
それ、あいつの店に役立つかなあ……。




