第520話 オオカミ少年の感謝
「まあ、各施設は、さすがに無駄と切り捨てることは、ないな」
「だろうな。魔導映写館、料理店、服屋、カジノ、海、商店、宿。どれも、客を呼び、魔力の収入源となっている」
「いっそ、新しい施設を、なんていうのも、いいかもしれないか」
「できるのか? いや……君なら、できそうだな」
まだ、なんのプランもないけれど、ダンジョンマスターさんをいじくり回せば、なにか結果を出してくれそうな気はするんだ。
「まあ、それは後回しにして、問題になるのは、やっぱりダンジョンのほうか」
無駄があるとすれば、そちらのほうが、可能性は高い。
一度作ってしまったダンジョンそのものは、仕方ないにしても、罠やモンスターによって、ダンジョン魔力を圧迫している可能性もあるからな。
「まずは、ゴブリンダンジョン」
転移陣に乗り、最初に作ったダンジョンへと移動する。
ここは、たぶん問題ないけれど、この際だから、全てくまなく目を通さないとな。
「侵入者は……」
『今なら、いないよ~。さっき、踏破直前で逃げ帰ったのと、油断して捕まえたので最後だから』
「そうか、それなら、遠慮せず見ていこう」
まずは入り口、他と違って施設はない。看板に引き返すよう書いているが、もう守る者はいないだろう。
だからといって、これを消去するつもりもない。一度作った以上は、魔力を浪費しないからな。
道を進んでいくと、分かれ道や部屋がある。
扉を開けると、ゴブリンたちがくつろいでいた。
しかし、すぐに俺たちに気付くと、駆け寄って頭を下げてくる。
「悪いな。休んでいたところ、邪魔をして」
気にするな、と言うように、ゴブリンは手を振る。
それにしても、なんか近いな。取り囲まれているようで、俺が冒険者だったら、そのまま襲われていたところだろう。
「侵入者が来たときも、そんな感じで適度に対応してくれ」
その言葉に頷いた彼らに見送られながら、先へ進む。
彼らは、もう死ぬことも少ない。
そのため、ここが無駄遣いということはない。
続いてボス部屋のほうか。
「侵入者がいないうちは、そんなに構えてなくて良いんだぞ?」
ボスたちは、先ほどと変わってボスらしい様子で、待ち構えていた。
先ほどのゴブリンたちは、生活感丸出しにしておいて、ボスは彼らの報告を受けるから、このように身構えなくてはならないのだろう。
だけど、それは侵入者が来てからでも良いのに、律儀なやつらだ。
「ボスたちは、さすがに死んだふりじゃないから、踏破されるたびに魔力は使う、と」
「だが、それは必要経費だな」
「ああ。あとは、あの岩の罠と宝箱、そして檻くらいか」
「檻も、宝箱も、必要なものなので、ここは無駄が一切ありませんね」
プリミラの言う通りだな。最初に作ったダンジョンなので、あまり手を入れていないから、ここは問題なし。
「次に行こう」
そうして、ゴブリンたちに別れを告げ、次は獣人ダンジョンへと転移する。
「ここは、それなりに死者も多いから、モンスターの再生成に魔力を食うな」
歩きながら、そんな話を続ける。
ここは、油の道か。最近じゃ、こっちを通る侵入者って、ほとんどいなくなったんだよな。
どうやら、危険すぎるらしく、アナンタが、撤去しろと言っていたっけ。
「この道……。もう、誰も通らないし、通るとしたら、炎が効かない相手だよな」
「そうだな。罠が起動しても、平然と進む獣人だけだ」
炎耐性が高い獣人の、ショートカットみたいになっているだけか……。
なら、いっそここは、撤去して、無駄な浪費をおさえるべきかもしれない。
「油の道と火球の罠を撤去して、ナイトメアシープでも置いておくか」
「眠らせるまでなら、それでもいいかもしれないな」
「ですが、眠っているところを、他のモンスターに襲わせるのは、よくありません」
……駄目か。なら、眠らせるだけに留めておこう。
油の道、火球の罠。消去、と。
「迷路は、今は定期的に作り替えているけれど、必要経費だよな?」
「はい。いつまでも同じでは、迷路の意味がなくなりますので」
迷路を進んでいると、バジリスクたちが寄ってきた。
飛びついてくる姿は、侵入者だったら恐怖したんだろうな。
俺には甘えているだけだから、むしろかわいいけど。
「この子たちも、逃げに特化しているから再生成はあまりしていないし、ここは変更なし」
続いてガーゴイルエリアだけど、ここは、さすがに戦闘も激しいからな。
倒されても仕方がないし、やはり無駄ではない。
「獣人ダンジョンは、無駄な罠の撤去くらいかな?」
