第521話 きっととても楽しいひとときのこと
翌日も、ダスカロスとプリミラと、ダンジョン魔力のために話し合いだ。
昨日確認した限りでは、無駄な魔力はそこまでなかった。
「施設は問題なし。ダンジョンも問題なし」
「ああ。やはり、新たな導入を考えるべきかもしれないな」
「ダンジョン魔力の維持とは無関係だから、気にしていなかったが、うちの人材がどうなっているのか、改めて確認してみるか」
「君、凝り性だな。まあいい。従業員たちも、気を引き締めるだろう」
どうだろう。うちは、トップが、ゆるキャラだからな。
あの魔王様を見習って、みんなでゆるい職場にしていくべきでは?
「とりあえず、各職場の責任者に、色々と話を聞いてみるか」
「であれば、すでに業務が開始しているので、事前に知らせておいて、業務後に面談するのがよろしいかと」
「そうだな。さすがに、店の邪魔までしたくないし」
ということで、まずはピルカヤに頼んで、各施設の責任者、あるいは関係者に話を通しておいた。
その間に、どんな施設を新たに作るか、そこを考えておくべきか。
「何かいい施設。面白い施設……」
頭を悩ませていると、背中から抱き着かれる感触を感じる。
フィオナ様だな。どうやら、仕事中ではあるが、邪魔にならない程度だと判断したようだ。
振り返ると、楽しそうに微笑むフィオナ様と目が合う。
「悩んでいるようなので、癒しを与えてみました」
「つくづく、魔王とは真逆ですねえ」
「おや? 魔王らしい私のほうが、好みですか?」
どちらが好みということはないが、魔王らしいフィオナ様というのは、あまり想像できない。
初めて会ったころは、中身を知らなかったため、魔王らしいとも思ってしまったし、機嫌を損ねないようになんて考えていたが、我ながら馬鹿馬鹿しい。
「……」
「な、なんですか!? は、反逆!?」
試しに、いつも自分がされているように、頬を引っ張ってみたが、この程度の反応だもんなあ。
あ、さすがに反撃はされた。痛みを感じない程度に、互いに頬を引っ張っている状況だ。
こんな魔王様なので、怒るといってもこのくらいだ。
むしろ今だって怒っているというよりは、そういうパフォーマンスに近いしな。
「レイ様」
「あ、ごめん。フィオナ様に絡まれていた」
「私を見捨てるとは、それでも宰相ですか!」
そんなこと言ったって、さっきのやりとりは、プリミラにも、ダスカロスにも、見られていたじゃないですか。
俺がどう言い訳したって、二人には全て見透かされていますよ。
「私とダスカロスは、一旦失礼します。どの道、管理者への面談までは、しばらく時間が空きますので」
「あ、そうだな」
意外にも、プリミラは怒ることもなく、頭を下げて立ち去った。
ダスカロスも、それに続いたため、俺たちは二人、この場に取り残されてしまった。
「……二人とも呆れて、俺たちを見捨てたとかでしょうか?」
「ま、まずいですね。でも、レイが最近かまってくれないから、レイの責任でもあると思うんです」
「ガシャのために、色々と見なおすところがありまして」
こう言っておけば、フィオナ様もこれ以上追及できないだろ。
なんせ、あれだけご執心のガシャが原因なのだから。
実際、最終目標は魔王軍の蘇生であり、そのための資金繰りで忙しいのだから、嘘を言っているわけでもない。
「というわけで、俺は」
立ち去ろうとすると、がしっと腕を掴まれる。
なんだ? まだ何か、言い忘れていたことでもあったかな?
「うぅ……。いいでしょう! では、ガシャは諦めますので、私にかまいなさい!」
「えっ!?」
「な、なんですか? その驚きようは。そんなに意外なこと、言っていないでしょうに」
「いやいやいや。フィオナ様ですよ?」
「知っていますが!? 私自身のことなんですから!」
いや、本物か……?
