第519話 ビー玉みたいな目で企む断捨離
「実際のところ、今のダンジョン魔力って、どうなっているんだ?」
リグマがそう尋ねてきたのは、フィオナ様と別れてダンジョンを進んでからのことだった。
おそらく、フィオナ様が一緒にいたら、またガシャをねだられるので、気を遣ってくれたのだろう。
「そうだなあ。さすがに、枯渇したってわけじゃないよ」
「だろうな。レイくん、魔王様と違って、考えなしに散財しないだろうし」
わかっているじゃないか。
俺のことも、フィオナ様のことも。
まあ、さすがのフィオナ様も、考えなしに使い切るのは、ごくまれにだ。
そう。ごくまれに、そうしようとするので、俺たちが止めているのだ……。
「ただ、テイランの国民を治療するときに、さすがに蘇生薬を使いすぎたのも事実だ」
「だろうなあ。まさか、何十人も蘇生するなんて、レイくんのこと、まだまだわかってなかったよ」
「俺だって、ちゃんと使うときは使うんだぞ。溜め込むばかりじゃないさ」
「そういう意味じゃないんだけどなあ……」
あのときは、本当にふだんの節制が嘘のように、一気に使いすぎたからなあ。
だが、そのおかげで、テイランでの治療はかなり順調だった。
それに、何よりもフィオナ様の望む、かつての魔王軍の復興に近づけたので、決して悪いことではない。
「そんで、次はテクニティスと、ラプティキと、イピレティスか」
「そうだな。全員、そんなに部下がいるとは思わなかったから、また魔力を溜めるところからだけど」
「溜めればなんとかなっちゃうの、やっぱりやばいよなあ」
ダンジョンマスタースキルさんは、魔力さえあれば応えてくれるからな。
影冠樹にみんなの魔力を溜めてもらって、ということも考えたが、それでは一万までけっこう遠い。
フィオナ様が毎日溜めれば、その限りではないが、あの方には自分でガシャを楽しんでもらいたいし、やはり俺は別途ダンジョン魔力を溜めたほうが良いだろう。
「まあ、ほうっておいても、各店舗の入場客のおかげで、いずれは溜まるんだけどね」
「マギレマのところが、一番稼いでるんだっけ?」
「あそこやばいよ。一日に、どれだけ客が来ているんだって、毎回驚いている」
ダンジョン魔力も、マギレマさんのおかげで一気に増えるし、通貨もどんどん増えているからな。
今では、その通貨だけで食材を賄えそうだし、彼女が店を開けば、ダンジョン関係なしに成功したと思う。
ただ、ダンジョン魔力が一気に増えるといっても、大所帯となったダンジョンは、日々の整備だけでけっこうな魔力が必要になる。
「う~ん……。ダンジョンの見直しが必要か? あまり魔力を食うようなら、削減するとか」
でも、どのダンジョンも、色々と知恵を絞った結果だし、失敗というわけではない。
なので、できることならば、取り壊しとかはしたくないなあ。
「別に、なんでもかんでも削減する必要は、ないんじゃねえの?」
「だけど、無駄はよくないし」
「そうかねえ。おじさんは、無駄と余裕は別物だと思うよ」
余裕? どうだろう。たしかに、ダンジョン全体で見れば、けっこうな黒字ではある。
だけど、その浪費の多いダンジョンがなければ、もっと黒字になるのだから、やはり無駄なのではないだろうか。
「無駄だと思っているダンジョン、色々と実験したり、施設や罠を作ったり消したりしているところだろ?」
「まあ、そうなるな。だけど、そんなことしないで、安定させればダンジョン魔力も、もっと」
「実験のための資金は、無駄だからと削っちゃ駄目でしょうが。そもそも、熱量変換室だって、レイくんが言う無駄から生まれたものだ」
たしかに、あれの発端は、試しに施設を作ったところからだったな。
であれば、そういった冒険心を無くしてしまうのも、またダンジョンのためにはならないか。