「それがいい。こうして見ると、無駄は少ないようだな」
序盤のダンジョンだし、あまり手が込んでいないからだろうな。
なので、経費削減ができるのなら、この先からだろう。
「よし、欲望のダンジョンに戻るか」
今度はカジノや海ではなく、ダンジョンのほうが目当てだ。
このあたりから、アナンタチェックが実装されたため、わりと罠やモンスターが多めなんだよなあ。
「おっと、今日も元気だな」
ソウルイーターが、俺の存在をいち早く察して突進してきた。
直前でしっかりとブレーキをかけて、そのまま巻き付いてきたので頭をなでておく。
シャドウスネークや、コボルト、ヒポグリフたちも、持ち場を放棄してやってきたため、ついでにモンスターを数えておこう。
「今は、侵入者がいないので良いが、そうでないときは持ち場は放棄しないように」
みんな理解しているらしく、ダスカロスの言葉に素直に頷いている。
ダスカロスのほうも、彼女たちが、しっかりとわかっているからこそ、それ以上は何も言わないのだろう。
「モンスターは、過剰か?」
「いや、アナンタが、がんばったからな。適切な数だろう」
じゃあ、ここも削減はできないか。
あとは罠を見ながら歩いて……なんか、ラッシュガーディアンが、押してくれる。というか、乗せてくれた。
歩かずに見回れるので、便利だな。これ。
「温泉を撤去するか」
「その場合、難易度は上昇する。先ほどは適切と言った、モンスターの数を減らせるな」
「その場合、どの子を減らすべきか」
「後でまとめておこう。休める者たちが偏らないよう、ローテーションで出撃させるべきだ」
「ケルベロスたちは?」
「超位モンスターは、やめておきなさい」
ふむ……。やはり、なんでもかんでも仕掛けすぎたかな。
そのせいで、難易度が上がり、それを緩和するために温泉を作って、維持のためにルトラが苦労している。
ダンジョン魔力に直接は関係しないが、これでモンスターの数を減らすのなら、再生成の浪費が少し減る。
「う~ん……思ったより、大きな無駄がないな」
「アナンタが、がんばっていますから」
あいつ、すごいなあ。
無駄なく、バランスも良く、そんなダンジョンを作ってくれていたとは。
後で会ったら、感謝しておこう。
「次は喜びのダンジョン」
「そこが一番悩ましいな」
「やっぱり?」
実は、俺もそう思っていた。
侵入者ごとに、宝箱を大量に作成し、モンスターたちもやられることが多く、罠もかなりの数を使用してしまう。
「あそこ、廃棄することになるのかなあ」
人気ではある。だけど、他と違って運用コストが非常に高いのだ。
であれば、あのダンジョンを放棄するのが、一番無駄がない。
「いや、あれはあれで良いものだ。人類の中でも戦える者の多くを、あそこに釘付けにできている」
「その中に、テンユウのパーティメンバーもいますからね。下手に廃棄するのは、おすすめしません」
なるほど、足止めになっている、と。
たしかに、同じような顔ぶれも多いからな。
たびたび、アップデートをするからか、今もなお楽しんでいる者は多い。
コストこそかかるものの、あそこはあそこで、安易に廃棄するのも違うみたいだ。
「君の場合、減らすのではなく、増やすほうがいいのでは?」
「ダンジョンを?」
なるほど。魔力のことばかり考えていたため、つい無駄を減らすことばかりだった。
だけど、人類をおびき寄せることに成功すれば、黒字にできれば、ダンジョン魔力は自然と増えるか。
であれば、そちらの案を考えてみるとしよう。
◇
一応の方針も決まったころには、すでに食事の時間となっていた。
ついでなので、三人で歩いていると、見知った顔が同じ場所を目指して歩いている。
「あ、アナンタ」
「おう、三人とも食事……」
なんでそこで黙るんだ?
「この三人がいて、俺がいない。……なあ、レイ。俺に隠れて、変なダンジョン作ってないだろうなぁ?」
「いや、それは」
変ではないけれど、これから作る予定だ。
ああ、それで思い出した。アナンタに日頃の礼を言おうとしていたんだ。
「アナンタ」
「お、おう……」
「いつも助かっている。ありがとうな」
「お前ぇ! 今度は何をやらかしたんだよぉ!!」
なんか、感謝したら怒られた。
どうしたっていうんだ、いったい。
興奮するアナンタは、ダスカロスとプリミラになだめられ、連れて行かれた。
仕方ない。一人で食事を……。
なんか、キョロキョロしているフィオナ様がいるし、せっかくだからフィオナ様と食べるとするか。
そう考えながら、俺は食堂の中へと入るのだった。