まさか、ガシャより他の何かを選ぶなんて、偽物の可能性は……。
ないな。今日もいつも通り、とんでもない強さだよ。この魔族。
「フィオナ様。ガシャより大事なものあったんですね」
「なにをぅ!? あるに決まっているでしょうが! あなたが、ガシャ以下のはずないでしょう!」
……ま、ちょっと嬉しいけど。
不意打ちでそういうこと言うの、照れるからやめてほしいというか、別に嫌ってわけじゃないんだけど、恥ずかしいな。もう。
「というわけで、暇なら私にかまいなさい」
「暇ではないんですけどね」
「でも、ダスカロスとプリミラは、私と遊んでいても良さそうな態度でしたよ?」
そりゃあ、あなた魔王様ですし。
……と思ったが、あの二人なら、本当に邪魔してはいけないときは、魔王相手でも容赦なく叱るな。
まあ、実際のところ、忙しいのは業務後だし、今は何かアイディアをひねり出しているところだから、フィオナ様と戯れても問題はない。
「新しい施設について、何かないかなって考えていました。集客が見込めて、ダンジョン魔力が増やせそうなものです」
「なんか、アイディアが定まっていないというだけで、言えば作れそうなのが、すごいですねえ」
いえ、作れるかは、その後に悩むつもりなだけです。
方針を決めて、そこから試行錯誤するのも嫌いではないので。
「う~ん。海は作ってもらったので、山? ジャングル? 繁華街? 国立図書館?」
無理そうなのが多いなあ。
国立って、地底魔界は国なのだろうか? 繁華街は、そもそも人が足りない気がする。
ジャングルは……なんか、いけそうな気がしてきた。
温泉の一つに、それに近い環境もあったはずだし、そこからがんばれば、なんとか……。
「密林でも作りましょうか?」
「やはり、さらっとすごいこと言いますねえ」
施設を作るのか、ダンジョンを作るのか、どうにもこれといった案が浮かばないなあ。
行き当たりばったりで作るも好きだけど、今回ばかりはもう少し考えてみるとするか。
「よし」
「何を作るか決めましたか?」
「いいえ、何も思い浮かばないので、気分転換にフィオナ様で遊ぶことにします」
「私とではなくて、私でって言いましたね。今」
「いけませんか?」
「どんときなさい! 魔王ですからね。レイごとき、軽くひねってやりますとも」
それは実際にそう。
俺ごときが何をしようと、この方には決して勝つことはできない。
つまり、普段のやり取りも、こちらに気を遣ってくれているからこそ、なんだろうなあ。
「フィオナ様って、意外と気遣いできたんですね」
「魔王ですからね! 部下のことは、よく見ていますとも」
監視室でも作るか? いや、ピルカヤがいるから、そんなものも必要ないしなあ。
「釣り堀。スキー場。遊園地。カラオケ」
違うなあ。そもそも、釣りは人工海のほうでもできるし。
あそこ以上に盛況になるとも思えない。
こうしてフィオナ様とともに行動するも、たびたび思考が逸れてしまう。
最初は、そのたびに俺の頬をつついたり、腕に抱きついてきたりとしていたフィオナ様も、今はあまり気にしなくなっているようだ。
その代わりかどうかは、わからないが、あちらはあちらで、無言で俺で遊んでいる。
しまった。フィオナ様で遊ぶどころか、フィオナ様が俺で遊んでしまっている。
それでもいいか。そう思ってからは、なおのこと、ぼんやりと考えてばかりになるのだった。
◇
「なるほど。それで、性別まで変わったのですね」
「気分転換できれば、と思ったが、どうやら逆効果だったか」
そして二人と合流したとき、私は女体化していた。
途中から、本格的に考えに集中していたせいで、フィオナ様に何をされたか一部は覚えていない。
だけど、今思い返すと、あの魔王様、私にだいぶセクハラしていたよなあ……。
「ま、いっか。フィオナ様だし」
「君たちの関係にとやかく言うつもりはないが、それでいいのか……」
「お二人とも、楽しんでいるのですから、きっと良いのでしょう」
私は、楽しんでいないけどね!
フィオナ様が、勝手に私の色々なところをまさぐってくるだけだし!




