第522話 信じて預けたら魔王軍になった
「なんでまた、レイちゃんさんになっているんですか?」
「魔王のセクハラのせい」
「な、なるほど」
それで納得する、時任も時任では?
いや、だいたい全部フィオナ様が悪い。
ついでに、言われるがままに、魔本を使った私も、ほんのちょっとだけ悪い。
まあいいや。私の性別が変わろうと、別に、業務に支障はないし。
「それで、俺たちは、いよいよクビにでもされるのかい? ボス」
「何!? 無職のヒーローというのは、体裁が悪い。いや、世の中には、ヒモのヒーローもいるかもしれんが……」
「違うから安心してくれ」
私の言葉に、ロペスはわりと、ほっとしている様子だった。
あれ、わりと本気で言っていたのか? いつもの軽いノリだったから、てっきり冗談かと思った。
「最近は、地底魔界の無駄を省こうと、色々と見回っていたところだ」
「それで視察に来ていたんですね。従業員の人たちが、ガチガチに緊張していましたよ」
そうだったか? みんな、テキパキと仕事をしているように見えたが、上の者がきたせいで、無駄にプレッシャーを与えてしまっていたのか。
私は宰相だし、他の二人も、四天王と十魔将だもんなあ。
「次からは、変装して行くか」
「真実を知ったときに、寿命が縮みそうだから、やめてやってくれ」
それもそうか。
いよいよ、社長や重役の抜き打ち視察みたいに、なりそうだもんな。
「時任みたいに、魔王軍に適応すればいいのに」
「柔軟な女。時任です!」
「この子は、なんかもうバグですから」
「江梨子ちゃん、ひどくない!?」
これはこれで、時任の才能の一つだもんなあ。
選択肢のおかげで、どこまで踏み込んでも良いかわかるためか、案外図太いんだ。こいつは。
そんな彼女の真似をしろというのも、さすがに酷かもしれない。
「まあ、各施設の管理者は、今のままで問題ないとして、従業員はどんな感じだ? 過剰だったり、不足したり、あるいは素行の問題とか」
私の言葉に、各々がしばし動きを止める。
天を仰いだり、あるいは視線を下に向け、指を顎に当て、自身の部下たちのことを、思い出しているみたいだ。
鳴神は、なんか腕を組んで仁王立ちになっているけれど、あいつ、ちゃんと考えているよな?
「獣人ダンジョンの商店は、人手が足りているから大丈夫です!」
「時任のところは、今は、カーマルとハルカ、あとは獣人とダークエルフたちだったな」
「そうですね。ハルカちゃんがいるので、私も怖い人に負けません!」
オーガのハルカは、護衛としても頼れるらしい。
ということは、人手不足は、モンスター生成でなんとかなるか?
いや、今は従業員というより、責任者のほうが欲しいし、一般の従業員も定期的に捕獲できている。
ならば、わざわざ生成する必要も無いか。
「だから、必要ならカーマルくんを、別のお店に配属させてもらっても大丈夫です!」
それは助かる。カーマルは、店の管理をできる貴重な人材だ。
時任のところにいなくてもいいのなら、新たな店を任せることも視野に入れておこう。
「大丈夫? 私もカーマルさんもいなくて、失敗しないかしら」
「私、二人よりも先に、あのお店を切り盛りしてたんだけど!?」
「案外、一人のほうが、うまくやれるのかもね」
それは、なんとなくわかる。かくいう私も、ダンジョン作りがそうだからな。
今では、自重をかなぐり捨てて、全てアナンタに丸投げしている。
しかし、アナンタも、プリミラも、ダスカロスも、いなかったら、こじんまりとしたダンジョンを作っていたと思う。
私が、好き放題作って、三人でバランスを調整する。それが、理想的なやり方なのだ。
「……レイ。何故か、私たちの負担が、増えたような気がした」
「奇遇ですね。虫の知らせと言いますか、私も今後の苦労を予感しました」
「大丈夫。二人の前に、だいたいアナンタが止めるから」
「……理解した。そういうことか」