「難しいな。そうなると、どこから費用を捻出するか」
「まあ、実際に見直すこと自体はありだと思うぜ。本当に無駄なものがあるなら、そこは容赦なく削っていいだろうし」
「それが一番かもな。まずは、何が無駄なのか、何が余裕なのか、洗い出しをしてみよう」
となると、ダスカロスには、ついてきてもらいたいか。
あとは、できればプリミラにも、意見をもらいたいところだ。
よし、ダンジョン内の視察といこうじゃないか。
◇
「よ~し、今日も無理せず、がんばろうぜ」
「君、気を抜きすぎじゃないかい?」
一応ここの責任者なので、朝から従業員に向けて軽く話をしていると、隣に立っていた女王様があきれ顔を浮かべた。
いやいや、無理はよくないだろ。何も手を抜けとは言っていないんだ。
それに、最近の問題がすべて解決したし、しばらくは適度に、肩の力を抜いていいだろ。
「魔王様の接待も成功した。ここを嗅ぎまわるルイスも、もういない。となると、のんびりやろうじゃねえの」
「まったくもう。知らないからね。あとで焦ることになっても」
「へいへい」
返事まで雑になったためか、女王様はため息をついた。
まあ、仕事は真面目にやるけどな。うちの従業員たちも、そのことは重々承知している。
だから、朝のミーティングなんて、この程度のゆるさでいいのさ。
「さて、まずはスロットの魔力を注いでくれ」
ダークエルフたちに指示を出す。
魔力の無駄遣いということもあり、スロット類の魔力で稼働しているものは全て、営業時間外に魔力を入れていないからな。
静まり返っていたカジノに、賑やかな音が差し込まれる。
もうじき仕事が始まる、と気分も切り替えられるというものだ。
そんなふうに準備が完了したら、昆虫人が表情を変えずに近づいてきた。
彼女たちから、こちらに話しかけてくる。ということは、何かあったということだな。
雑談とか、一切しねえからな。そのため、必要な報告のために、来たのだということがわかる。
「どうした? 機材のトラブルでも起きたか?」
さすがに、まだ客もいないから、あるとしたらそのくらいか。
であれば、故障した機材は回収して、テクニティスの旦那に預かってもらうのがいいだろう。
あたりをつけて、対応方法を考えていると、昆虫人の女性は淡々とそれを告げた。
「宰相様ガ、イラシテオリマス」
「そうかい。じゃあ、会いに行ってくる」
ボスが? 何かあったか? それとも、ふらりと寄って遊びに来たか?
幸いまだ開店前だし、ボスを優先することはいくらでもできる。
軽い気持ちで会いに行くと、ボスはなんだか物々しい雰囲気で店内を見回っていた。
「……女王様。ボスは、一体何を?」
「視察みたいだね」
……珍しいな。
今までは、俺たちを信用してくれていたため、そういったことはしてこなかった。
ボスの後ろに、ダスカロスの旦那と、プリミラの姐御もいることから、どうやら本気だということは伝わってくる。
「機材が多すぎるか?」
「いや、カジノは盛況だ。減らしてしまうと、客足が減ることにつながる」
「じゃあ、従業員は?」
「たしかに、今は過剰になってきているかもしれませんね」
なんか、リストラの方向に話が進んでいないか?
……やべえ。相手はボスだぞ。そうと決断したら、情け容赦なくクビを切られる。
どうやら、俺は少しばかり気が抜けていたようだ。
「よし、今日も無理せず、全力で頑張るぞ。お前ら」
「君、言っていることが、さっきと違わないかい?」
「何を言っているんだ。俺は、いつだって真面目に全力だぜ。女王様」
「はあ……。それでいいよ。君がクビにでもされたら、私だって困るんだからね」
表情を変えず、淡々と店内を見て回るボスたちの邪魔をしないよう、俺たちは今日も真面目に働くことにした。