「ええ。それなら、まあ……」
そんなに、わかりやすかっただろうか。
二人が心配そうに尋ねてきたが、被害は主にアナンタだから安心してほしい。
「奥居は?」
「私も、特に困ることはありませんね。ワタリだけでなく、オーガのみんなが手伝ってくれますし、プシシモさんの食事処も、ダークエルフたちがいるので、手は足りているそうです」
こっちも、問題無し。余っている様子もないので、案外きちんと人員配置できていたことに、内心で誇らしくなる。
「ロペスはどうだ? 悪いが一番絡まれやすい場所だけど」
「宿はリグマの旦那に任せられるようになったし、カジノに注力できてるから問題ないぜ」
「ウルラガは、復帰したけど、用心棒に不足は?」
「ウルラガの旦那で不足するなら、それこそ四天王を頼ることになりそうだからなあ」
それもそうか。
ロペスの現場は、クララが率いるダークエルフだけでなく、オーガたちもいるし、昆虫人もいる。
荒事には、わりと対応できるようになっているはずだ。
その後も、ロマーナの魔導映写館。世良の快復の湯。原の服屋。鳴神の喫茶店と聞いていくが、なかなかどうして、人員は過不足ないらしい。
マギレマさんのレストラン関係も、本店とガナが管理する出張店、どちらも上手くできている。
かといって、マギレマさんの店をこれ以上増やしても、あまり効果はなさそうか?
「そうだ、ボス」
これといった成果は無かったか、と気持ちを切り替えようとしたところ、ロペスが思い出したかのように発言した。
そちらに目を向けると、彼は言葉を続ける。
「人手といえば、前に俺がつるんでいたハーフリングが、新人たちについて悩んでいてな」
「新人って、最近捕らえた従業員たちのことか?」
「いや、俺がつるんでた連中は、こっちに所属しているわけじゃないから、あくまでもトルベリオの店での話だ」
ロペスがつるんでいたってことは、プリミラの畑に侵入して撤退したやつらだったな。
ハーフリングの国のトルベリオとは、ロペスがうまく交易を続けてくれているため、そこでのお得意様なのかもしれない。
「こっちで、助けるべき悩みか?」
「こっちにも、利点があるかもしれない悩みだ。新人たちを、可能なら、ここで働かせたいってことだからな」
「なるほど。従業員か」
トルベリオの、ロペスの仲間たちの店の新人ということは、接客系はできそうだな。
であれば、こちらとしては、受け入れることに何も問題はないが……。
「魔族のもとで、働くって、平気なのか?」
「だから、あくまでも表向きは、俺たちのもとで働くってことにすべきだな。他の従業員たちと同じで」
なるほど。ということは、俺は顔見せしないほうがいいか。
「かまわないぞ。いつでも連れて来てくれ」
「いいのか? 詳しいことを、連中から聞いてからでも、別にかまわないんだが」
「問題ない。従業員というのなら、何かしら役割はあるからな」
「適性があるかどうかとか、何ができるかとか見る必要は? もしも使い物にならなかったら、ボスも困るだろ?」
心配そうにロペスが尋ねるが、そのあたりはこちらは、まったく気にしていない。
うちもけっこうな大所帯になったからな。人材だけでなく、施設もそれなりに増えている。だから、きっと大丈夫だろう。
「何かしらの役割では、きっと役に立つ。それに、もしも何も向かないというのであれば、こちらが育てるだけだからな」
「……最終的に、全部駄目だった場合は、どんな育成プランを?」
「ハーフリングだし、店の金勘定か、接客か、品の補充か」
「よかった……。それなら、あいつらも」
「あとは、ダンジョンの罠の解除が可能か、テストを」
「絶対に、最初言っていた、どれかにしてやってくれ」
ハーフリングの特性を考えて、色々提案したのに、最後のだけ却下された。
なにも、ダンジョンのテストプレイをしろ、と言ったわけじゃないのに、なんだか納得いかない。




